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短編小説

68
僕の短編小説集です。
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2021年10月の記事一覧

霧島、朝活やめたってよ

「私ね、朝活を始めたの」  と彼女は言った。 「朝活?」 「ええ、駅前に喫茶店あるじゃない」 「うん」 「あそこでね、毎朝読書をしようと思うの」 「そう。でも何でそれを僕に言うの?」 「こういうのってさ、誰かに宣言した方がやる気になるじゃない」 「そういうもの?」 「そういうもの」  それから毎朝、僕は会社に出勤するときに通る喫茶店で、本を読む彼女の姿を見かけるようになった。  その喫茶店は通りに面していて、ガラス越しに彼女の姿を確認することができた。  彼女は毎朝、同じ席

あなたのスキを数えましょう

「ねえ、好きって言って」  と彼女は言った。 「好きなんて、簡単には言えないよ」  と僕は答える。 「どうして?」 「だって本当に好きじゃないとさ、軽々しく好きなんて言えない」 「私のこと嫌い?」 「嫌いじゃないけど」 「じゃあ好きなんじゃない」 「そういうことじゃあ無いよ。嫌いじゃあないけど、好きって言うほどは好きじゃあない。どうでもいい」 「いいじゃない。あなたが私に好きって言ってくれれば、私は嬉しいんだから。私を喜ばせてくれればそれでいいの。だから私を喜ばせてよ」 「