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MIDNIGHT SUNという名盤の話

 「JO1が今まで発売されたシングルやアルバムの中で何が一番好き?」と聞かれたら、何を思い浮かべるだろうか。
 一番売り上げが多かったもの、自分が初めて買ったもの、デビューした時のもの、人それぞれだと思う。もし私がこの質問を投げかけられたら、大声で「MIDNIGHT SUN!!!」と答えるだろう。
 今回はこのMIDNIGHT SUNについて、過去にポストしたりスペースで話した事なども含めて思い出しながら良さや考察をひたすら書き連ねていきたい。



楽曲紹介やコンセプト


 まず、MIDNIGHT SUNの特徴は他のシングルに比べて楽曲数が少ないという事だ。インストを抜いてしまえば4曲の新譜で構成されており、JO1のシングルの中でも唯一となっている(他のシングルは6曲収録)。

 そしてこのシングルは初めてのライブツアーとなったKIZUNAツアーと重なる時期にリリースされており、本格的に再開されてきた有観客イベントの波に乗じるような形だった。それもあってか4曲全てに振り付けが付き、PVも公開されているという大盤振る舞いのシングルとなっている。曲数が少ないからこそ楽曲単体に込められたパワーが増したイメージだ。

 続いて、公式サイトにはMIDNIGHT SUNについてこのように紹介されている。

夢と現実の間。このおかしな世界で、僕らはなんだってできる。
今作では、成長の過程で感じる”痛み”を、理想と現実の狭間、昼か夜かわからない奇異な世界での恐れや胸の高鳴りになぞらえて表現。
その中でこそ見つけることのできる、JO1自身の新たな一面を追究した作品です。
中毒性の高いリード曲「SuperCali」をはじめとする新曲全4曲をお楽しみに。

JO1 6TH SINGLE『MIDNIGHT SUN』2022年10月12日(水)発売決定!
https://jo1.jp/news/detail/2156

 これはファンの方の中には共感してくれる方もいるかもしれないが、毎度音盤を出す度に書かれるこのような謎の紹介文は正直よく分かっていない(言ってしまった)。音盤毎にメッセージ性が繋がっているのか単体でのメッセージ性にこだわっているのか、紹介文を読んでもなかなか考えが進まないからだ。

 少し話が逸れてしまうが、ここでJO1の音盤発売の流れについて触れておこう。元々JO1の音盤は最初の3作が星の誕生と成長に準えたシリーズとなっていたが(PROTOSTAR→STARGAZER→THE STAR)、この3部作の構成は2021年冬に出たWANDERINGで法則性が途切れている。そしてその後KIZUNAというアルバムを挟み、音盤の名前に昼夜を絡めた3作がリリースされて纏まりの形が戻った(MIDNIGHT SUN→TROPICAL NIGHT→EQUINOX)。次に発売されるHITCHHIKERは、もしかすると新たな3部作の始まりとなるシングルかもしれない。
 この3作の法則がWANDERINGで崩れたのは、メンバーの活動休止と初の有観客ライブが重なってしまった事や、ドキュメンタリー映画の公開が決まっていた事などが少なからず関係したと思う。グループやメンバーが直面した困難に少し寄せて起承転結の4作の流れを作った…と考えると当時の音盤や収録曲のメッセージ性は色々と腑に落ちる部分がある。
 そして新たに発売されるHITCHHIKERだが、これはもしかして元々WANDERINGの立ち位置でリリースされるはずだった、タイトルにERが付く音盤の系譜を継ぐもの(CHALLENGER→STRANGER)だったのでは…とどうしても考えてしまう。CHALLENGERで未知の世界に足を踏み入れる旅が始まり、STRANGERで新たな自分を見つけ、HITCHHIKERで旅の中に愛を求めて探すようになる…という流れはそれなりに綺麗に纏まりそうだなと思ってしまうのだ。真実は中の人しか知らないので、全てオタクの妄想になってしまうのだが。

 さて、逸れた話を戻そう。
 MIDNIGHT SUNの紹介文でまず注目したいのは「夢と現実の間」「理想と現実の狭間」「昼か夜かわからない」という、対極の意味を持つ言葉を並べた表現である。
 これは私の考察が入るが、このMIDNIGHT SUNを一言で表すなら「対極の交わりを音楽で楽しむ」である。夢と現実、理想と現実、これらの関係はどちらも対極に存在するもので交わる事はない。そして昼と夜も同様に明るい世界と暗い世界で分けられる存在だ。
 だが、世の中には昼と夜の区別が付かなくなる、つまり対極が混同する現象がある。それが白夜、つまりMIDNIGHT SUNだ。これは南極や北極といった限定的な場所で夜とされる時間になっても太陽が沈まず、一日中空に出ている現象の事だ。この自然の中で起こり得る、交わらないはずの対極の存在が交わる現象を夢と現実、理想と現実といった人間の身の回りにある対極と重ね合わせ、それらを音楽にも投影させているのではないだろうか。そしてその対極の交わりによって生まれる化学反応や違和感を楽しむ事も含んでいるだろう。
 続いて、楽曲が持つ役割を深掘りしていこうと思う。



楽曲が持つ役割


PhobiaとRoseによる対極の表現


 前述した対極の混同を著しく感じるのは収録曲のPhobiaとRoseだ。
 まずPhobiaだが、そもそもこれは恐怖症という意味を持つ英単語で、例えば集合体恐怖症は「トライポフォビア」高所恐怖症は「アクロフォビア」とそれぞれ英語で言われている。また近年では嫌悪や偏見などを意味する時もこの単語は使われるようだ。
 このように人の心身に悪影響を及ぼすような印象を受けるPhobiaという言葉を題名にしているが、曲調自体は比較的明るく、そして柔らかいのが特徴である。

 明るさを音楽から感じるものの、歌詞には所々不穏が漂っている。「消えた想い 迷い込んだForest」「木々たちが閉ざしていく空 淡く遠ざかる雲たち」など、どこか閉塞感を漂わせている。イントロで聴こえるカントリーっぽい音は、歌詞に出てくる木々や森を匂わせているのかもしれない。優しい音楽と息苦しい歌詞、例えるならまさに真綿で首を優しく締め上げるような…といったところだろうか。
 余談だが、このような優しいけど苦しいというシチュエーションを見ると私は伊藤計劃の「ハーモニー」という小説を思い出す。映画はもう9年ほど前らしい。時の流れが早すぎる。

 Phobiaの歌詞の面白いところは、前半部分で「君」を森に例えてその森に迷い込みながらも「君がいない どうしようもない」と嘆いているところだ。そもそも主人公は君の中に迷い込んでいる時点で君の存在はすぐ近くにあるはずなのに、その認識が進んでいないのである。曲が進むにつれて自分が迷っている森こそが君であるとじわじわと感じていき抜け出す事を願うが、夢の中で何度も君の存在を考え、また実体を見出せない君に取り込まれていく。
 精神的に良くないループに入っているのが分かるが、そのバックでは心地良くエモーショナルな音楽がずっと鳴っているのがどこか不気味である。良曲ではあるけども。

 続いてRoseだが、これはご存知の方も多いように薔薇の英単語である。そして艶やかな花をテーマにした楽曲でありながら、ハードでメタリックな音を使ってキレのある楽曲に仕上げている。イントロが少しターミネーターの雰囲気があって初見の際は少し面白かった。

 曲調自体はこれまで取り組んできた楽曲から良いところを抽出し、混ぜ合わせてみた…といったような、経験に基づいてたステップアップを感じた曲だった。個人的なイメージはGoのスタイリッシュな雰囲気とAlgorithmの硬さ、これらのハイブリットだ。

 Roseはボーカルで面白いなと感じたところが一点あり、吐息多めの声で歌う箇所を散りばめ、花→香りという連想を曲に投影しているところである。歌詞にも息遣いというワードを用いているが、楽曲の中に目に見えないはずの空気を感じる。
 後、歌詞を読んでいて気になったのが「花びらのページをめくって」の部分。花びらが本のように積み重なっている絵はシュールだが、このページというのは重なるように付いている薔薇の花びらを一枚ずつかき分けている…という意味なのだろうか。これが仮にも一枚ずつ毟っている様を想定しているとしたら、なかなかに怖さがあると思った。

 このように、この2曲は題名から連想されるイメージと実際に使われている音や雰囲気がちょうど対極に位置しているのだ。対極を言語化するのであれば、Phobiaは「恐怖感を煽る言葉↔︎柔らかくて優しい音楽」Roseは「鮮やかで美しい花↔︎機械的で硬質な音楽」である。このような作品の構成がMIDNIGHT SUNというシングルの持つコンセプトや意味をしっかり表しているのではないだろうか。


インパクトと世界観構築


 続いて、SuperCaliの役割について考察してみる。このシングルにおいて私が考えるSuperCaliの役割は、MIDNIGHT SUNの世界観説明及び導入としてのインパクトである。PhobiaとRoseはが対極を混同させる事に特化しているのであれば、SuperCaliは対極も含めて様々なジャンルを混ぜ合わせ、尚且つそれらをまとめ上げて一曲の中に構築する事でシングルを語る上で欠かせない違和感を良さとして魅せている。

 SuperCaliという楽曲はそもそも、JO1の当時の楽曲の中でも過去一番と言って良いレベルで革新的な存在だったと思う。KPOPの流行などを取り入れつつ、多人数グループだからこそ出来るフォーメーションダンスなどに力を入れてJO1というブランドを確立しようというやる気を感じた作品だった。
 まず、SuperCaliの元ネタである呪文「supercalifragilisticexpialidocious」だが、ご存知の方も多いであろうメリーポピンズの挿入歌であり、そこから世界一長い英単語としても広まった呪文だ。
 こういった過去作品の引用は2022年のKPOPにクラシック音楽のサンプリングとしてよく現れていた。例に挙げればRed VelvetのFeel My RhythmやBirthday、Black PinkのShut Down、(G)I-DLEのNxdeなど。特にFeel My Rhythmは原曲とプラスされたポップスの成分どちらも上手く溶け合い、初見の衝撃度は凄まじかったな〜と思う。
 クラシック音楽は元ある楽曲をあらゆる楽団や指揮者が人それぞれの解釈を通して演奏する再現芸術として確立されているが、このクラシックサンプリングの流行はある意味再現芸術の一つになっていたのではないだろうか。

 また、日本では米津玄師がモーニング娘。の楽曲から歌詞をサンプリングして自曲に盛り込んでおり、それがKick Backである。これも2022年に世に出ており、偶然かもしれないが日韓のポップスが点と点で繋がったように感じられた。

 そんな過去作品からの引用というトレンドの流れを引いているのがSuperCaliであり、引用にとどまらず様々な音楽ジャンルをミックスして一曲の中で様々な顔を魅せる最高面白楽曲として爆誕した。特に2番サビが終わった後のクラブかのように弾ける電子音、そこから急に流れ出すピアノのアドリブ。現代のパーティーソングがいきなりタイムスリップして中世ヨーロッパに行くかのようなジェットコースタースタイルである。

 そしてSuperCaliはMVの中でMIDNIGHT SUNの音盤の紹介文を映像で表現しており、楽曲と共に音盤の世界観を説明するのに一役買っている。
 MVの中で現代の街の風景から森、ジオラマ化した街と巨大な人間、小さな箱に押し込められた小さな家具と大きな人間…といったように、現実的な世界と夢想的な世界を楽曲に載せて魅せよう!という意図があるのではないだろうか。楽曲紹介の文章の中にある「おかしな世界」をSuperCaliで構築していると考えられる。


純粋すぎる16(Sixteen)


 最後に16(Sixteen)について考えていくが、この楽曲は他三曲と比較しても一番ストレートで純粋な楽曲だと感じている。SuperCaliやRose、Phobiaがいろんな味や香りを合わせて完成させたカクテルだとしたら、16は湧水から汲み上げた透明感100%の天然水…といったように。

 曲調自体もとても爽やかで、楽曲の中にある世界の空気が澄んでいそうな清らかさを感じる。他の収録曲と比較した時に浮き立つ真っ直ぐさは、MIDNIGHT SUNの紹介文における「成長の過程で感じる痛み」に起因しているのではないだろうか。
 そもそも題名の16だが、私は年齢の事だと考えている。まっさらな少年の面影を残しつつ将来を見出し始める、ちょうど子供と大人のグラデーションのタイミングだ。成長の過程で感じる痛みというのは簡単に言ってしまうと成長痛だが、その子供から大人になるまでの成長痛を美しく尊いものとして投影しているのではないだろうか。歌詞もひたすらに真っ直ぐ純粋だが、対極が混在しておかしくなってしまった世界でも変わらず純粋な一本の芯はあるとこの曲が訴えかけているように思う。

 私が何度も言っている対極を混同させる曲作りを16にも通すのであれば、痛みを感じさせるような強めの音だったり、もっと涙腺を刺激するような悲劇的な音楽も作れたはずだ。だが、16では裏表ない清らかさを示していく事で他3曲のカオスを引き立て、尚且つMIDNIGHT SUNに刻まれている成長を忘れないようにさせている。ある意味16こそがこのシングルの心臓とも言えるのではないだろうか。



まとめ


 ここまで長々と語ってきたが、結局私の結論は「MIDNIGHT SUN最高
」に帰着する。SuperCali初披露の時のライブに参戦していた当時の私は、パフォーマンスを見た瞬間にJO1が次のフェーズに一つ進んだのを確信した。そしてMIDNIGHT SUN自体も力が込められたシングルで、充実感はこれまでの比では無かったと思う。
 少し偉そうに語ってしまうが、私はJO1にMIDNIGHT SUN以上の衝撃をくれるカムバックを常に期待している。あのセンセーショナルな瞬間を何度も味わいたいし、あの時の「勝った!!!」という確信をまた感じたいのである。

 個人的には今度のシングルであるHITCHHIKERは結構期待していて、ショーケース後のLove Seekerの感想を眺めながら期待感をずっと膨らませている。CDデビューして5年目になるJO1が次はどんなフェーズに上がるのか、どんな驚きをくれるのか、それを楽しみにしてこれからの音楽も見守っていきたい。

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