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眠れる財宝

“この物語はフィクションです。登場する人物(天道、三原)・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。”

その1

 『瓦斯(そら)に舞う紙の翼』を書いた頃の話をしようと思う。これは私と三原の回顧録だ。

 劇団員の三原悠里は、以前から折に触れて「二十歳の間に一人芝居をしたい」と公言していて、その時はまさか自分が書くことになろうとは思いも寄らない私は、その度に「頑張ってー」という他人事の様な返事しかして来なかった。
 ある時、確か2017年の暮れ頃だった様に思うが、神妙な面持ちで私の前に立った三原が「天道さんに一人芝居の脚本を書いてもらいたいです」と言ってきた時には、学生の頃の突然の告白かの様に面食らったのだが、その真っすぐな目に圧倒された私の中には、“断る”という選択肢は残されていなかった。一文字ずつ言葉を置く様に「分かった」と言葉を返すと、三原は飛び上がって喜んだ。

 言うなれば、これがこの『瓦斯に舞う紙の翼』という物語の始まりだったのだろう。それからは仕事の合間を縫い、題材探しに奔走した。二十歳という、少女から大人の女性へと変貌を遂げる丁度狭間の、一瞬しかないその刹那に合う芝居のテーマを見つける事、それは並大抵の覚悟では到底見つける事はできない、海底の宝探しをしている様な感覚と同じだった。深く暗く冷たい海中を泳ぐ様な、目指すべき標も見つからない様な不安。私は、いくらその場の雰囲気に飲まれたとはいえ、安請け合いしてしまった事を強く悔いた。
 当てのない宝探しがひと月程続いた頃、丁度自分の出演する舞台の本番が近づいて来たのもあって、その宝探しを止めざるをえなくなった。役作りに集中出来る喜び、出口の見えない宝探しから逃避できる解放感に、しばらくの間浸っていた。しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。気付けば舞台の本番は終演していた。そしてそれは同時に、解放感の終焉も意味していたのだ。

さあどうなる天道満彦?当てのない宝探し…宝は見つかるのか?次回へ続く

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天道満彦。劇作家、小説家。 エンターテインメント時代劇ユニットSTAR★JACKS主宰、俳優、演出家、殺陣師であるドヰタイジのペンネーム。