ジャンクフード(短編小説)

季節めぐりゆき、人恋しい秋の乾いた風が吹いてる頃、雪貞順之助は塾帰り、自転車を走らせていた。
通りすがりのたこ焼き屋の屋台から、いい匂いがしてくる。
順之助は、夜食にたこ焼きを買って帰ることにした。自転車を止めて屋台へと近づいた時、足元に、うさぎのぬいぐるみが落ちているのを発見した。
こんな所に、誰かの忘れ物かなあ、と順之助は思ったのだが、その時、幼稚園位の女の子を連れた親子がやってきて
「あ、あったわよ。ピョンちゃんのぬいぐるみ」
と、うさぎのぬいぐるみに駆け寄ってきた。
順之助は、親子の落し物かあ、とたこ焼きを買っていると、親子が
「平次郎さん、いつもここのたこ焼き美味しかったのに、今日で店じまいするなんて寂しいです」
「おじちゃんのたこ焼き、大しゅき」
と、たこ焼き屋の屋台の店主と話し出した。
順之助は店主に話しかけた。
「今日で、ここ店じまいなんですか?」
「そうなんじゃよ。実は妻が、大川翔太のメジャーリーグの大ファンで、アメリカに野球を見に行くために、もうそろそろのんびりした生活をしないかと言われてねぇ。おじさん、ここで40年たこ焼きを焼いてて、常連さんもいっぱい居るんだよ。あんたみたいな学生さんから会社員の人から主婦の方からたくさん居たから、寂しいけど」
「みんなのおじさん?」
「そうそう、お客さんの成長も見届けて来たよ。でも、アメリカに住んで、たこ焼きの屋台でもしようかと思って、妻に笑われてるよ」
「そうなんですか?今日は、帰り道を変えてみて初めて見つけたたこ焼き屋なんです。最初で最後のお味、10個入りの買って帰ります」
「ありがとね」

順之助は、帰ってから母に
「たこ焼き買ってきたよ、なんだか、せつなかった」
とゆうと
「ありがとう。美味しそうなたこ焼きね。そうそう、今日、大川翔太、またホームラン打ったのよ」
「大川翔太フィーバー凄いなあ」
順之助がテレビに目をやると、アナウンサーが
「大川翔太選手のホームランに会場は凄い盛り上がりでした。皆さん、球場でなにか腹ごなしの食事を持っている模様です」
順之助の、たこ焼きが、切ない日だった。


おしまい

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