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物語の結末とは祈りである、あるいは「ベオグラードメトロの子供たち」プレイ感想

ベオグラードメトロの子供たち」クリアしました。

めっっっっちゃおもしろかった~~~~~~!!!
あまりにもプレイ後感が良く感想語りをしたくなり、noteの垢作って文章をこね回した……のが2021年7月。
1年寝かせた文章ですが当作を一人でも多くの人にやってほしいので推敲の上公開します。

この作品について

真実が目に見えたためしはありますか。
俺はありません、少なくとも生きているうちは──

https://store.steampowered.com/app/1355500/_/

セルビア・ベオグラードと架空のメトロ廃墟を舞台にしたノベルゲーム。
年齢制限あり(R-15)。相応に性的・ゴア・反倫理的描写有り。
ベオグラードメトロと呼ばれる建設中止になった地下廃墟に集うはぐれものたちの記録。
公式ジャンル名は「旧共産趣味電子動画小説
制作はsummertimeさん。音楽はバーチャルねこ氏+フリー音楽。
詳しいあらすじとかは上のリンクから公式サイト見てください。

エピソードセレクト画面。路線図イメージでワクワクする

一言で言えば「能力者青春サイコサスペンスジュヴナイル」。
なお私はジュヴナイルを思春期の少年少女が傷付け合ったり傷をなめ合ったり自傷したりするジャンルだと思い込んでいます。

未来予知やサイコキネシスなどを操る「能力者」の存在が囁かれ、巨大企業ゴールデンドーン社による能力者狩りが行われるセルビア・ベオグラードにおいて、無能力者(にして大変ひねくれた感性の持ち主)である少年・シズキを主人公兼語り手として描かれる物語。ちなみに彼は女装する主人公。

主人公のシズキ。相対性理論を「変なジジイが変な理論を提唱した」って表現するの好き

物語は後のシズキが書いたドキュメンタリードラマの脚本…という形で進んでいくため、各話の最初と最後には編集者と著者(=シズキ)のやりとりを示した手紙のやりとりを挟みながら脚本が進行していく構成。

悪友にして兄貴分のデジャン
放っておけない少数民族の少女ネデルカ
そして、ヒロインであるゴールデンドーン社ご令嬢のマリヤ

ヒロインのマリヤ。彼女について一言で説明することは出来ない…

ベオグラードメトロで巻き起こる能力者たちの諍い・事件、シズキとマリヤのいびつな関係(彼女は男嫌いなのでシズキは女装してお近づきになる)を綴りながら、能力者にまつわる陰謀に迫る……そんな感じの話。
一癖も二癖もある、魅力的で逸脱的な登場人物達が織り成す真夏の物語だ。

元々ドルフロに11章(舞台がベルグラード)が来た時に当作がリリースされ、舞台繋がりの言及から興味を持っていた作品だった。

プレイしてまず驚いたのは「めちゃくちゃ動く
逃げるシズキのアニメーションCGから始まり、追い掛けられながらの能力バトルは閃くようなエフェクト付きで華々しく、爽快感が抜群。
レトロライクなドット風イラストはハイコントラストな色彩でベオグラードの灼熱の夏を感じさせる。
音楽も各シーンに非常にマッチしており、なによりどの曲もかっこよくて非常にテンションが上がる(体験版もあるが音楽が仮の状態なので、製品版をやった後にするとここは合ってないかな、と思った。文体が合うかの確認にしておくのがいいかも)。

この作品には物語を外側から補完する情報がいくつかある。
ひとつは文章中の一部のハイライトされた単語をクリックすると表示されるTIPS
これは作品特有の単語や実際のベオグラードの風習を解説したりするもの。
特にセルビアのスーパーや食文化を紹介するTIPSはプレイヤーにかの地の日常を想像させる。

セルビアの文化に密着した解説も多く、世界観に厚みを持たせている
個人的に好きな「魔術」についてのTips

他にも各エピソードをクリアするごとにアンロックされるドキュメントがある。
ここでは新聞の切り抜きやとある人物の日記、手紙などの記録が閲覧可能。章が終わるごとに確認するのがお勧め。

CGは120枚強。絵が出るシーンほとんどCGなのでは?というくらいあった気が…。立ち絵の配置も凝ってた印象。
背景は一部作者様が実際にベオグラードで撮られた写真も使われており、小旅行気分も味わえる。

パイロキネシスの能力者。揺らめく画面が灼熱を感じさせる

ここまで導入。
ここから本題。つまり記事のタイトルの話。
以下ネタバレ注意。

以下ネタバレ感想

行き場のない少年が帰る場所を見つける物語

タイトルにもなっているベオグラードメトロについて、

セルビアの首都・ベオグラードに引っ越してきた主人公・シズキは、家出をしたところ
施工中止から4年が経ち、廃墟同然となったベオグラード・メトロに迷い込んでしまう。
しかし、そこは暇を持て余した能力者たちの溜まり場だった。

Children of Belgrade Metro (ベオグラードメトロの子供たち)/ http://summertimeinblue.net/CBM/index.html

公式サイトのあらすじではこのように説明されている。
その一方で、

”たとえベオグラード・メトロに帰属意識を持つ奴などいないことはわかっていても”
”ベオグラード・メトロは組合でも何でもねえ!場所の名前だ!”

本編中で何度か言及されているように、メトロは「居場所」ではない。
にもかかわらず、シズキは事あるごとにメトロに惹かれている。正しくは逃げたがっている。
シズキは家にも学校にも居場所がない。
彼は常に疎外感に苛まれている。メトロだけが拠り所と言ってもいい。
一方でデジャンは祖父母に大切にされているし、ネデルカも家族との仲は良好だ。2人はなんだかんだメトロの外にも居場所があるのだ。
物語の終盤で彼らはそれぞれの家族と共にベオグラードを離れた。
残されたシズキはマリヤと生活しつつも、デジャンの残したメトロの縄張りを守っている。未だにメトロに未練があるから。

”どうせ俺は部外者だ”
疎外感を感じるシズキ

最終的にシズキはベオグラードから離れ、セルビアを離れ、つまりメトロから離れたが、そこでシズキはさらなる疎外感に見舞われる。周囲とのあまりの常識の違いによって。
シズキの高すぎる向上心と周囲を内心見下していたプライドの高さはここでばっきりと折られることとなった。

その後、マリヤとの衝撃的な別れを経て、シズキはセルビアに戻ってくる。
ここでセルビアのどこに行くかがエンディング分岐ポイント。
メトロは無くなり、マリヤも失い、紆余曲折を経て死んだことになっているシズキ。正真正銘「帰る場所を無くした」少年が「どこに行く≒帰るか」を選ぶ、という訳だ。

エンディング分岐画面

LINE2, 3はどちらもかつてメトロで友だったネデルカもしくはデジャンに会いに行き、彼らとの繋がりを再確認するエンディング。
しかし思い出して欲しい。この物語はそもそもシズキが自分の体験を基に書いた「脚本」なのだ。あくまでもフィクションなのである。
それを書いている時点で、執筆者自身の人生は終わっていない。
シズキの自伝的小説めいた脚本に「ドラマの最終回」という「オチ」として書かれたものがこれらのエンディングがこの二つの終わりである(……んじゃないかなあ)。

つまるところ、シズキが実際に彼らと再会したかどうかは不明なのだ。

ネデルカと再会し、罪を打ち明け、慰めと癒やしを得るのか──
デジャンと再会し、友の強さを目の当たりにし、励ましを得るのか──
すべてを失ったシズキが、もしかつての友情に縋ることができたなら──

そんな夢想が、この2つのエンディングなのかもしれない。

ハッピーエンドを迎えて欲しいという願い

ラストエピソードであるLINE5について。

LINE2,3、友との再会を経て、続くLINE1,4の驚嘆。
ベオグラードへと戻る選択をしたシズキを迎える衝撃的な事実。
いままで否定されていたものがひっくり返る怒濤のシナリオがLINE1,4だ。

この物語は作中作だ。執筆者のシズキは編集者にいくつかのエンディング案を送っている。
では、真実はいったいどこに?
シズキは一体誰に会ったのか?
自分の影に追われて轢死体となり果てたのが真実なのか?

どこまでが虚構でどこからが真実なのか分からなくなり、脳内は混沌と混乱に陥れられ……最後に食らうエピソードがLINE5──夏の海。

整理しきれない情報の海に溺れながらもテキストを追った先で、突如現れた海と「彼女」。閉鎖的な本編とは対照的なからりとしたバカンス島の情景。
ここから受けた感覚は、本文中の以下の文章とそっくりだった。

“物語の中に入っていくようだ。夏の中に、幸せの中に溶けていく感覚”

真実と虚構の境は曖昧になり、錯綜し飽和した情報の中で微笑む彼女、そして友人たち。
御都合主義的かもしれない、機械仕掛けの神がもたらしたような唐突なハッピーエンド。
しかしそれは、この物語を通しプレイヤーに芽生える登場人物たちへの愛着、「幸せになって欲しい」という願いを具現化したものだ。

──まさに「幸せの中に溶けていく」体験。

それは著者のシズキの願いでもある。
最後の脚本提出。彼は編集者に心境の変化を打ち明ける。
自分が成功して幸せになる」ための執筆から、「自分の友人たちを幸せにする」ための創作へ。

陰鬱でサスペンス的な本作だが、最後を飾ったこのハッピーエンドがたまらなく良いということを伝えたくて当記事を書いた。

ところで、本編中にも言及があるが、物語の舞台となっていたセルビアは海無し国である。
そこから飛び出して海で終わりを迎えるというのも物語の終わりにふさわしい舞台だと思った。

プレイし終わった最後にこのゲームを制作したサークルの名前が「summertime」であることを思い出し膝を打ちました。
当作をクリアして1年の間に他作品もプレイしましたが、どれも照り付ける夏と、陰惨さはありつつも重すぎず先へ先へと読ませる文章が印象的な作品です。
総じて人は選びますが自分にはとことん合いました。ナイーヴな内面描写が特に好きです。こちらもおすすめですよ。

終わりに/スペックまとめ

想定プレイ時間は1話30~1時間×10話程度で10時間程度。
エンド数は全部で5つだが、順番固定かつ分岐ポイントにすぐ飛べるので周回は不要。
Windows/Mac両対応。WinはSteamから、MacはboothからDL購入可能。
詳しくは公式ページで。

ハイコントラストでレトロライクなグラフィックに、陰気ながらも読ませるテキスト、シーンと絶妙にマッチした音楽。
何にもなれない鬱屈感を抱えた少年が得た答え。
灼熱照りつけるベオグラードの夏を舞台に繰り広げられる少年少女らの結末を是非見届けてほしい。

※自分のプレイ時リアルタイムTwitter記録まとめもあるのでよければこちらも(ネタバレ全開です)

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