新書大賞『人新世の「資本論」』の斎藤幸平氏が3人の思想家と対談した『未来への大分岐』の本棚
はじめに
2021年の新書大賞に斎藤幸平氏の『人新世の資本論』が選ばれた。
ただし、すでに2019年にカール・マルクスの思想の再検討や資本主義の終焉をテーマとした以下の対談集を刊行していた。
対談相手は、『<帝国>』のマイケル・ハート、「新実在論」のマルクス・ガブリエル、『ポスト・キャピタリズム』のポール・メイソンの3名である。
本書の特徴は、3名および斎藤氏が「資本主義が限界に近づきつつあること」「<資本主義以後>を考える必要性」では一致しながらも、必ずしも意見が同じではなく、その差異から生まれる議論に価値があるといえる。
それは実際に読んでいただくとして、ここでは議論の中で登場する書籍を紹介する。
マイケル・ハートとの対談
マイケル・ハートとの議論では、1970年代に「資本主義の正当化の危機」を指摘した人物としてハーバーマスが挙げられている。
この議論の中で触れられるのがデイヴィッド・グレーバー『ブルジット・ジョブ』である。
『ブルジット・ジョブ』については本書内でマルクス・ガブリエルやポール・メイソンとの議論でも触れられる主要なテーマの1つである。
また、同じくグレーバーの『デモクラシー・プロジェクト』についても「草の根民主主義・社会運動」の在り方として紹介されている。
また、マイケル・ハートの側から、対談の主要テーマでもある<コモン>(みんなの共有物)の問題として斎藤幸平氏が訳した『大洪水の前に』について触れている。
マルクス・ガブリエルとの対談
マルクス・ガブリエルとの対談では、「新実在論」による「ポスト真実」と「相対主義」への徹底的な批判で両者が一致している。
相対主義の例としてフーコー『言葉と物』やニーチェの「超人」(『ツァラトゥストラはかく語りき』)が挙げられている。
ポール・メイソンとの対談
3人目の対談相手は「資本主義以後の世界」を論じたポール・メイソンである。
メイソンとの対談でたびたび登場するのはドイツのメルケル首相の下でブレーンを務めたリフキンによる『限界費用ゼロ社会』である。
限界費用がゼロに近づくにつれ、限界利益もゼロに近づき、最終的に資本主義は立ち行かなくなるというのがメイソンとの対談の主題である。
また、世界的ベストセラー『ホモ・デウス』については、対談では両者により徹底的に批判されている。
最終的に「人間的なもの」はデータに全て乗っとられてしまうからである。
おわりに・プーチン問題
さて、本書で興味深いのは2019年刊行の本書で、トランプ元大統領と並んでプーチン大統領も全員から徹底的に批判されていることである。
ある意味では、本書は2022年4月のこの記事を書いている現在起こっているウクライナ問題をある程度予見していたといえ、そう感じられる箇所も随所にある。
であれば、本書の他の議論にも十分に耳を傾ける必要があるだろう。
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