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〆鯖のちょっとだけ怖い話

あれは小学生のときのことだった。
もうすぐ雛祭り、という、うららかな春の日。
女の子がいる家では珍しくないように、私の家でも雛人形の準備をしていた。

春と言っても夕方ともなるとかなり暗く、雛壇が置かれた座敷には、蛍光灯の人工的で冷たい光だけが灯っていた。
ただただ、静かだった。

そのとき、自分以外の家族はその場におらず、私は一人で妹の分の雛人形を準備していたと記憶している。
ただ、ある程度の準備は母親と済ませていたため、あとは人形に小道具をセットすれば完成、という段階だった。

さて、人形の一体一体に小道具を持たせていき、いよいよ五人囃子の順番である。
五人囃子は、名前はよくわからないのだが、頭に帽子のようなものが載っている。
まずは、それを被せるところから始めようと思った。

私は人形を収納してあった箱から帽子を取り出し、五人囃子に装着するため、美しい御髪に厳かに触れた。


ずれてしまった───。



ヅラが、ずれてしまった。
知っているだろうか、雛人形の頭髪ってヅラなのだ。
いや、もしかしたら植毛されているタイプの雛人形もあるのかもしれないが、少なくとも妹の雛人形はヅラだった。
ヅラを接着剤で留めているのである。

どうしよう、とんでもないことをしてしまった。
日本人形の怒りに触れたかもしれない。
私は呪われてしまうのだろうか、、、。

安心してください、今日も元気に生きてますよ。

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