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カサンドラ 〜背中合わせで生きる

最近ふと目にした記事をきっかけに、"カサンドラ症候群"を知った。調べれば調べるほど、私とパートナーの関係に似ている。長いあいだ悩み続けていたことが解き明かされていくようで、いくつもの記事を読んだ。
彼は精神科の通院歴はあるけどアスペルガー症候群とは診断されていないし、私には何の専門知識もない。だからこの後に書くことは、あくまで私とパートナーの個人的な話。

結婚して最初に困難を感じたのは、帰宅時間の連絡のこと。何時に帰ってくるのか、夕食を食べるのかどうか、の連絡がうまくいかない。
まず、そもそも連絡が来ない。私は夕食を作って待っている。こちらからメールをすると「今日は遅くなります」と返事がくる。何時に帰るのか、は書いていない。実際に帰ってくるのは朝方か私が仕事に出ている日中で、仕事のある平日は毎日この調子だった。何時に帰るのか連絡をしてほしいと話しても、待っている側の気持ちが分からないようだった。分かったと返事をするだけで何も変わらず、3日間帰って来なかったこともあった。職場がブラック過ぎるのかと心配もしたが、数回転職してもたいして変わらなかった。理由はよく分からない。しつこく尋ねると「会社で寝た。」「車で寝た。」とか。
…毎日?

彼は、これ以上の説明も言い訳もしない。帰りたくなくなる原因が私にあるのか、何か理由があるのか、信じるべきかどうか、何年もの間ずいぶん悩んだ。他人に相談すればもちろん「何で?」「どこで寝てるの?」「彼、家に帰りたくないの?」となる。私は、分からないとしか答えられない。
彼とのコミュニケーションがうまくいっていないことと、彼以外の人にも心を許せないことは別々の問題だと考えていた。家族の絡んだ悩みは他人に理解してもらうのは難しいし、聞いても楽しい話じゃない。いつしか自分のことさえ話すことを止めてしまっていた。でも、「話しても結局は理解してもらえない」という経験の積み重ねが、少なからず影響していたのかもしれない。

私は専門家ではないので、カサンドラ症候群についてここで詳しく説明するつもりはないけれど、「パートナーとの関係性に辛さや困難を感じ、周囲にも理解してもらえない状態」は、結婚して十数年という長期にわたっている。出産をきっかけに関係はますます修復が難しくなっていった。家の中で私は子育てに四苦八苦しているのに、彼は外出から帰って来るとよく、家に入らずに窓の外から家の中を眺めていた。あの寂しさは、忘れられない。

たとえば理由の分からない不調や痛みに長年悩んでいて、やっと病名がはっきりした時のように、今の私はすっきりしている。いろいろ調べるうちに決めたことがある。もう彼に理解や共感や感情表現を望むのは止める。よく、夫婦は向かい合うより並んで同じ方を向くのがうまくいくと言うけれど、私たちは背中合わせがいいと思う。近くにいても、お互い別々の世界を見て生きていく。理解も共感は望めないけど、背中を預けることは今でも出来る気がする。心の境界を溶かして想い合うことは出来なくても。

カサンドラはギリシャ神話の登場人物。
神話や昔話には、黄泉の国からの帰り道に振り向いたらいけない約束とか、夜になると灯りがついて物音がするのに覗いたらいけない部屋とかが出てくる。彼に理解や共感や感情表現を望むのは、それに似ている気がしている。今、とても寒々しい場所に立っていることは自覚している。どこまで行けるだろう。私だけの生きる時間を大切にしていこうと思う。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/カサンドラ症候群

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