ルールを知らない正月飾り|毎週ショートショートnote
今年も、この季節がやってきた。
若手の少ないこの村で気づいたら代表にさせられて、もう3年が経つ。
「適当でもいいんじゃないですか?」新入りの田中は軽い感じで言うが、そんなわけにはいかない。
「わかってるだろ?」
この村では毎年冬が近づくと、祭りの準備のために人が集まる。
ここ何年もこの村に移り住む人はいなかったが、今年の春に新しく入村した田中は村の活性化につながると丁重に扱われており、すこし調子にのっているのだ。
村祭りの目玉は「正月飾り送り」だ。
重く深い音色の琵琶(びわ)と、尺八が二管、小さな鈴を百〇八つまとめた「節の馬」を鳴らしながら正月飾りを配るために村を練り歩く。
家々を回るのは、白束(しろたばね)を務める私と、牛飼童(うしかいわらわ)のこどもが二人、道外方(どうけがた)が一人。
田中は初めての道外方を演じることになり、今まで道化を務めてきた村のじいさま達に厳しく指導され、嫌気がさしているようだ。
いやだとか、適当ではすまされない。
絶対にやらなけらればならない。
祭りを盛り上げる役目の道化方は、目が半分隠れるひょっとこのような面をかぶり、音に合わせて踊りながら、笛を吹く。
道化方は陽気な見た目とは裏腹に、厳しいルールがある。
そのふざけた雰囲気にのまれて、田中はさらに調子にのっている。
「はじまるぞ。」
大きな白い紙を束ねた式服を身に纏った私が一歩大きく足を出す。
それに続いて、牛飼童のこどもたちが、ばらばらと後を追う。
道化方の田中が三歩遅れて、後に続く。
(遅い……。)
道化方は、二歩後ろを進むのがルールだ。
さらに私が一歩進む。それに合わせて、牛飼童、道化方も進んで行く。
この一年でたまった穢れをおしはらうように、重く苦しい空気の中一歩ずつ進む。
すこしづつ式服が青紫色に染まってゆく。
(南方からきた病のせいか…… 今年の穢れは特に重い。)
道化方の動きが遅すぎる。
ちらりと田中を見ると、道端で祭りを見守る人々に声をかけている。
・祭りを執り行う四名は声を出してはいけない。
これは祭りのルールだ。
田中を止めようにも私も声が出せない。
祭りを見守る人の中にも、田中を止める者はいない。
・祭りを執り行う四名に声をかけてはならない。
だから、誰も田中を止められない。
何かを割るような鈍く大きな音がして田中は沈黙した。
やはりルールを知らない者に正月飾りを頼むのは、やめておけばよかった。
【あとがき】
今週もたらはかにさんの #毎週ショートショートnote に参加させていただきます。
なんとなく奇妙な村の祭りがあったら面白いかも~?と書き始めた時は、流れ星(芸人の)肘神様が頭に浮かんでいたのですが、平安時代のお正月行事の名前や、それっぽい役名をつけているうちに、もうこれ田中フラグたってる……ってなって怖い話になってしまいました。
楽器の鈴の名前は、白馬の節会(あおうまのせちえ)というお正月行事からとったり、道化方(どうけがた)は、歌舞伎の役柄から、牛飼童(うしかいわらわ)もどんと焼きを調べていたら出てきた言葉です。
「道化」が道から外れる=ルールを知らない
みたいな意味もこめてみたり。
なんとなくそれっぽい名前を適当に当てはめるのも、めちゃくちゃ楽しかったなあ。
前の週のお題で書いたものはこちら↓
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