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誕生日の夜

フィリップ君にラ・グランド=モットに連れて行って貰うことになり、待合せ場所の昨日のベンチに向かった。

グランド=モットがシックな海辺のリゾート地と聞いたので、自分なりにイメージしていた南仏風オシャレ着をスーツケースから引っ張り出した。

滞在中のお出掛け用にと、日本で買っておいたクローディ・ピエルロのちょっとオリエンタルなワンピースはその夏なかなか評判が良かった。

アパートから出掛ける時、お洒落した姿でパスカルの前を通り、気にかけて貰いたかったんだな…と思い出す。

先にベンチに来ていたフィリップ君は(ワーオ素敵だね!)と褒めてくれたあと、
「僕、こんな服じゃ釣り合わないな。家に帰って着替えていい?」と、そんなにおかしな服装でもないのに、どうしても自分もお洒落したいと言って着替えに戻った…

彼の家のリビングで着替えを待っていると、昨日のパスタの残りを食べたお皿がテーブルにあった。私をパスカルのアパートに送った後、昨日作り過ぎてしまった分を彼一人で平らげていたのかと想像し、何だか申し訳ない気持ちになった…

私がパスカルの家に帰ると伝えると、「君が居なくなったら僕はまた一人だ、寂しいな」と言われたのを思い出した。

何だか罪悪感に駆られていると、バリバリに糊のきいた白いシャツとトラウザーズを着て部屋から彼が出てきた。

そんなに頑張らなくても良いのでは…と思ったが、これで一緒に歩いて大丈夫だ!と喜んでいた。(それほど私もドレスアップしたつもりはなかったが…)

グランド =モットまで車を走らせながら、パスカルとどうにか仲直りしたこと、今夜は彼の誕生日なので顔を出さねばならない、ゆえに余り遅くなる前にモンペリエ に戻りたいことを伝えた。

ラ・グランド =モットは港町だが、ちょっとした移動遊園地もあり、夏休みということもあってネットを張ったトランポリンなどノスタルジックな遊具で子供達が遅くまで遊んでいた。
夜店や屋台を冷やかして軽食が食べられる食堂でゴハンを食べた。

ゴハンを食べながら、明日はどうするの?南仏で行きたいところはないか?と聞かれ、実はカマルグに憧れていた話をすると、
「why not!いいじゃない!よし、行こうよ」
…と、翌日またしても彼とお出掛けすることとなった…(カマルグは映画、男と女に出てくる野生のフラミンゴと馬がいる海辺の湿地帯)

21時過ぎた頃、そろそろ戻らないと…と伝えてモンペリエへ引き返した。


アパルトマンに戻ると、見たことある顔、ない顔、普段静かな家のそこかしこにゲストが溢れていた。
とはいえ、気楽なホームパーティーなので、皆思い思いに床に座ったり、ベランダで話したり、ソファーで寛いだりとリラックスしたムードだった。

オリビエがいたので、この間癇癪起こした事を謝ると肩をすくめて隣の部屋に行ってしまった…

パスカルを探してお誕生日おめでとうと言うと、ちょっとおいで、と離れの私の部屋に呼ばれた。
アパートを追い出されたらどうしよう…と内心ドキドキしていると、ポケットから鍵を取り出して私の手の平に乗せた。

「君の鍵だ。無くしちゃダメだよ」

「…えっ。アナタの分は?」

「僕のもある。管理人に作って貰った」

嬉しかった。学生寮に移ることまで覚悟していたし...感極まってウルウルしていると、クリストフとガエルが中庭からベランダを伝い上がって私の部屋に入って来た。
ブザーを押しても誰も開けてくれなかったからと…笑

「やぁmitsuyo,久しぶりだね」とクリストフが意地悪を言い、ガエルに嗜められる。
よし、それじゃ女の子同士にするよ、とガエルと私を残し、パスカル達が出て行く。もう一度彼らのコミュニティに入れて貰えたことが素直に嬉しかった。

誕生会にはビリー君も来ていて、明日海に行かない?と誘われたが、あいにく予定が入ったばかりなので、OKそれじゃ月曜日の午後に行こう!ということに(ちょっとだけモテ期だった...笑)

パスカルを目で追っていたが、気が付くとガエルのバイト仲間のヴァネッサという小柄で落ち着いた女性と一緒にいるのが見えた。
広場に面した部屋で、窓にもたれて何だかいいムードで話している。

どうにも気になって、飲み物片手に二人のいる部屋の入口まで近づくと、誰だか知らないゲストの酔っ払い男性に嗜められた。
「おっと、あの二人は今いい感じだから邪魔しちゃダメだよ!」

パスカルが今、興味があるのはヴァネッサなんだ…。

泣きたい気持ちになった。

いくら周りの人達が私のワンピースや靴を褒めようと全然嬉しくなかった。

パスカルと出かける為に日本で買ったワンピース…

日付がとっくに変わり、気が付けはゲストがかなり減っていた。

サロンで和んでいた人達におやすみなさいを言って寝室に戻ると、明日カマルグに連れて行ってくれるフィリップ君に心から感謝をして眠りについた。

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