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かつての青春を成仏させる時が来たのか

先日、ランチをするはずが、気づけば夕飯間に合わない時間まで話し続けた丸の内。
会いたくて会いたくて会いたかった心の友との時間は、「あれ?時間泥棒いたね?」と学生時代に戻ったのかのように時空が歪む。
そのぐらい、話しても話しきれないほど時間があっという間に過ぎた。

ローストしたハイナンチキンライスがうまし!

友人が母校の小学校でキャリア教育の授業をするという話の流れで、お互いの共通点にビックリする。
知り合ってから長いけど、そんなことを聞くことは初めて。

かけっこが早いとか、ピンクレディが踊れるとか、そういうのが人気者だった時代。
活発な夏色のナンシーみたいな子が目立って眩しかった時代。

本が好きで、人と合わせるのが苦手で、走るのは遅くて、むっちゃ地味だった頃、教室の中で影が薄い私に先生が「書く」ことをすすめてくれたこと。
友人は、声を誉めてもらってオペラ歌手になったらいいわ、と言ってもらったこと。
そこから、人生がそのように運ばれて行ったという話で盛り上がる。

息が出来ないぐらいの海の底にいる時、集団に埋もれてる時に誰かが自分を見つけてくれた、ということは大きく人生を変えた。

あの時、あの先生が「詩を書きなさい」とノートをくださって、交換日記のように私の詩を見続けてくれなかったら、今ここにいない。
私の書いたものを、新聞社や角川など出版社が主催するものに、影で送ってくれていたこと。
「朝日新聞に載ったわよ」
「角川の感想文コンクールで賞を取ったわよ」
あなたには、生きる価値がある、と自信を与えるために。

(だから、人の才能が埋もれてるのはもったいない!と思って開華道をやってるんだなぁ)

そこから、中学、高校と詩や小説を書きながら文学部へと大学を進める。
高校の時は大好きだった先輩に、文芸サークルを部活にしてくれと言われてがんばったなぁ。勧誘活動してたら、柔道部の子が入ってくれて驚いた。
そして、萩原朔太郎の詩に出会って、大学を決めたのは運命の導きみたいなものだった。

私は、この人の研究をする!と狼煙をあげた。

そんな話をしてたら、学生時代、すごくプライドが高かったことを思い出した。
何者でもないくせに、自分は出来ると思ってて、文藝新人賞とか目指してた。
ずーっと小学生から書いてたし、いろんな賞をもらってたから、いい気になってたというか、10代で新人賞がとりたかったんだ。
そういう名声で自分を、そこまで高めたかったんだろう。

でも、書いても書いても、出すことはなかった。

プライドと劣等感にさいなまされたものでした。

大学を卒業してから、アテネフランセに通って夏はグルノーブルに留学してた頃、日本にいる間はバイトをして、小説を書いていた。薄暗い喫茶店でまわりの煙草の煙とコーヒーの匂いで食欲もなくなりながら、書くことで何かを保ってた。

頭だけぐるぐる巻きで、社会からはみ出てた頃。今みたいに人とつながる術はなく、大学時代一緒に文学を語り合った友人たちは、どんどんと就職していって、なんだかちゃんとしてた。
電車に乗っても喫茶店でも、人々が話すことがくだらなくて、自分に刺さってきて、毎日いろんな声がうるさくて苦しいと話した時、
「何か日中体を動かしたりした方がいいよ」と言われた。
日々の中に苛立ちや、他者との区別がつかなくて苦しかったんだと思う。

「書く」ことだけが、現実と自分を繋いできた。まだ、「書く」ということだけは私に残ってる、、、と思った。

そう、、、命綱みたいに書いていた小説が、私にはある。クローゼットの隅っこに、薄い段ボールに入れて封印している。
悲しいほどに、美しいと思ってた未完成の作品。恥ずかしいほどに未熟で、空気を求めてパクパクと口を動かす金魚みたいに生きてた頃の作品。

「それ、出版したら?」と言われて腰抜かしそうになる。
「え、純文学だよ」と、余計恥ずかしい一言を言う。

まじか〜。
そんな風に考えたことは一度もなかった。

夫が40歳になって、ふたたび「芝居をやらせてほしい」と言った。
昔は、役者として有名になりたかった。世に出たかった。だけど、今はそう思わないから、ただ芝居がしたいんだ。舞台の上で生きたいんだ、と言った。

彼にも成仏させたい作品があって、
それは50で成し遂げられたものだ。

私は、まだそれに向き合う時間がなかった。
骨折して毎日書くということをして、
潜在意識に放り込んでいたものが追いついてきたのか。

原稿用紙に書いてたものを
ワープロで打ってた時代
感熱紙だから、もう消えているのかもしれないなぁ

引っ越しても引っ越しても
捨てられなかったもの

だけど、就職の時かな、結婚の時かな、封印したんだ。

節分が来たら、あの段ボールの蓋を開けて、
あの頃の原稿用紙と対面してみよう。

成仏させるには充分に寝かしつけてきた

もういいよね
息を吸えるようになって随分大人になった私がやり残したことを見に行ってみよう

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