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鍵をめぐる戦い

学校のアクティビティの一つの遠足は、ニームのコロセウム、 メゾン・カレ(ローマ神殿)、植物園、 Pont du Gard(ローマ時代の水道橋)、途中アビニョン辺りのブドウ園で止まってお土産を買うと言う行程だった。

バスでは同じクラスの韓国人の女の子と隣り合って座った。彼女は日本に友達が居て、神戸に何度か遊びに行ったことがあると日本の話をフランス語で頑張って話してくれた(エライ!)

同じバスに日本から来た、他のクラスの女の子達が2、3人いて、少し仲良くなって日焼け止めなんか貸りっこしたが、他の生徒達は基本それぞれの他国から来ているので、その内グループを作ることなく、ぐちゃぐちゃに行動することとなる。

ポンデュガールはローマ人が作った紀元前1世紀に建てられた水道橋。
大きいな〜!とは思ったが、とにかく日差しが眩し過ぎて、この時点で紫外線と乾燥で眼がシバシバして開けているのも辛く、他の子たちのようにサングラスを持って来なかったのを悔やんだ。

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橋の麓で半分水着になって水浴びして涼み、アビニョンのお土産屋さんで買い物してると、学校スタッフのお姉さんに「アナタの足…!」と足元を見て驚かれた。

「えっ?わたしの足?」

何事かとサンダルの足元を見たが、いつも通りの何てこと無いちんまりした足である。

お姉さんが口をあんぐり開けて
「凄く…小さい…。サイズいくつ?」と聞いてきた。

私「えっサイズ?36かな?(日本サイズ23㌢くらい)」

「ハァー?trente-six〜36ですって!?」

私「(焦、汗、何か問題が?)一般的フランス女性は何サイズくらいなの?」

「42 ou 43(26か27㌢よ)」

側にいた日本人男性が僕も42ぐらいです、と言ったのでイメージ出来た。
スタッフのお姉さんはハァ〜びっくらした、と言った風に頭を振って場を離れで行った。
アジア人女性の足が小さいのがかなり衝撃だったらしい。
もしや纏足と思われたのだろうか…!?


友達が増えて楽しかった遠足の後、いつものようにオリビエのところに鍵を取りに行った。

「Salut, mitsuyo. Tu t'es bronzée un peu」
(やぁ、ちょっと日焼けしたね?)

「Oui, 水道橋の下で水浴びしたから」

「Oh!Baigné!(水浴び!)ぱちゃぱちゃ!」(両手で水を弾くしぐさ)

パスカルは私が新しい単語を使うと、いつもちょっとからかった。

前日の午後、アパートの電話が鳴ってドキドキしながら受話器を取ると、フランソワーズという女の人からパスカルはいるかと聞かれた。

きっとカフェの仲間だろうと思い、"パスカルはオリビエの家です"と彼女に伝えたことを話した。

2回位彼の留守中にかかって来たので、居候としてはなんだか気まずかったのだ。

するとオリビエが何故だか笑いを噛み殺している。

パスカルがああ、分かったよ…と、きまり悪そうに目を泳がしている。

「フランソワーズて名前の人よ、彼女に電話した方がいいと思う。2回も電話があったから。電話、2回」←初級フランス語なので直球的会話となる私。

「…分かった、分かったよ。…もういい!」

オリビエがお腹を抱えて笑っている。

…!あっ フランソワーズってパスカルのママン?電話の声だけだと気付かなかったけど、そう云えばパスカルのママもフランソワーズさんだった。

オリビエが笑いながらパスカルの肩を叩いてる。でもねぇ何度も電話して来たんだからちゃんと伝えないとね…。
結構ママっ子なんだな。パスカル。

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連日の暑さの中、辛抱強く彼らの事務所に鍵を取りに来ていた私は思い切って疑問をぶつけた。

「パスカル、あの…一つ質問。鍵について」

「鍵?何かあった?」

「アパルトマンの鍵は…一つだけ?コピーkeyは無いの…?」

居候の身分で聞き出すのは、かなり勇気が要ったが、たったひとつの鍵の為に自由に家に出入りできないのは辛くなってきていた。
毎日オリビエのところに鍵を取りに行くのも、そこに入り浸ってるアンヌ・ソフィーにジロジロ見られるのも何だかきまり悪かった。

アンヌ・ソフィーはオリビエの彼女なんだよ、と家に帰った時にパスカルの口から聞いた。

へえ〜…

別段驚きもしなかった。いつも何故だかオリビエの部屋にいたから。
ただ秘密の関係とは知らなかったので、彼女の妹ガエルとその彼のクリストフと夕食を食べていた時に
「アンヌ・ソフィーはオリビエのpetite amie(恋人)なんでしょ?」
と二人に向かって聞いてしまった。

ガエルはポカンとして、そうなの?とクリストフに聞いた。
クリストフもオリビエの仕事仲間だけれど、初耳らしく、彼も首を振ってからパスカルの方を向いて、そうなのか?と聞いた。
パスカルはその時も目を泳がせて、さあ…僕もよく知らないとシラを切っていた。


「mitsuyo、悪いけど鍵は一つしかないんだよ」


悪びれもせず、堂々と答えられ目眩がした。

「鍵がもう一つ必要かい?」

「…出来れば…。学校からここまで遠いのよ。モンペリエは暑いし…」

「紫外線で目が赤くなってるよ。サングラスか帽子被った方がいい。鍵は貰えるか明日アパートの管理人に聞いてみるよ」

…えっ? 聞くって、今から聞くの⁇


そもそもメール交換してた時に、NO problem、NO problem 、welcome welcome招待するよ!と言ってたのは何だったんだろうか…。

段々と母国語でない国でストレスが溜まり始めていた私は、パスカルに対しても苛立ちが募り始めていた。


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