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美味しければみんなが幸せになれる【フードクリエイター・Miica Fran】

2022年8月5日から香川県三豊市の三豊鶴で実施される「酒蔵Art Restaurant」
150年前に作られた歴史ある酒蔵の中に、現代アーティスト23名による作品が展示・販売されるほか、シェフ8名が週ごとにコース料理を振る舞います。

今回は、8月19日(金)〜21日(日)、9月23日(金)〜25日(日)を担当するシェフ、Miica Fran(ミーカ・フラン)さんをご紹介します!

プロフィール

1979年東京都生まれ。徳島県在住。
フードクリエイター

建築事務所でデザイナーとして働き、2010年に渡仏。フランスの家庭料理を学ぶ。帰国後は展覧会/イベントの企画運営会社ディレクターを務める。やはり料理がやりたいと2018年からはフードクリエイターとして活動。ポップアップレストランEAT PROVANCE、GRID Nite Cinemaで料理を担当。2019年オーガニック、アート、ファーム、フードロス、サステナブル、ゼロウェイストなどの視察でヨーロッパ、北欧を訪問。今までに30ヶ国を訪問。目黒で実験的なゼロウェイストレストランBio labo houseを始める。2021年東京~徳島へ拠点を移し、世界農業遺産つるぎ町でガストロノミー、うだつの町並みで『TALK & EAT』、『モノの循環市』、『みんなでお着物!いちにちお江戸でい!や上勝で『サステナブルディナー』などをプロデュースしている。
コンセプトやテーマを持って料理を通して伝えていきたい。 食材はどこからやってくるのか?誰が作っているのか?どのように作られた野菜か? 地域のリサーチから始め、その地域でとれる旬のものを使用する。農家さんを訪問し、畑や作り方、どういう思いで作られたかを知る。 質の良いものを体に入れる。なるべくオーガニックのもの、調味料を使います。なぜならYou are what you eat. 人の体はたべものでできているから。そして生産者さんへの感謝の気持ちとリスペクトを忘れずに、作ってくれる人を大事にし食べる人と繋げたい。私は大事に思うことを料理を通して伝えていくことをしています。

「循環する食と農」をテーマにサステナブルな料理を提供

ー普段どんな料理を提供されているんですか?

これ、というジャンルは無くて、色々やっているのですが、強いて言えば、「循環する食と農」というのがテーマでしょうか。

普段から、安心安全で美味しい食材を求めて、いろんな農家さんを訪ねて直接仕入れをさせてもらっています。畑見せてもらい、農法や育て方を教えてもらうことで、自分自身で食のトレーサビリティ(追跡可能性)を担保し、安心安全な食を目指しています。無農薬やオーガニックにこだわっている人のところを中心に回って食材を選ぶことが多いです。

循環型農業や、リジェネラティブアグリカルチャー(環境再生型農業)という言葉が最近出てきたと思うのですが、やはり、環境負荷をなるべくかけずに食べ物を作ってくれている農家さんたちを大事にしたいという思いが強いです。環境と人間、両方にとっていいものを選んで、循環するようにしていきたいなと思っています。

ヨーロッパ6ヶ国をめぐる旅を経て

ーとても素敵な考え方ですね!これまでの経歴の中で、その考え方に至るきっかけがあったのでしょうか?

経歴で言うと、最初は建築事務所に所属して、インテリアデザイナーとしてインテリアや空間のデザインをしていました。この時からものづくりが好きでしたね。

その後に仕事のご縁で、フランスに行くことになり、しばらく滞在していました。ステイ先のマダムが料理の先生だったので、「教えてもらいたい!」と頼み込んで、最初はお菓子作りから、オーブン料理、季節の料理などの家庭料理を学ばせてもらいました。フランス滞在中は、料理のことだけではなく、アートや建築もたくさん見に行きましたね。

帰国後は、再度建築事務所に戻り、フランスアンティークの会社に行って、展覧会企画運営の会社へと移りました。それらの仕事は楽しかったのですが、かなり忙しくて心も体も疲れてしまって。「食だけはいいものを体に入れないとやっていけない」と思い、家庭菜園をオーガニックで始めたんです。

そんな日々を過ごしていると、やはりフランス滞在時の料理を作っている幸せな時間を思い出したんですね。私がやりたいことって、料理なのでは?と思い、その後は「自分の好きなことしかやらない!」と決断しました。会社に所属していると、いろんな人と人との間に入って調整したりしないといけなかったり、大変なことも多かったので、これからは自分のことを大切にして、自分の好きな人と働きたい、と決意したんです。

南仏にいたときは、食事はワインから始まって、コースでどんどん料理が出てくるのですが、日本人が想像するようなかしこまった感じではなく、もっと温かくてカジュアルなんです。特に、家庭的なパーティーとかは、美味しいものをみんなで共有して、「今日という1日がまたきてほしい!」と思えるような充実感があるんです。

日本の食卓はとにかく忙しくて、特に仕事中とかはデスクでおにぎりを駆け込むことも…一方、フランスの食卓は時間がゆっくり流れて、いろんな話をして、という雰囲気なんです。本来の「食事」というのはそうあるべきだと思うんですよね。その食事のあり方をみなさんに伝えたいなと思って活動を始めました。

まず手掛けたのは「ポップアップレストラン」。1日限りのレストランを目黒でやりました。友人のバーを借りて一度やってみたら好評だったので、その後は月1回くらいのペースで続けていました。
お客さんとしてはいろんな国の人が来てくれましたね。フランス人の方も「おばあちゃんの味を思い出した〜!」と言ってくれたり、フランス人のパティシエが来た時には、「おかわりないの〜?」と言われたりして嬉しかったです。

レストラン勤めをすると、外に出る間もなく、ずっと厨房で作業しないといけません。もちろん農家さんのところに行く暇なんて生まれないわけですが、個人的には「料理人もいろんな働き方があっていいのでは」と思っているんです。それで、「フードクリエイター」と名乗って、ジャンルにとらわれず活動しています。

2019年には、ヨーロッパ6ヶ国を巡る旅をしました。フランス、ドイツ、デンマーク、ポーランド、エストニア、フィンランドです。これまで30ヶ国くらい旅をしてきて、いろんな国のいろんな料理や文化、多様性を見てきました。

6ヶ国の旅の目的は、オーガニック大国であるフランスやドイツの食の事情を知ることと、パーマカルチャーについて学ぶこと、ゼロウェイストレストランに行くことでした。フランスではパーマカルチャーを実践する人達がいて、訪ねていきました。

パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)を組み合わせた言葉で、永続可能な農業をもとに永続可能な文化、即ち、人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法です。

パーマカルチャーセンタージャパンホームページより

パーマカルチャーとは、衣食住全てを含めた循環するライフスタイルのあり方を指す言葉です。これを提唱したのはビル・モリソンという方ですが、彼の元で学んできたフランス人の方が実際にフランスの島で暮らしを実験していたので、私もしばらくの間一緒に生活をさせてもらいました。森の中での生活だったので、森で食べられるもの、例えばエディブルフラワー(食べられる花)や、野草・木の実などを教えてもらったり、ガーデンで育てたりしていて、私は料理を担当していました。

当時、フランスとドイツでは「食品廃棄をしていけない」という法律ができた年でした。食品自体をゴミ箱に捨ててはいけないんです。この状況についてもリサーチしてみたいと思い、パン屋さんやマーケットの裏側まで見にいき、ロスになっているもの(フードロス)があれば集めて持ち帰って料理に使いました。

そこで、「ディスコスープ」をひらきました。これは、ドイツで始まった取り組みでして、フードロスになった野菜などを持ち寄って、町で音楽をかけて(ディスコのように)踊りながら、みんなで料理をする、というスープなんです。スープにすれば、野菜の大きさや形に関係なく美味しいものが作れる、ということで、「国際ディスコスープデー」が毎年開催されます。近所の人を呼んで、みんなでクッキングして、音楽をかけながら楽しむんです。

また、ドイツでは、閉鎖されて長く使われていなかった発電所からアートを発信しよう、というプロジェクトに参加しました。みんなで汗まみれになりながら、ペンキまみれになりながら作業してギャラリーを作りました。

フランスと同様、ドイツでもフードロスの問題があったので、ボランティアで来ている人たちの食事にフードロスの野菜を使用して料理を振る舞いました。スーパーと提携して食材を持って帰ってきて、そこから料理を作るシステムにしたのですが、スーパー側にも、「フードロスの寄付先がなかったらどうしよう」という悩みがあったので、近くの施設と提携して料理に活用するのは良い循環でしたね。実際に体験できて良い経験になりました。

デンマークでは森の中にあるホイスコーレに1ヶ月ほど滞在して、食堂で料理をしていました。キッチンは「オーガニックのもののみ使用・添加物なし」というコンセプトだったので、私にとっては天国のような環境でしたね!

そこでは、ビーガン、ベジタリアン、グルテンアレルギーなど色々な方がいて、3種類の料理を作らないといけなかったので、どうしてもフードロスが生まれてきてしまうんです。それが嫌になってきてしまって、「みんながボーダレスに、何も気にせず幸せに食べられる料理を作りたい!」と思うようになりました。そこからは「ビーガンかつグルテンフリー」で美味しい料理をどう作るか、という観点でたくさんレシピを作りました。「みんなが食べられる料理ってできるんだな」と思いましたね。美味しければ、みんなそれだけで幸せになれるんです。

フィンランドには、「ゼロウェイストレストラン Nolla」というお店があります。ゼロ・ウェイスト(zero waste)とは、「ムダを出さないこと」を意味していますが、その実情を知るためにオーナーを尋ね、コース料理を食べて、「これは素晴らしいな」と実感しました。帰国したタイミングで、目黒にある知り合いお店で実験的にゼロウェイストレストランを始めましたね。

徳島には1年半前に移住しました。これは、徳島県上勝町が「ゼロウェイスト上勝」を謳っていたことで、「上勝には行かないといけない!」と思っていたのがきっかけです。インターナショナルな感覚を持った若い人たちがゼロウェイストセンターやホテルを運営していて、カナダから移住してきた人たちもいて、これからの可能性に満ちている町です。

徳島市内から、車で約1 時間。大部分が標高700m 以上の山地に覆われ、急な斜面に棚田や段々畑の風景を残す人口約1500 人の徳島県上勝町。2003 年に自治体として日本で初めての『ゼロ・ウェイスト(Zero=0、Waste=廃棄物)宣言』を行いました。上勝町のごみをゼロにする=ごみをどう処理するかではなく、ごみ自体を出さない社会を目指し、上勝町ではごみ収集を行わず、生ごみなどはコンポストを利用し、各家庭で堆肥化。瓶や缶などのさまざまな「資源」を住民各自が『ごみステーション』に持ち寄って45 種類以上に分別、『ゼロ・ウェイスト宣言』から17 年経過した現在、リサイクル率80%を超えています。

上勝町ゼロ・ウェイストセンターホームページより

コンセプト:瀬戸内海と山をつなぐサステイナブルコース料理

ー今回三豊鶴で提供していただく料理について教えてください。

コンセプトとしては、「瀬戸内海と山をつなぐサステイナブルコース料理」です。なるべくローカルの香川産か徳島産、四国産のものを使う予定です。現在リサーチ中でして、地元の美味しい食材を作る農家さんに直接出向いて、その方達の思いを聞いています。「農家さんと食べ手をつなぐ」というのをずっとやってきていますので、もし調整できれば、三豊鶴の会場に農家さんをお呼びしたいなとも思っています。

安心安全で、質の良いものを体に入れる、というところにこだわりたいです。環境に配慮した形で、食のトレーサビリティを考慮したものです。ローカルの方々と繋がりながら作り上げていきます。

アーティストとのコラボに関しては、8月19日〜21日に3名のアーティストさんとコラボするのですが、「アーティストの作品を見て、そこからインスピレーションを受けて、お皿に落とし込む」ということをやっていきます。現段階ではすごく細かいところはまだ決めきれていないのですが、方向性としては、「季節の旬の土地のものを使う」というところですかね。

この回は3名とも個性が全然違うんですが、私にとってはとても楽しいです。東京にいたときに、映画と食のイベントをやっていたのですが、映画を見て、そこからインスピレーションを受けた料理「映画飯」を作っていました。クリエイティブな何かがないと生まれてこないものは確実にあるので、フードクリエイターとして、今回のようなやり方はとても面白いと思っています。大変なこともあるかと思いますが、楽しい方が大きいですね。

※この週でMiica Franさんがコラボレーションするのは、四代田辺竹雲斎さん、松田真魚さん、髙木玲雄さん。それぞれ担当アーティストさんとMiica Franさんのトークショーの後、コース料理が提供される予定。(同じ記号のところは同じメニュー、計4種類のコース料理)

19日 ランチ:髙木玲雄さん●/ディナー:四代田辺竹雲斎さん◎
20日 ランチ:松田真魚さん◇/ディナー:四代田辺竹雲斎さん◎
21日 ランチ:髙木玲雄さん●/ディナー:松田真魚さん★

松田真魚さんには箸置きを作っていただけることになりました。こちらもお楽しみに!なお、9月23日〜25日にも担当するのですが、こちらはまだ調整中です。

ご来場いただく皆様へのメッセージ

アートと料理のコラボというのはなかなかない貴重な機会なので、楽しんでいただきたいです。また、基本はオーガニックのものを使い、良い食材を使って人と自然に優しい料理を作ります。楽しみにしていてください!

三豊鶴「酒蔵Art Restaurant」とは

皆様のお越しをお待ちしております!