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7.五極管

本節では三極管を改良した四極管でさらに残っている欠点を改善するために考案された、五極管について説明します。

五極管の構造

五極管は、次の図のようにプレートとカソードの間に3個のグリッドを挿入し、それぞれ次のように働かせたものです。

1.カソードに最も近いコントロールグリッドG1は、電子の流量を制御するために働かせます。通常、真空管への信号入力は、このグリッドに加えられます。

2.真ん中のグリッドG2は、スクリーングリッドとして働かせます。

3.通常、プレートに最も近いサプレッサーグリッドG3は、次の図のようにカソードに繋げられるか、あるいは負の電圧を与えられます。そこで、プレートとスクリーングリッドの間に電位の谷が作られ、プレートにぶつかって反射した二次電子がG3に吸収されます。このG3は、スクリーングリッドと同様、プレートとコントロールグリッドの間の静電容量を減らすのにも役立っています。三極管におけるこの値は数pFであるのに対して、五極管では100分の1pFから1000分の1pF程度です。

さて、五極管では、このサプレッサーグリッドの存在によって、四極管でみられた欠点が抑えられ、プレート電圧の十分低い値についても、プレート電流がプレート電圧に依存せず、ほぼコントロールグリッドG1の電圧によって決まる、定プレート電流特性が得られます。

次のグラフは、五極管6BQ5において、グリッドバイアスを0Vから-12Vまで2Vずつずらして設定した場合に、プレート電圧を変化させたときにプレート電流がどのように変化するかを示した、Ep-Ip特性です。

図.実線が6BQ5のEp-Ip特性(6BQ5 General Electricデータシートより引用)

そして、次に示す図が、プレート電圧を50Vから250Vまで50Vずつずらして設定した場合に、グリッドG1の(カソードに対する相対的な)電圧を変化させたときにプレート電流がどのように変化するかを示した、Eg-Ip特性です。

図.6BQ5のEg-Ip特性(6BQ5 General Electricデータシートより引用)

現在見られる真空管の中では、6CA7(EL34)や、6BQ5(EL84)、WE403A/B(6AK5)が五極管です。

シャープカットオフ五極管とリモートカットオフ五極管

高周波増幅用五極管の中には、そのグリッド電圧を変えると、相互コンダクタンス(Eg-Ip曲線の傾き)が滑らかに変わり、Egの負の値の極めて(負の方向に)大きいところで、Ipがやっと遮断される特性を持つものがあります。そこで、これをリモートカットオフ五極管と呼ばれます。このような五極管を増幅回路に用いると、そのグリッドバイアス電圧によって増幅作用を増減することができます。よって、可変増幅五極管とも呼ばれます。

この種の真空管では、グリッドの網目が中心から両端に行くにつれて、次第に疎になるように作られているので、グリッド電圧を小さい負の値から更に下げていくと、まず、グリッドの最も密な部分の電子流が遮断され、さらにグリッド電圧が低くなるにつれて、グリッドのより疎な部分の電子流が順次遮断されます。結局、滑らかに傾きが変わるようなEg-Ip静特性曲線が得られます。

にれに対して、グリッドの網目が一様な五極管では、グリッド電圧がある値に低下すると、電流が一斉に遮断されます。そこで、このような五極管はシャープカットオフ五極管と呼ばれます。

五極管の三極管結合(三結)

回路を設計する場合に、五極管を三極管として使用したい場合があります。このとき、五極管を三極管結合(三結)にして用いることができます。

まず、次の図のように接続すると、μが低い三極管相当となります(μについては別の節で説明します)。これは、スクリーングリッドG2とサプレッサーグリッドG3を共にプレートと見た場合に相当します。


図.五極管の三極管接続方法その1(低いμ)

また、次の図のように接続すると、μが中程度三極管相当となります。これは、スクリーングリッドG2をコントロールグリッドG1と、サプレッサーグリッドG3をプレートと見た場合に相当します。

図.五極管の三極管接続方法その2(中程度のμ)

最後に、次の図のように接続すると、μが高い三極管相当となります。これは、スクリーングリッドG2とサプレッサーグリッドG3を共にコントロールグリッドG1と見た場合に相当します。

図.五極管の三極管接続方法その3(高いμ)

上記の3種類の三極管接続では、後者になるにつれてコントロールグリッドとして用いるグリッドが増えます。これにより、コントロールグリッドの電圧を変化させたときの電子の流量の変化が大きくなると見ることができますので、その結果としてμがだんだん大きくなると考えることができます。

ただし、五極管によっては、真空管の内部でサプレッサーグリッドG3がカソードに接続されている場合があります。このような場合には、次の図のようにスクリーングリッドG2をプレートに接続することで、三極管の特性を得ることができます。

図.五極管の三極管接続方法その4(内部でサプレッサーグリッドG3がカソードに接続されている場合)

例えば、このような構造を持った五極管として上に述べた6BQ5がありますが、この真空管で上の図のように三極管接続したときのEp-Ip特性が以下のグラフです。前のようにある程度大きなEpにおいてIpがほぼ一定だったのとは違って、Epが増加するに従ってIpが増加していく、三極管のような特性になっていることが分かります。

図.6BQ5三結のEp-Ip特性(6BQ5 General Electricデータシートより引用)

参考文献:
宮脇一男,真空管回路,電気書院,1961年.
笹尾利男,真空管工学,三共出版,1965年.

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