ワハハハ……の先へ

 「ながさき開港450年めぐり 〜田川憲の版画と歩く長崎の町と歴史〜」が発刊されて、半月がすぎた。

おかげさまで好調のようでありがとうございます。

 この本は「長崎の町と港の450年の歴史を、5日間で歩いてみる」というものだ。長崎にはおそろしいほどいろんなことがあったので、450年を5日間だなんて、そもそも無謀な挑戦なのだが、おそろしいほどいろんなことがあったばかりに、この町に流れてきた時間を、時間のままにたどるということができにくい。ちょっと歩けばキリシタン、また歩けば出島に唐人屋敷、さらにはオランダ坂に信徒発見に、そして原爆。どれもがヘビーでハードで、しかも狭い町の中にぎゅうぎゅう詰めなので、ぼんやりしてしまう。

 郷土史家の永島正一さん(1912-1987 ラジオ番組『長崎ものしり手帳』は1万回を超えた)が、こんな文章を残しておられた。(表記すべて原文ママ)

 「つい数日前、東京からある学者の一行がやってきたので、私がその案内役を引き受けさせられた。

 定石通り、観光コースに従って、浦上の原爆中心地から、天主堂、出島、唐寺、グラバー邸と目まぐるしく、車を馳しらせた。

 さてそのあとで、シナ料理の皿を取り廻しながら、どうでした、長崎の印象は、とその中の老学者にお尋ねした。老学者は豚の角煮をグッと呑みこんで、いや実によかった、よかった、長崎というところは全くいい処だ、といいながらチビリと老酒の杯をなめた。そして、しかしだね、とことばを続けた。

 キリシタンのあとが原爆で、そのあとがオランダにシナ、ぢゃがたらお春からピンカートンがでて、造船所へ続き、チャンポン、カステラ、シッポクと、こう、えんえんと話が続いては全くお手あげだったよ。いまだに頭の中が、こんがらがって困っているんだ、ワハハハ……」(昭和33年発行『長崎手帖』11号「聖福寺と南山手」)

 ワハハハ……

 60年以上前の話だが、いまも、いまだに、なおさら? ワハハハ……、のままだ。

 でも、開港450年というし、ここらでひとつ、この町を一からたどってみるのはどうだろうと考えた。それも実際に歩きながら。そうすることで、ワハハハ……の先に抜けられるんじゃないかと思ったのだ。

 そんな素朴な気持ちからできたのが、この本の5つのコース、450年を旅する5日間だが、1日で回るコースも考えてはいた。載せるかどうかもかなり迷った。でも載せなかった。次回はそれをご紹介したい。

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