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毒親から逃げ出した話


わたしが働いていたとき、母の口癖は「あんたの仕事なんて、遊びみたいなものなんだから周りに迷惑をかける、早く辞めなさい」だった。

わたしがパワハラ会社の仕事を命からがらやめて部屋に引きこもっていたとき、母はわたしを布団の上から蹴り続けて「仕事もできないクズ、生きてて申し訳なくないのか」が口癖だった。

この矛盾するエピソードからおわかりいただけるように、わたしの母は「娘をコントロール、支配すること」をあたりまえとするタイプの人間であった。

その時の気分で意見がコロコロ変わり、思ったとおりに動かなければ罵声を浴びせたり、わざと傷つくような言葉をかける。
後年、母はこの行為を「あんたの心を強くするために仕方がなくやった、私だって辛かった、外の世界はこんなもんじゃない」と語った。その頃のわたしはもう、そんな世界は異常な場所だと知っていた。

わたしの両親がどんな人間で、どんな苦しみがあったかは割愛する。前述の記載でおおよそわかっていただけただろうと思う。きっとこの文章を読む人は私がいかに苦しんだかではなく、具体的にどう脱出計画を立てて実行したかを知りたいのだろうから。

脱出まで用意したお金は35万円、かかった期間は4ヶ月。
その解説をしていく。

前準備

まずは具体的な予算感を掴むために、賃貸サイトで家賃相場が安いところを探した。次にバイト先の渋谷までアクセスがよいところを絞り込んだ。井の頭線の西永福がちょうどよく、6万のワンルームが見つかった。

6万の物件に安心して住むためには
敷金(1ヶ月)+仲介手数料(0.5ヶ月分)+2ヶ月分の貯蓄があればいいなと思った。
6万、3万、12万の計21万である。

そこに冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、ガスコンロを買うとして9万。
引越業車は赤帽に頼めば格安でいけるとわかった。(大型家電を運ばないため)

それから何が起こるかわからないため、予備費として5万を追加することにした。

私は35万円を貯める、という強い意志を持った。

隠し口座の用意

当時わたしの収入は母に吸い上げられていたので、自分自身の意思ではじめて銀行口座を作った。機械音痴な両親が使えないように、ネットバンクにした。住信SBIネット銀行で、バイト先の支払いをそちらに変えてもらった。
会社の運用が大変で、しばらくの間給与が滞ると両親に伝えた。かんたんに信じた。

その日から、私は両親に何を言われても平気になった。
私には貯蓄があるのだという事実が強い勇気になった。
当時の収入が13万程度だったため、爪に火を灯すような思いでお金を貯めた。
コツコツ集めていたアメコミコレクションも手放して資金にした。
ついでに私物も極端に減らした。もう二度とこの家に戻ってこなくていいように、一切残さなかった。

4ヶ月後、目標額が貯まった。
不動産屋と契約をして引っ越しの日取りを決めた。
大家さんと不動産屋さんには、両親から暴力を受けて逃げてきたことを泣きながら話した。演技力が必要だと思ったので、何度も練習した。その甲斐あって、全面的な信用を得ることができた。連帯保証人は特別に代行業者を使うことができた。

そのまま赤帽に予約をして、両親には何も伝えなかった。

引っ越しの日

ある日突然軽トラがきて、わたしの少なくなった荷物を運び出していく。母はそれを見て困惑していた。何がどうなっているのかわたしに聞いてきたが、外聞を気にする性質があるため、客(赤帽の運転手さん)がいる前では声を荒げることもできなかったようだ。

こうしてわたしはある日突然、静かに家を脱出した。
ただ、愛猫を残しているのが気がかりだった。
1年だけ必死にお金を貯めて、必ず迎えに来ると約束した。

新居にて

新居の生活は最高だった。
家電が何もない家で、倒れるように丸1日眠った。
カーテンのついてない部屋、すりガラスから差し込む朝日の眩しさで目が覚めた。

罵られることもなく、蹴られることもなく、静寂と安全があった。
わたしは泣けるだけ泣いた。安全なのだ。あまりの嬉しさに泣いた。お金を出せば安全が買えるのだ。4ヶ月の圧縮された感情が爆発するようだった。

貧乏はまったく苦にならなかった。
フォロワーさんが電気ケトルを譲ってくれて、嬉しくて泣いた。
Twitterで欲しいものリストを公開したら、玄関の天井に届くぐらいいろんなものが届いた。応援してくれる人がいることにまた泣いた。
生きててよかったと思った。心から思った。

その後

両親はどうやらわたしの脱出を「遅れてやってきた反抗期」と見なしたようだった。とても都合が良かった。
1ヶ月を過ぎた頃、一度帰ってこいという打診があった。
了承して実家に入るとき、意識して「おじゃまします」と言って入った。
飽きたらいつでも戻ってこいという話を聞いて、真剣な顔を作って頷き、猫を抱きしめて帰った。
猫を引き取るまで、表向きは良好な関係を築かねばならない。私はいつもニコニコして、月に一度はお土産を持って帰るようにした。

それから一年後、ほとんど貯蓄に回していた甲斐もあり、見事にお金が溜まった。このころ、実家での異常性と現実のギャップに脳がついていかず、うつの症状が出るようになった。
というか、実家にいたころからずっとうつだったのだ。それを普通だと受け止めていただけだった。

そのため、次の引越し先は都立松沢病院がある京王線の八幡山に決めた。ペット可物件を探し契約をし、すぐに猫を迎えに行った。
住民票に閲覧制限をかけ、親戚や知人にも新しい住所を教えなかった。

以来、わたしは実家に帰っていない。
唯一のつながりは、父とのFacebookだけである。

それから2度の引っ越しを経て、結婚もした。
もちろん両親には会わせていないし、事情を話したらすんなり信じてくれた。
パートナーは暴力とは無縁のおだやかな人で、毎日二人でケラケラ笑いながら暮らしている。
すべての愛情を注いできた愛猫も、10年わたしに寄り添ってくれた。今年の春に16歳で看取った。最高に賢くてかわいい猫だった。

今はもう両親の夢さえ見ない。
うつの治療をしていくうちに、発達障害があることも発見できた。
自分を見つけ直している気持ちで生きている。
うしろめたさや罪悪感はひとつもない。

脱出して本当に良かった。
自分の人生を掴み取ったのだ。
そのはじめの一歩は、35万円と4ヶ月だった。

まとめ

・必要な金額を具体的に決めて貯める
・少しずつ荷物を整理する
・ある日突然引っ越す
・実家に鍵を渡さない
・仲間、協力者をを増やす
・鬼電は無視する
・家族の死に目に会えなくても良い
・一人暮らしや金銭面での不安から、実家に戻りたい欲が一度は必ず湧く。親が泣いてきて、私がいなきゃだめなんだ…と思ってしまうイベントが発生しますが幻覚です。忘れましょう。


8/1追記
「これから脱出する人のために」という紹介をされたので、これから引っ越す人向け情報を書き添えにきました。

段ボール5箱ぐらいまで荷物を減らせたら、宅急便で逃げられる
本当に必要なものをパッキングして新居に日時指定をして送っておけば、ある日突然逃げることも可能。暴力を伴う場合など、緊急性が高いときにおすすめ。

生活に困窮している場合、自治体からお金を借りられる可能性がある
ただし事前に医師や、保険や福祉を管理する部署で、ケースワーカーさんに親からの暴力を受けていて自分が困難な状況にあることを根回ししておく必要がある。あらかじめ相談したいことを紙に書き出し、電話して相談しておくと良い。

最初にかかったメンタルクリニックや精神科のこと
毒親にやられた人は大抵精神を削られています。長期にわたる疾患が認められた場合、障害年金を受け取ることができる。その際、病院にかかった初診日、転院歴など詳細が必要になるので、紹介状などは面倒でも必ず書いてもらっておいた方がいい。後から初診日を追いかける時の証拠になります。
特に地元から遠く離れる場合には気をつけて。

あえて連絡手段を残しておく
連絡先を完全に断つと、毒親は何をするかわからない場合がある。なので、あえて携帯の番号を変えずに残しておいて(ガラケーの白ROMを買って通話専用プランなどにすると1000円※ぐらいで運用できる)、自分用に新しく格安SIMなどで電話番号を取得する。
「いつでも連絡がつく」という安心感を与えておくのも戦略の一つかなと思う。電話に出る必要はない。電話に出てしまったとしても、まともに聞く必要はない。

※500円以下で回せたのは過去の話でした、情報古くてすみません。最近の最安値は通話専用SIMで1000円前後。

人事には根回しをしておく
勤めてる会社に「うちの娘と話がしたいので出してくれ」って電話がかかってくることがあるの!!!!信じられる!?!?あるの!!!!超恥ずかしかった!!!!
人事を味方につけておくことを強くお勧め。診断書を持って精神的にもう限界なこと、家庭の事情を職場に持ち込んで大変申し訳ないが、味方になって欲しいということを決行前に根回ししておく。
会社に直で乗り込んでくることもあるから、転職しちゃうのもアリ。本当に恥ずかしかった!!!!!

ある日突然家に来る可能性を考慮しておく
住所も教えていないのに、なぜかある日突然玄関のチャイムを鳴らされることがある。毒親の執着は異常なものなのなので。
来るかもしれない、と怯えるのではなく、来たら絶対に玄関の鍵を開けない、通報するなどのイメージトレーニングをしておくと良い。避難訓練のようなもの。大家さんに事情を話しておかないと「家族だから」という理由で鍵を貸してもらって部屋に上がっていたりするので気をつけて。

あなたの幸運を祈ってます、グッドラック!
利用できるものは全て利用していこう!

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