悲しみの雨、希望の空


 明日から戦争が起こるらしい。らしい、という言い方になってしまうのはどれだけ何を検索してもソースが出てこないからだ。東の国と戦うという噂もあれば、北から攻められるという噂もある。とにかく僕たちはその実態に迫ろうと努めたが、どこまで行っても何も出てこなかった。

「明日死ぬかもしれないわね」
昼休みにあかりがそう言った。
「民間人が死ぬようなものじゃないのかもしれない。例えば、猫と犬が戦争を起こすのかもしれないし、そもそも本当に戦争が起こるのかもわからないじゃないか」
「それもそうね」
あかりは暫く黙った。
「僕は戦争が起きても起きなくても普通でいたいんだよ。戦火で消えて無くなるまではこの校庭でバットを降るし、悠人の球を捕らなくちゃいけない。あいつもきっとそうだ」
「そういうのって素敵ね。私はこのまま全てが滅んでしまえばいいって本当につい最近まで思っていたのに、いざ本当に得体の知れない何かがこの日常を壊すと思うと怖いのよ、とてもね」
僕はその日の学校終わり、あかりを誘って街へ出た。街は明日の戦争に備えて早閉めしている店もあれば、そんな噂に脇目も振らず懸命にこれからの為に商売している店もあった。適当なファストフード店に入って、あかりはこれが最後の晩餐かもねと言いながらチーズバーガー、僕はテリヤキバーガーのセットを注文した。
「ねぇ、今日の古典の小テストね、私すごく勉強して臨んだのよ。期末試験の点数が足りなかった時の救済措置になるって江畑先生が言ってたから」
「次の期末試験の前に勉強すれば救済措置なんて使わずに済むじゃないか。それにあかりはいつも古典の成績はAだった気がするけど」
「明日世界が終わるとしてもその先の準備や心配事を一つでも無くしておきたいのよ」
あかりの声は震えていた。

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