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人材は才能、人財は奴隷【言葉は大切、漢字の成り立ち、仮借を知ろう】(2021年11月18日)

*本日の内容

■今日のテーマ
「人材」と「人財」

■「人材」という言葉
「材」にモノ扱いで冷たいというイメージ?

*だから、「人材」ではなく…
「人」を大切な財産として考える「人財」にすべき←???

■「人材」の表現に違和感
(高校生のコメント:東京新聞「若者の声」2021年9月17日より抜粋)
…「人材」という言葉は「木材」と構造が同じだ。「木材」はホームセンターにいくらでも転がっている。「人材」だってハローワークで簡単に手に入るよね。そんな考えが背景にある気がしてならない。「人材」の言葉とともに「労働者は『もの』である」といった偏見がしみついている。
 このような言葉は封印してしまうべきだと思う。社会を変えるのは大変だが、言葉なら、少し勇気があれば、変えられるのではないだろうか。

■そもそもの勘違い
人材の「材」は、「才(さい)」の仮借(かしゃ)である。
*仮借は、同じ音の漢字を借りてくること。とくに古い漢文に多い。

■『大漢和辭典』の用例:「材=才」が見える漢文古典
・『詩経』(しきょう)
・『淮南子』(えなんじ)
・『論語』(ろんご)
・『漢書』(かんじょ)
・『荘子』(そうじ)

■『荀子』の「材=才」の用例がわかりやすい
*荀子(じゅんし)は、性悪説で有名な思想家。
『荀子』はその言行録。

■『荀子』の用例①
・『荀子』榮辱(えいじょく)篇
材性知能、君子小人一也。好榮惡辱、好利惡害、是君子小人之所同也。

・書き下し
材性知能は,君子小人一なり。榮を好み辱めらるるを惡(にく)み、利を好みて害(そこな)ふを惡むこと、是れ君子小人の同じくする所なり。
(修正・2021/11/19)

・訳
才能、性質、智恵、能力は、偉い人も一般人も一緒である。……
■『荀子』の用例②
・『荀子』宥坐(ゆうざ)篇
夫賢不肖者、材也。為不為者、人也。

・書き下し
夫れ賢不肖は、材なり。為す為さざるは、人なり。

・訳
つまり賢いか頭がわるいかは、才能である。するかしないかは、人がきめることである。

■『大漢和辭典』や『荀子』に見える「材」の用例
・木材や材料の「材」と読むことはできない。
・「才(さい)」の仮借であり、「才(さい)」と同じ意味である。

*つまり人材は「人才」

■なぜ「人財」なのか?
・むしろ「人財」は人を財産と考える
→人を個人の財産とするのは、奴隷制の考え方。
奴隷は、個人の財産であり、所有物であった。

■言葉のもともとの意味を大切にしよう
・昔の日本人は、中国(支那)で生まれた漢字を導入する際…、
慎重に文字や言葉を選んで、日本語を紡いできた。

・「人材」の「材」への非難は…、
仮借という漢字の成り立ちへの無理解で起きている。


*情報もと、素材もと
三省堂国語辞典第八版

「人材」の表現に違和感 高校生の投稿きっかけに考える 人は「材」か「財」か 来月、国語辞典に「人財」初収録 2021年11月14日 06時00分

高校生のコメント原文(2021年9月17日付「若者の声」欄に掲載された投稿)

仮借

『大漢和辭典』

荀子


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