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極右生態系-What is a far-right ecosystem-

2021/05/09 最新追記2021/10/05

 とても信じられないような陰謀論を真面目に世間に向かって叫ぶ人たちを見かけることはないだろうか?

「米民主党の関係者は、子どもを食べている」

「中国の影響を調べるために、投票用紙に竹の繊維が入っているか調査する」

「ドナルド・トランプは、光の戦士」

「ワクチンには、マイクロチップが入っていて人を洗脳する」

 彼らは本当にそれを信じて拡散するのだろうか。おそらく頭から信じている人もいるだろう。しかし、現在人々が頻繁に目にするほど多くの人が信じているのだろうか、信仰のほかにもう一つの説明があり得るかもしれない。もしも、それを拡散することで💰お金💰が手に入るとしたら?

極右生態系

 2020年9月、米オレゴン州で起こった山火事が左翼活動家、いわゆるAntifaによる放火🔥であるという噂が地元だけでなく米全国にも広がった。

 この根も葉もない噂が、誰がいつどこでどんな風に広めたか、詳細に調査したデータ・サイエンティストのErin Gallagher氏が2020年4月20日に発表した記事がこのメディア・マニュピレーション事件簿の「誤認:#ANTIFAFIRESの噂がどのように山火事の原因として捉えられたか」だ。

ギャラガー氏はこの報告で、4chan/8chan/Facebook/Twitter/YouTube上で行われたデマによる「マニュピレーション=情報操作」についてフィールドワークで調査しその構造を解き明かす。

 圧巻なのは、ギャラガー氏によるメディア操作戦術の分類だ。普段、我々がよく目にするネット上の偽情報拡散においてよく使われる技術が満載だ。文章をコピペによる切り貼りで文脈を切断したり都合の良い解釈に使ったり、Antifaを名乗る人物のなりすまし投稿、特定の検索エンジン最適化用語のコンテンツを作成するキーワード不法占拠、画像や動画などを元の文脈から切り離し都合の良い解釈で使い回す再コンテキスト化されたメディアなど。

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画像:Erin Gallagher, "Misidentification: How The #Antifafires Rumor Caught On Like Wildfire," The Media Manipulation Case Book, April 20, 2021, https://mediamanipulation.org/case-studies/misidentification-how-antifafires-rumor-caught-wildfire. より (コピーパスタはコピーペーストの自動翻訳間違い)

 だが、ギャラガー氏の報告で最も重要な点は、情報操作ステージ1の記述にある。

“偽情報は、おそらく意図的に展開され、トロールや党派の影響力者を通じてより主流の地元の報道機関と右翼のニュース生態系(Ecosystem)に連鎖的にやりとりされました。”

 ギャラガー氏は、この偽情報の拡散が「自然発生」ではないことを強調し、それを詳細な調査によって証明する。その際に描写されるのが、個々の無名のアカウントによるトロールから大手メディア、極右グループ、政党の影響力者などに渡るその有機的な協力関係だ。

 この関係をエコシステム=生態系と表現している。

 2021年3月12日に発表されたNieman Reportsの書評でホイットニー・フィリップスとライアンM.ミルナーの「YouAreHere:分極化されたスピーチ、陰謀理論、および汚染されたメディアの状況をナビゲートするためのフィールドガイド」を紹介している。

 この本は、メディアネットワークがどのように陰謀論を推進するかについて、生物学的な「Ecosystem=生態系」を隠喩として使用して現在の状況を説明する。

 はるか昔から存在した陰謀論は、いつの時代でもテロや殺人や犯罪を誘発してきた、だが現代の陰謀論がホワイトハウスまで到達したのはなぜだったのだろうか?「YouAreHere」は、インターネットによるソーシャルネットワークが独立した個々の陰謀論を繋げたと説明する。なぜ繋がったのか?そのキー🗝はズバリ、金💰

 陰謀論を繋ぎぐるぐる回る極右の生態系が生み出すものは「金と選挙票」だという。

陰謀論を捏造し、陰謀論者に求愛することは、要するに、良いビジネスと良い政治になりました。(中略) 結局のところ、陰謀を撫でると可視性が生まれ、可視性は投票、お金、またはその両方を生み出します。ですから、政治家、特に保守派の政治家は、利益を得るためにそうします。それはまた、特に保守的な普通の市民が行うことでもあります。なぜなら、彼らは恩恵を受けるからです。多くの場合、それはすべて大統領のリツイートだけです。

“You Are Here: A Field Guide for Navigating Polarized Speech, Conspiracy Theories, and Our Polluted Media Landscape.” より抜粋 Copyright © 2021 by Whitney Phillips and Ryan M. Milner. Used with permission of the publisher, MIT Press. All rights reserved.

日本ではどうか

 日本における極右生態系の実態を最も詳しく調べている人は、Buzzfeedの籏智広太記者かもしれない。

 日本におけるネットの陰謀論やフェイクニュースを何年も前から追っている籏智氏は、まとめサイトYoutubeがいかに偽情報の拡散に寄与し、また収益を得られるかいくつもの記事で明らかにしている。

 籏智氏の記事を読むと、反ワクチンデマや米大統領選挙不正デマ、日本学術会議と千人計画デマ、在日外国人のヘイトデマなどの極右グループが流す偽情報とまとめサイト/YouTubeの関係の深さがわかる。

 まとめサイトは、2ちゃんねるからスレッドの内容を“まとめ”て記事にすることによりその歴史が始まった。

 では、2ちゃんねる又はその後継の5ちゃんねるは、その極右生態系に関係があるのか?2ちゃんねると5ちゃんねる合わせて20年ほどどっぷりハマったユーザーであり2017年から4年間ニュース速報+板のスレ立てボランティアをしてきた私は、自信を持ってyesと答える。

 私は2ちゃんねるの長年のユーザーとして様々なデマが造られるのを見た。そして、2ちゃんねるのスレ立てボランティアとして、このメディア操作に運営とまとめサイトが関わっているのも見た。

 具体的な例はいくつかツイッターで挙げたので、興味がある人は下のスレッドを読んでみてほしい。

 重要な点は、5ちゃんねるのスレをまとめるためには、5ちゃんねる運営に許可を取らなければならず、5ちゃんねる所有者のジム・ワトキンス氏とかつて働いていたフレッド・ブレンナン氏によると、まとめサイトは5ちゃんねる運営に幾らか売上の上納金を渡さないといけない契約となっているそうだ。ある筋から聞いたところによると売上の約10%を5ちゃんねるに払うとか。普通にやって月10万円から20万円、大手になれば月100万円くらい儲かるとも聞いた。

 さらにブレナン氏は、5ちゃんねるの運営会社RaceQueen社の社員であるスガワラ・メグミ氏やロン・ワトキンス氏自らがまとめサイトを作ったり書き込んだりしているところを目撃したという。ロンの作ったまとめサイトは「SUMOまとめ」とかなんとかいうタイトルだったらしい。

 また、上記のブレナン氏のツイートでも言及しているように、QAnonの陰謀論拡散に重要な役割を果たしたQMapというサイトは「日本のまとめサイト」をモデルに作られているそうだ。QAnonの親玉であるQが2018年1月5日以降は5ちゃんねる運営のロン・ワトキンスであったというHBOのドキュメンタリーQ : In to the Stormの描写から考えても成る程と頷かざるを得ない。

 2ちゃんねる(正確にはふたばちゃんねる)の米国版8kun/chan(最初期は4chan)で書かれたQの投稿(Qドロップ)をまとめサイト(QMap)にまとめて、インフルエンサーがSNSやYouTubeで拡散する。このQ生態系とも言うべき米国の極右生態系の洗練された完璧な構造は、日本の「2ちゃんねるとまとめサイト」から翻案された可能性は否定できない。

 最も注目すべき点は、このシステムの一部分になれば、誰でもなにがしかの金銭が得られるということだ。私もよく5ちゃんねる関係の人から、まとめサイトやれば小金を稼げると言われた。ちょっとした手間である程度まとまった金銭が得られるなら、きっと多くの人が信じてもいない「陰謀論」を容易く流す担い手になるだろう。私はこれが、数多くの人が荒唐無稽な陰謀論を流す原因の一つだと思う。

 米国の専門家もそのように説明する人は少なくない。

Twitterの投げ銭新機能「Tip Jar」

 2021年5月6日、Twitter社はTwitterの新機能として個人のアカウントへお金を払えるシステムである「Tip Jar」を発表した。これは最初、クリエーター、ジャーナリスト、専門家、非営利団体などが対象だが、のちに対象を広げる予定とのこと。

 これは、政党や企業から小銭をもらって、彼らに都合のにいいこと書くというとんでもないプロパガンダシステムになる可能性がある

 もしも、一般アカウントにこの制度が導入されれば、現行の極右生態系が、まとめサイトやYoutubeでの視聴率と広告で稼いでいるのに比べて飛躍的に一般市民が参入できることになる。

 コロナで不況に陥り金銭的に困っている人々は、喜んで参入するだろう。

 米共和党は先日、選挙の結果を覆すために合法かどうかを気にすることを放棄した。21世紀は、再び民主主義を守れるか陰謀論と反民主主義のコラボとの戦いとなるかもしれない。


 


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