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パリの優しいひとたち

モンペリエからパリに向かうTGVでグシャグシャに泣いたあと(アビィニョン辺りでは泣き止んでいたと思うが…)隣合わせたドイツ人の女の子に慰められているうちに、バカンス客でごった返すパリ・リヨン駅に到着した。

ドイツ人学生はヨレヨレに泣き腫らした私に、パリで知人がやっているヨガクラスに一緒に行かないか?としきりに誘って来たが、私が日本では大学生ではなくブティックの販売員だと知ると、急に手のひらを返し、サッサと列車から降りて行った(職業差別反対…)

どのみち週末は時間が限られているし、キャロルやピノさんと過ごす事になっていたのでヨガをやってる場合でない。

やれやれ…とホームに降り立ち、改札方面に向かってスーツケースを力無く押し始めると、笑顔で手を振るキャロルの姿が見えた。

ホッとしてケースをゴロゴロ言わせ小走りで駆け寄る。

6月に日本で一度会ったきりだけれど、ロランと一緒に原宿、渋谷で回転寿司と日本酒を呑んだ仲だ。
アウェーだった場所からホームが一気に近づいた様で嬉しかった。

挨拶のビズをしようとしたら、逆にペコペコ会釈をされて笑ってしまう…
ビズも南仏とパリでは回数が違う。

「ごめんなさい, midi(南仏)はビズ3回だったわね。
Tu as fait un bon séjour?いい滞在だった?midiはどうだった?」

金髪に近い栗色ショートヘアで、キャミソールに膝丈のスカート、ミッフィーの可愛いトートバックを持ったキャロルは、南仏の女の子ほどセクシー過ぎず、清潔感があって安心させる雰囲気がある。

「色々と厄介なことがあって…でも学校は楽しかったかな…」

キャロルのアパートに直行するのかと思ったら、友達のfête(ホームパーティー)に行こうと言う。

「えっ、でもスーツケースもあるし迷惑じゃない?」
「大丈夫よ、今日は友達の引越しパーティーだから色んな人が来るの。フランス語マスターした日本の女の子は間違い無く歓迎されるわ」
「……」(全然マスターしてないよ…)

長蛇の列のタクシー乗場で順番待ちをしながら、訥々とモンペリエでの出来事を話した。

キャロルはパスカルとママの関係をエディプス・コンプレックスよ、気持ち悪いわ!と一蹴し、「彼女(パスカルママ)髪を金髪にブリーチしてなかった⁉︎」と言う。

ウーン、そうね確かに金髪だったけど…

「そうでしょ?私の父の彼女も南仏出身で、髪を金髪にして凄くスノッブでお高くとまってるの!それにnounours、クマちゃん、なんてその歳でおかしいわ!そんな男やめて正解よ!」

南仏の女性が全員スノッブな訳じゃ無いだろうし、フランス語で動物を模した呼びかけは多々あるのもう知っていたけれど、全面的に私の立場に同情してくれたキャロルの気持ちが素直に嬉しかった…。

タクシーの中で日本から持って来たベルトラン・ブルガラのCDを取り出すと、キャロルは興奮して声をあげた。
「私もこのアルバム持ってる!on a même goût!同じシュミだわ!!」
(彼女は渋谷系の音楽にも詳しく、ピチカートファイブのCDなんかも愛聴していた…笑)
※2001年夏のお話です…

友達のカップルの新居は、左岸にあるパリでは珍しい小さな芝生の庭のあるこじんまりした建物だった。
まだ皆が集まる前だったので、キャロルが支度を手伝って、テラスから庭にテーブルや椅子を出し、小さなキャンドルをあちこちに置いた。

何も手土産を持っていなかった私はモンペリエで食べ損ねた素麺を献上したが、ガス台がない家ゆえに、後で電子レンジで作ってみるわね(⁈)デザートにでも食べましょ(デザート違う…)と日本のヌードルは却下されてしまった…シュン

後から東京で一緒だったアメルや、キャロルの当時のボーイフレンドも来て、皆感じ良いパリジャン達だったけれど、ナチュラルスピードのフランス語で政治や社会の話になるうちに語彙も知的レベルも全く着いて行けなくなった…

キャロルがメトロの中で知らないムッシューにジロジロ見られるのがイヤだわ、と言うと、男の子達は(男は綺麗なものを観るのが好きなんだよ、そのムッシューは君を素敵な女の子だと思ってるんだから、その視線は好意として受け容れた方がいい)的な会話をしていて、ウーン流石パリの男の子は会話紳士度が高レベルだな〜と感心したのを覚えている…

もう深夜回ってかなり経っていたが、夏の夜のお喋りは尽きることなく…
私は前日も遅くまでラストディナーをしていたのでヘトヘトだった。

ワインを周りから注がれるうちに、気付くとテーブルの真ん中でこっくりこっくり船を漕いでいた…

「mitsuyoが眠りそうよ、猫も待ってるしそろそろ帰るわね…」

夢うつつな状態で皆とお別れのビズをする

キャロルのボーイフレンドともう一人男の子が私の重いスーツケースを車に運んでくれ、ジャミロクワイを大音量でかけ歌いながら、真夜中のパリをキャロルのアパートまでドライブしたのを何となく覚えている…

2Kのキャロルのアパートは、当時一部屋をフラットメイトに貸していたが、週末来る私の為に土日だけ片側の部屋を空けて貰うよう計らってくれていた。

朝になったら、Mヨシさんに電話をしなきゃ…

翌日の日曜日はMヨシさん、ピノさんと会うことになっていた。

キャロルのルームメイトのベッドに倒れ込むと安心してそのまま眠り込んだ。

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