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Princess KAGUYA

Princess KAGUYA

ナレーション「ニューヨークにある、とある有名なシアターの一角。次の舞台のキャストが決定したことを支配人に報告する一幕」

ダンディ「今日はついに読み合わせですねぇ。今回はあっしも出してもらえるって聞いて、嬉しい限りでさぁ」
新次郎「出演依頼を受けてくれて、僕も嬉しいです! すみません。団員じゃないのにお願いしちゃって……」
サニー「きみ(注・ダンディ)が見に来て出ちゃうのは、いつものことじゃないか。それなら最初から出てもらおうと思ってね。……で、ヒロインは誰にするんだい?」
新次郎「副支配人にお願いしようと思いまして」
サニー「彼女かあ。なかなかいい人選じゃないか」
ダンディ「あのお方といやあ、あっしは海神別荘の公子役が一番印象にありやすねぇ。あの凛とした姿に立ち居振る舞い。思い出すだけでこう、胸にジーンと来るものが。あの舞台が、あっしがあのお方を最初に拝見したお姿だったからなおのこと、思い出深いでさぁ」
サニー「海神別荘! それは彼女が日本に出張した時の役じゃないか。僕も見てみたかったなぁ」
新次郎「蒸気DVDになっていますよ。僕が最初に会ったのは、ニューヨークでした。銀行強盗に間違われて、逮捕されかけた僕を助けてくれたんです」
サニー「最初は、きみの叔父がニューヨークに来るはずだったんだ。あの時、彼女は「どうして彼じゃないの!」って激怒してたよ。でも、頑張ってるきみの姿を見て、彼女は少しずつきみを認めるようになった。僕もね、今は来てくれたのがきみで良かったと思うよ」
新次郎「ありがとうございます!」

サニー「ところで、次の演目はなんだったかな?」
ダンディ「次の演目は「Princess KAGUYA」でさぁ」
サニー「「Princess KAGUYA」! 竹取物語を題材にしたんだね?」
新次郎「よくご存知ですね。竹から生まれたかぐや姫が、帝からの求婚を蹴って月へ帰ってしまう話です」
ダンディ「あっしの役どころは……」

ナレーション「天窓から月の光が差し込んでくる」

ダンディ「……あぁ、ほらお二方。月が昇って来やしたねぇ。今宵は満月。摩天楼にも霞まない、見事な美しさでさぁ」
新次郎「本当ですね! とても綺麗です」
サニー「かぐや姫はあそこに帰るんだね。……おや? どうしたんだい?」
新次郎「目頭を押さえて、どこか痛いんですか? 医務室へ……」
ダンディ「いや、ちぃと月明かりが目に染みやしてね」

ダンディ「……あっしの役どころは竹取の翁なんですけどね。台本を読んでて、どうにも気持ちに整理がつかなくて困ってるんで。手塩にかけて育てた姫が月に帰っちまってこう、悲しくなっちまいやして。寂しくて辛くて苦しくてどうにもこう……」
新次郎「それは、僕も同じです。かぐや姫はどんな気持ちで、月に帰ったんでしょう? 地上でやりたかったことや、やり残したことが山ほどあって、辛かっただろうなって。まだまだこれから、いろんなことを一緒にできたらって……」
サニー「落ち着き給え二人とも。……かぐや姫にどんな事情があったのか、僕には分からない。きっとかぐや姫も、月に帰りたくなかったんじゃないかな。でも、そうせざるを得なかった。じゃなきゃ、月なんかに帰るはずがないさ」
新次郎「そう……ですよね」
ダンディ「人生なんざ、ままならないことばかりでさぁ」
サニー「たとえ会えなくても、月を見上げればそこにかぐや姫はいるんだ。かぐや姫も、地上を見下ろせばそこに僕たちがいる。心ではずっと、繋がっているさ」
新次郎「……そうですよね。かぐや姫が教えてくれたことは、僕の中から消えたりしないです。思い出や経験を糧に演じ続ければ、そこにかぐや姫は生きているんです」
ダンディ「かぐや姫はいつも月にいる。見上げればいつでも会える。なのに、いつまでも悲しんで足踏みしていちゃ、かぐや姫に叱られちまいますね」
サニー「そう。その意気さ。……さあ、そろそろ顔合わせの時間だろう?」
ダンディ「いけね。もうそんな時間なんですねぇ。さあ、行きやしょうか。次の舞台も、いいものにしねえと!」
新次郎「そうですね! ……あ、いいところに。すみません!」

ナレーション「呼び止められた副支配人が、こちらを振り返る」

新次郎「次の舞台の主役を、お願いします! ぜひやっていただきたいんです!」
サニー「なあに、大丈夫さ。舞台の一線から退いていたって、きみの輝きは変わらないよ。それとも、自信が無いのかい?」
ダンディ「まあまあ二人とも落ち着いて。そうだ。今、ちょうど今度の舞台の話をしていましてね。かぐや姫の心情について、どう思います……」

(SE:ドアが閉まる音)

ナレーション「副支配人を囲んで、舞台の話をしながら会議室へと入っていく。良い作品を作ろうと熱心に話し合う彼らを、月が静かに見守っていた」

(了)

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