煙草の煙を燻らせて

喫煙所。そこにいる人々にはそれぞれの人生や家庭や哲学を持っていて、各々が別々の理由で煙草に火を灯してる。僕は煙草を咥えて、フィルターから吸い込んだ後に一度少し吐き出して吸い込む。その方が心地良い。

喫煙所では顔を顰めてる者もいれば、ひと仕事終えた達成感のようなもので満足気な顔を浮かべてる者もいる。僕はどちらだろう。

その日、僕はハプニングバーに行った帰りだった。そこには栗谷えりかという女性がいた。彼女はリクルートスーツに身を纏い、パパ活のパパと来ていた。木樽という男だった。木樽はえりかが3Pしたいというので初めてハプニングバーに来たという40歳前後の男性だった。

「君は薔薇より美しい物を知ってるか?」
空とか海、そんな類ですか?と僕は返した。

「いいや、違う。彼氏より気持ちいいって言ってる時の女の顔だ。それが雰囲気によって、或いはお金によって言わされてるものだとしても僕をこれ以上ないくらい幸福にしてくれるのだ」
なるほど、それは浮気では味わえないものですか?

「浮気は山ほどしたが、それとこれはまったく別物だ。そこでだ、今回はあいつが3Pしたいと言って来たので、どうせなら僕の前にしてもらって、その後にさっきより全然良いって言ってもらいたくてね」
僕が思う3Pとは結構別物ですね、普通は3人特有の良さを味わうためにするもんです。

「君は乗り気じゃないのかな?」
いいえ、僕はなんでもバッチ来いですし、何より彼女の顔はとても好みなので何はともあれしたいですね。

僕たちは店員にタオルを貰って地下のプレイルームへ降りた。
彼がシャワーを浴びている間、僕は無粋だなと思いながらも彼女に本当に彼とのセックスは彼氏のより良いのか聞いた。
「半分本当で半分嘘ね、彼早いしね。でも彼はそれを求めているし、彼が喜ぶのは嫌いじゃない。単調にこなすだけの彼氏とのより好きかもしれないし、究極相手が喜ぶものっていうのは良いセックスの一つの形だと思うわ」

なるほど、なんとなく感心して彼が帰ってくる前に彼女と始めた。彼が部屋に入ってくると僕らがもうしているので、彼はやや驚いていた様だが、なんとなくそれを眺めていた。僕が果てた後、彼と始まった。
確かに彼は頻りにさっきより気持ちいいか尋ねていた。彼女はもちろん、そう叫びながら果てていった。

確かに彼は早かった。でも、ある程度の信頼関係にある二人のそれは僕のよりも充実している様に見えた。
その日、僕は他に2人としたがなんとなくえりかとのことが忘れられないでいた。

僕が終えて、シャワーを浴び終わってフロアに戻るとえりかと木樽が帰るところだった。彼女が僕の元へ来て、確かにあなたのは彼より肉体的には素敵だったけど、でもどこか彼の喜ぶ顔が、私の奉仕精神をくすぐるし、彼氏とのそれよりその面では素敵だったし、肉体的幸福では見られてるのも含めて、あなたのがこれまでで最高に良かった。また、あなたが恋しくなった時にはここに来るわ。あなた何曜日によくいるの?


適当に答えた後、僕は外に出て、御徒町駅近くの煙草屋にある喫煙所にいた。
そこには終電近くでギリギリの最中、一服するサラリーマンや御徒町駅が最寄り駅なのか降りて来てそのまま一服する人たちの姿があった。
僕はえりかの言葉を反芻し、色々思いを馳せながら煙草の煙を吐き出していた。

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