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AIと記憶色

 暇にまかせて、「白黒写真の自動色付け」というものを試してみました。「 AI技術を用いて白黒写真を自動で色付けをするサービス」。あるプロジェクトサイトとして公開されているものです。どのような「研究者」の方なのか私が拝見したページには詳しく記されていませんが、「ファイルを選択して色を付けたい画像を選択」、「色付けボタンを押すと結果が表示」とありました。とても簡単なので、手元にある何枚かを試してみました。商業べースでの使用はダメのようです。「このサービスは非営利かつ個人的な目的のみに使用可能です。」とあります。

 まず昨年写真展「あの頃の旅情」で展示した80年代のモノクロ作品。これは案外「そのように」色が付けられました。空と樹木の色はある程度普遍だからかもしれません。娘のスカートがピンク色になっているのは確かに「AI」の力なのかとちょっと納得したりもしました。さらに同じようにAIにはわかりやすい海の色が良いのではと思い、これも展示作品から。

 なかなかいい感じです。ちょっと昔の人着(人口着色写真)を思い出します。私も若い頃には作品としてよく制作していました。さて、問題はもう少しAIにわかりにくい写真はどうだろうということです。

 まず逆光のコレ。

 パッと見には、雰囲気は出ているのですが、その「着色」は、領域なども案外曖昧です。こちらでは海、空の色合いが再現されていません。空などはあくまで私の「記憶色」としてはもっと「オレンジ」です。

 この写真は、もちろんデジタルカメラで撮っています。特にオレンジ色を強調させてはいませんし、原色が際立つものでもなく、モノクロにした理由もフラットで良いと思えたからです。しかし写った個々の色彩がオリジナルにはしっかり残っています。

 さらに今度は相当古い写真を試してみました。1960年代のスナップショット。

 AIは飴細工屋さんのおじさんの鳥打帽子、飴細工の細い棒を入れる容器、そして女の子のセーターなど同系色でまとめています。無難なところですが、何か物足りません。50年前の写真ですから、女の子のセーターの色など記憶しているわけではないのですが、全て一色単にまとめられている感じで少しがっかりしました。

 人間がある風景や光景を見て、それらがしばらく記憶色というものとして留められていく道筋を詳しくは知りませんが、少なくとも昨今のデジタル画像処理の際には重要なのものとなっているのは確かです。写真作業の上では、そのためにカラーマネージメント、モニターキャリブレーションなど大切な設定もあります。AIの技術はますます高度なものになっていくのでしょうが、いかに、どのよう、人間個々の記憶の領域に入り込んでいくのか。例えば記憶した色をどのようなものとして表現していくのかに興味が出てきました。次の写真など、完璧に色を再現できるような時代が来るものでしょうか。期待する一方で、やっぱり無理だろうとする「わたしの記憶」もあります。

 ほとんどカラーにはなりませんでした。きっと、AIは迷うよりも理解できていないからでしょう。母の「まえかけ」はもっと白でしたし、かすかに口紅も付けていた。そして空はきっと青かったはず。記憶の中の風景はそんな細かな色彩が混じり合うもの。AIがそのような「注文」をインプットさえすれば聴いてくれるとは思うものの、果たして時代の空気感を鮮やかな色彩としてビビットに伝えてくれるかという保証は、今のところないのではないでしょうか。しかし、こうした可能性を秘めた試みを公開していただけるというのはとても有意義なものだと思います。

 ただの暇つぶしでした。


古くから様々な読者に支持されてきた「アサヒカメラ」も2020年休刊となり、カメラ(機材)はともかくとして、写真にまつわる話を書ける媒体が少なくなっています。写真は面白いですし、いいものです。撮る側として、あるいは見る側にもまわり、写真を考えていきたいと思っています。