三橋の自己紹介
三橋とは私のことだ。なんの特徴もない平凡な女だ。
私が人と少し違うとすれば、日本ではなくオランダという国に住んでいることくらい。ただ、オランダに住んでいても私は何の秀でた才能もない普通の人間なのだ。
私、三橋がオランダに来たのは2017年の3月。なぜオランダに来たのかという質問に対して答えられるのは「ヨーロッパに住みたかったから」の一言である。
三橋は2014年にイギリスはロンドンに11ヶ月語学留学をして、その後日本で再就職を遂げたのだが、ヨーロッパでの生活が忘れられなかったのだ。
これはイギリスに行ったことがある人あるあるで、特に30歳前後の女で、語学留学やワーホリなどでイギリスに住んだことがある場合、日本に帰国してからもイギリスが忘れられないのだ。
そんな私もイギリスが忘れられずもう一度住みたいと思っていたが、なんせ手段がない。大学に行くような頭の良さもなければお金もない。イギリス人と結婚したいと思っても相手がいない。仕事をしたいと思ってもビザが取れるような高度技術職なわけでもない。
本当に平凡な地方都市に住むOL、独身、彼氏なしで、ロンドンに帰れる方法はないのかと嘆いていた。
きっかけはロンドン時代に出会ったフィリピン人の親友だ。ロンドンに帰りたいと電話口で嘆いていた私に、「日本人ならオランダで簡単に働けるらしいよ」という情報を提供してくれたのだ。彼女は他にも日本人の友人がいて、その子から聞いた話だというのだ。
「オランダってどこ?」とはならなかった。なぜなら私はロンドン時代に旅行でオランダに行ったことがあったのだ。
「あぁあそこか、いいところだったな」と思った。そして親友から聞いた情報が本当かインターネットで調べた。
そして私は知ったのだ、その「日本人なら誰でも簡単に働けるビザ」が2016年12月末をもって発行が終了することを。それは2016年10月末であった。
私は急いでオランダの求人を探した。この際仕事は何でもいいと思った。その理由は「とにかく期限までにオランダに行かなければいけない」と思ったからだ。
このチャンスを逃したら、私がヨーロッパに長期で住める可能性はゼロに等しい。
三橋、この時すでに32歳。ワーホリの期限も終わっていた。もう道はこれしかない、と焦っていた。
運良く仕事を見つけ、Skypeで面接をして採用された。会社には「2016年末までにビザ申請をして2017年3月末まで渡蘭すれば大丈夫。」と言われた。
私のオランダ行きが目の前までやってきている。しかし、ここで私は悩んだ。日本での今の仕事を辞めなければならないからだ。
OLとして働いてた私は大規模なプロジェクトにいくつも関わっていた。派遣から契約社員、正社員と着実にステップアップを遂げていた。ようやく手に入れた安定した仕事。大好きな仲間と働ける環境。
私は迷った。この仕事を辞めたくない。もう少しがんばったら昇進もできそうだと思っていたからだ。このままキャリアを積める。そう思っていた。
どうしよう、どうしよう、悩みに悩んだ。冷静に自分に問いかけた。私はどうしたいのか。どっちが優先順位が高いのか、と。
よし、10年後の自分を想像してみよう。日本でこの会社で10年働いた自分はどうなっているだろうか。そうだな、きっと同じ会社でまだ働いていて、昇進もして、キャリアアップしている。
ただ独身で彼氏はいないだろうな。ソースは同僚。私よりいくつも年上の女性同僚たちは全員独身だった。結婚している人やこどもがいる人は皆無だった。離婚経験者はいた。そうだな、私もきっとこうなるだろう。
では私がオランダに10年住んだらどうなるだろう。仕事はそこそこしながらも、パートナーがいる生活だろう。
私のロンドン時代の友人は皆、パートナーがいて、家に伺った際もよくしてもらったり、こんな夫婦いいなぁと思ったものだ。夫婦といっても対等で、ふたりでの暮らしを楽しんでいる。二人とも18時には家に帰ってきて二人で夕食を食べて、その後は散歩をしたりゆっくりする。
金銭面ではなく心が豊かな生活だと思った。そして私はそういう生活に憧れていた。私の10年後もそうであってほしい。
そしてそれができるのは日本ではなくオランダである。そう確信して、私はオランダに行くことに決めた。
オランダにある会社には「このビザは1年で、その後更新できるかは未定だ。」と言われていた。
現在働いている日本人は、初年度1年のビザ、その後更新して5年がもらえている、とのことであったが、ビザの規定が変わったことで、更新ができるかどうかの実績がなく、答えられないということであった。
好きな仕事を辞めてオランダに行けたとしても、1年で帰ってこなくてはならないかもしれない。それは意味があるのか?
しかもビザがもらえれば何でもいいと選んだキャリアアップでもない仕事。そんな仕事のために、キャリアアップになる仕事を辞めていいのか。オランダに行くと決めたが仕事を辞めるのが惜しかった。
私は上司と面談をした。何の前ぶれもなく上司に「オランダで働きたいので辞めたい」と伝えた。上司はこんな無茶苦茶勝手な私に次の言葉をかけてくれた。
「行きたいなら行ったらいい。もし1年で帰ってくることになったらそれでいい。行ってみて仕事が好きじゃなかったら日本に帰ってきたらいい。またこの会社に戻ってきて働けばいいよ。」
涙が出た。なんて心が大きい人なんだろうと。実際、その会社は出戻り採用をしている会社だったこともあり、出戻りの敷居は低めだった。しかし、上司からの言葉はまったく期待していなかったから嬉しかった。
私はいつでもここに帰ってこれるんだと思ったら気が楽になり、オランダに行ってみようという気持ちが強く固まった。
32歳、独身、彼氏なし、高度技術職でもない三橋がオランダに飛んだのは2017年の半ばであった。
現地についてビザをもらったところ、なんと1年ではなく5年であった。人事部にもなぜ5年のビザが出たのかは不明といわれるくらいラッキーであった。私はツイている、ここで暮らしていける。目の前には期待と夢が広がっていた。しかし、現状は厳しいものであった。
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