禁断の1日コース

 「ながさき開港450年めぐり〜田川憲の版画と歩く長崎の町と歴史〜」は、長崎の450年を5つのコース……5日間でたどろうという試みだ。

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 コース1は、開港前夜から二十六聖人殉教まで。開港前の長崎の村があった中川(幼い日のカズオ・イシグロが暮らした)の長崎甚左衛門居館跡から、長崎初のトードス・オス・サントス教会があった春徳寺、新大工町商店街、長崎開港の碑、長崎の名前の由来となったという「ナンカミサキ」、南蛮船来航の波止場跡、樺島町、五島町、二十六聖人殉教地の西坂公園。

 コース2は、「小ローマ」から鎖国へ。サント・ドミンゴ教会跡資料館、八百屋町通り、サン・フランシスコ教会跡、ミゼリコルディア跡、フロイス通り、岬の教会、築町、栄町、眼鏡橋、常盤橋、浜町、出島、大波止。

 コース3は、鎖国時代と和華蘭文化。それまでの70年を振り返るために風頭公園にのぼり、江戸時代からのお墓が多い「ブディストの森」をくだり、寺町、鍛冶市通り、思案橋、丸山、唐人屋敷跡、湊公園、出島。

 コース4は、開国〜信徒発見〜近代化〜原爆。開国とともに造成された大浦海岸通り(バンド)、信徒発見の大浦天主堂、祈念坂、南山手レストハウス、「人間の丘」と大浦の町、オランダ坂、新地中華街、路面電車に乗って浦上へ、サンタ・クララ教会跡、爆心地公園。

 コース5は、終戦〜復興〜現代。浦上天主堂、長崎大学医学部、山王神社、坂本国際墓地、浦上街道、西坂公園、中町教会、金屋町、ナンカミサキ。

 それぞれ1日あれば、さほど健脚でなくとも(日頃まったく運動しない50歳でも!)歩けるのではないだろうか。もちろん1日でまわらず、2回、3回と分けてもいいのだが「ひとまずこの順序は崩さずに歩いてみてほしい」と、注意書きもした。

 さらに「1日でまわるショートコース」も一応考え、本に載せるかどうか迷ったが、載せなかった。5つのコースでも、だいぶ「エッセンス」だと思うし、長崎の歴史を1日で見てまわるのは、場合によっては危険だからだ。

 ひとつひとつの時代やできごとを、歴史の試験勉強として見ていくのなら平気かもしれない。でも、時に過酷な状況にさらされた生身の人間たちの人生の積み重ねとして、この町の歴史をたどろうとすれば、けっこう、こたえる。道端の教会跡の石碑一本でも、その気になれば、ズーンと、こたえる。

 1614年の禁教令が出たあとの長崎の町では、信仰を誓う「聖行列」が何度も行われたのだが、それについての記録を読んだのがたまたま2014年で、つまりちょうど400年だった上に、そこに書かれている曜日がまったくおなじだった。すると、いつも通る道に、ゾロゾロと400年前の人たちが見えるような気がしてきて、若干、日常生活が送りづらくなったものだ。あんまり書くとアレなので書かないけれど、ほかにも、いくつか、その手のことがある。ちなみに霊感はない(かなり見える系の人から『ないです』って言われた)。ないにも関わらず、どうしても、な、ことがある。いわゆる「霊感」とはまた別のレイヤーの世界があるんだろうとも感じる。長崎には、あちこちに、いっぱい扉がある。

 だから、せめて5日くらいはかけて歩いてほしいと思い、1日コースは載せなかった。でも「おさらい」として歩くならば、

 中川→春徳寺→ナンカミサキ→築町→眼鏡橋→浜町→出島→唐人屋敷→大浦天主堂→(路面電車)→爆心地公園→浦上天主堂→浦上街道→二十六聖人殉教地→中町教会→ナンカミサキ

 に、なろうかと思う。狭い町だから、歩こうと思えば1日で歩ける。ただ、心身ともに、かなりくたびれるとは思うし、ここにはない「風頭公園から『ブディストの森』」は、この本のひとつのキモでもあるので、やっぱりあんまりおすすめはしない。


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