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融解による衝撃【現代美術作家・金澄子】

2022年8月5日から香川県三豊市の三豊鶴で実施される「酒蔵Art Restaurant」
150年前に作られた歴史ある酒蔵の中に、現代アーティスト23名による作品が展示・販売されるほか、シェフ8名が週ごとにコース料理を振る舞います。

今回は、11月3日(木)〜6日(日)に在廊する現代美術作家の金澄子(きん すみこ)さんをご紹介します!

プロフィール

宝塚造形芸術大学博士課程卒業。1984年、世界四大アーティストの一人、現代芸術家 嶋本昭三(元具体美術協会)に師事し現代美術を学ぶ。現代芸術国際AU(Art Unidentified)の会員。国内外の展覧会で作品出品、多数受賞。また、住宅や商業施設等のスペースデザインも手掛ける。

師である嶋本昭三氏の言葉で「人生は自分が楽しむ事である」「誰もやっていないことをやれ」この二言が私の芸術活動の原点となっています。「衝撃」をテーマに、作品の衝撃的で未確認な人生観を大切にしています。

※AU…兵庫県を中心に活動しているアーティスト団体。正式名称はArt Unidentified。前身はアーティスト・ユニオン(Artist Union)という名前で、1960年代に活躍したジャンルを超えたアーティスト達が結集して1975年に結成された。

※嶋本昭三…具体美術協会の設立メンバーで、世界4大アーティストに選ばれた芸術家。具体の精神「人の真似をするな。今までにないものを作れ。」嶋本の「人を驚かせること。」をモットーに、2013年に没するまで、歩みを止めることなく制作を続けた。大砲を使って炸裂させて作る大砲絵画作品、瓶詰めした絵具をキャンバスに投げつける絵画作品、ヘリコプターから落下させたりクレーンに吊り上げられ落下し炸裂させて作るビン投げ絵画作品、世界最小芸術1億分の66.7mのナノアート作品、絵具を水面の弧を描くように何重にも落として描く渦巻き絵画作品、作品を破く穴の作品など、創造的なアートを世界にアピールし続けた。

言葉の代わりに絵で自己表現をする

ーこれまでの経歴について教えてください。どんな子供時代でしたか?

母が亡くなる前に教えてくれたのですが、実は、私は4歳くらいまで話をしなかったそうなんです。5人兄弟の3番目で、上2人がよく喋る子だった関係もあるんでしょうか。両親も忙しかったので、ある時「そういえばこの子は喋れないね」と気づき、病院にも行ったそうです。異常はなかったので経過観察をしていると、4歳を過ぎる頃に突然話せるようになりました。

当時は喋らない代わりに絵を描いていました。動物の本能と言いますか、喋れない代わりに自分を表現する方法が「絵」だったんだと思います。今も話すことは得意ではなく、口数も少なくて、「自分のことを全然喋らない人だ」とよく言われます。これまでずっと、頭の中で考えていることを絵や作品で表現する、ということを当たり前のようにやってきました。絵は、私にとって日常的に使うコミュニケーションの一つであって、話すことよりも、作品を通して自分を表現する方が向いているんです。

ー幼少期から言葉の代わりに絵を通じて自己表現をしてきたんですね。進学の時も、芸術の道を志すのはごく自然な流れだったんでしょうか?

多くの人がそうだと思いますが、高校時代は自分が何をしたいかわかりませんでした。とりあえず今好きなことをやるしかないと思い、美術大学に進学することを決め、関西女子美術短期大学でグラフィックデザインを専攻しました。当時は現代美術について全然わかっていなかったのですが、選択授業で具体の村上三郎先生の授業を受ける機会があり、面白いと思っていましたね。

その後、就職活動をしていたのですが、「なんか違うな」という違和感があり、大学の先生に相談に行きました。その先生に「ぜひ会ってみて!」と嶋本昭三先生を紹介してもらい、アトリエにお邪魔したのですが、すごい衝撃を受けたんです。この先生と一緒に時間を過ごしたい!と強く思い、教授の秘書の業務をしながら、アトリエで住み込みで勉強させてもらうことになりました。数年後には、嶋本昭三先生の授業を受けたいと思い、宝塚造形芸術大学大学院へ進学し、5年間在籍しました。

アトリエでの生活は、ご飯を作ったり洗濯をしたりしながら日常生活を先生とともに過ごしていました。先生は普段、朝3時に起きて仕事をして、日が昇ると同時に散歩に出掛けていましたので、時々一緒に散歩することもありました。散歩の後は、植木の手入れをして、朝ご飯を食べて、午前9時には1日分の仕事が終わってる、というような状況でした。

嶋本先生のアトリエは、2階部分がギャラリーになっており、たびたび来客がありました。突然の来客でも、朝の時点で仕事を終わらせていた先生はお客さんに全面的に対応し、丁寧に話をされていました。時間が空いているときは私と話をしたり、一人の時間があれば本や新聞を読んでいましたね。

直接絵について具体的に教えていただいたわけではなく、アトリエでの生活や先生との話の中で、「芸術とは」「アートとは」というのを教えてもらったと思います。

先生は絵を描く時に、あまり深く考えない方でした。いつ考えてるのかわからないくらい一瞬で作品が完成するんです。ビンの中にインクを入れて、それを投げつけて作る「ビン投げ」の作風が中心ですが、どのインクの色を使うか選ぶときも一瞬でした。すごい人だな!と思いましたね。何も語らないところが凄かったです。これが本当の芸術家なんだな、と理屈なしに感じました。

断熱材に油性絵具をかけることにより起こりうる融解

ー作風について教えてください。コンセプトや意識していることはありますか?

作風は抽象が多いです。風景画なども描いたことはあるのですが、どうしても頭の中でいろんなことを思って、一瞬、一瞬考えていることが抽象的な表現として作品に表れてくるので、特に展覧会や人前に展示するときは必ず抽象の作品になります。

⁡ですから、コンセプトがあってそこから絵を作るのではなく、頭の中で思ってることが作品として表れて、作品が出来上がってからコンセプトが湧いてくる、という流れで制作をしています。

凹凸のある作品が多いですが、この素材は何ですか?どうやって作っているのでしょう?

スタイロフォームという素材です。簡単に言うと、発泡スチロールより硬い素材で、壁の中に入っている断熱材として使われており、2〜3cmの様々な厚さがあるものです。私は大体3cmくらいのものをキャンバスの代わりにして、そこに絵の具をかけていく、という作り方をしています。

油性絵の具をかけていくと、溶剤系の成分が反応して、断熱材が溶けていくんです。ずっと油性絵の具ばかり使っていると全て溶けて無くなってしまうので、水性絵の具も交互にかけながら、反応を見つつ制作をしています。通常、絵画作品を作るときは、油絵なら油性、水彩画なら水性、と言うように、油性か水性どちらかを使うことが多いのですが、その点私は両方を使うので珍しいと思います。材料も特徴的です。

この材料を使うことになったのは、嶋本先生の制作を手伝っていたときの出来事がきっかけでした。ビン投げアートの制作を手伝っていた時に、たまたまアトリエの端の方に置いていた発泡スチロールの箱に油性インクがかかってしまったんです。近くでよく見てみると、絵具がかかった部分は、ボコボコと穴が開いていました。びっくりしたのですが、すごく綺麗で面白かったので、自分の作品として作ってみることにしたんです。

ー色が鮮やかな作品が多いように感じます。色にこだわりはありますか?

原色系が多いですね。作品のタイトルは全て「衝撃」なのですが、強い印象を頭の中で思っているので、原色を使うことが多いんだと思います。

今回ペイントした樽の作品について

ー6月には三豊鶴にお越しいただき、酒樽の中にペイントをしていただきました。これはどんなイメージで制作されたのですか?

当初は瀬戸内の海の優しい感じをイメージしていました。三豊鶴自体も海から近く、酒樽に描くと言う観点からも青系の色を使えると思い、準備をしていたのですが、思っていたよりも樽の底が丸くなっていて。樽の中に入った時に、小宇宙のような感覚を持ったんです。最初は海をイメージして描いていたのですが、だんだん頭の中は宇宙のイメージになっていった、という感じです。

今回展示する作品のコンセプト

ー今回三豊鶴で展示する作品について教えてください。

いつもと同様、タイトルは全て「衝撃」となります。先述の、スタイロフォーム(断熱材に用いられる発泡スチロール板)を使って融解を起こした作風です。

その中の一つに、黄色を使って、丸い形を表した作品があります。頭の中に丸いイメージが浮かんだので、どう表現するか考えていたときに、嶋本先生と話したギリシャ神話「シーシュポスの岩」を思い出したんです。

罰を受けたシーシュポスは、崖の上から転がり落ちた岩を上に持っていかなければならないのですが、上まで持っていったと思ったら、また崖下に落ちてしまうのです。また持ち上げても落ちていく、と言う繰り返しなので、この罰を毎日、一生続けなければならないんです。ところが、毎日続けている中で、罰にもかかわらず、シーシュポスは生きている喜びを感じることができる、と言う話です。

この神話に出てくる岩をイメージして作ったのが、「衝撃-Sisyphus #1」と言う作品です。私が今まで作った作品の中で一番単純な形をしています。お楽しみに!

ご来場いただく方へのメッセージ

「人生とは自分が楽しむことである」というコンセプトで、日々の作品作りに励んでいます。とにかく作品を作るときには、見ていただく方のことを考えるよりも先に、自分が楽しんで制作することを大切にしているんです。自分が作品作りを楽しんでいれば、見ている人も楽しんでくれるのではないか、という考えです。ぜひ、楽しんで見ていただけたら嬉しいです!

三豊鶴「酒蔵Art Restaurant」とは

皆様のお越しをお待ちしております!