街灯を探す 1

 「ながさき開港450年めぐり〜田川憲の版画と歩く長崎の町と歴史〜」は、白地に濃紺の街灯がどーんとたたずむ表紙をほめられることが多い。もうすぐ95歳の私のばあちゃんも「モダンかね〜」と見入っていた。

 これはもちろん、田川憲さんの版画だ。よく見ると、足に「KEN」と彫られている。田川さんが亡くなったあとに作られた画集「東山手十二番館」では、版画家・平塚運一氏の序文のページに大きく使われている。

 「450年めぐり」のデザイナーさんは表紙の案を2つ出してくれた。ひとつは「長崎港遠望」を使った、いかにも「長崎の本」っぽいもの。もうひとつが、この「街灯どーん」。デザイナーさんの目はあきらかにこちらを推していた。最初はえっ!?と思ったけど、見れば見るほど、もう、こっちしかなかった。出版社のみなさんも、最初は「長崎の本っぽいほうを」というムードだったけど、徐々にこちらに傾き、できた時には「かっこいいですね〜」としみじみ言ってくださった。そして、もう何年も前に私が「東山手十二番館」を自分のためにコピーして再編集したノートの表紙にも、ふと見たら、この街灯が貼ってあった。そんな、なにか人を引きつける力のある街灯だ。

 本に掲載した作品は、大小に関わらず、すべてタイトルを表記している。版画の中にタイトルがある作品もあれば、画集と長崎県美術館の図録ではタイトルが違う作品もある。言葉を大切にした田川さんの作品だから、タイトルはおろそかにできない。作品を管理する、田川さんの孫の俊(たかし)さんともやり取りしながら、ひとつひとつ確認し、どう表記するか決めていった。

 本の制作も終盤に差しかかるころ、あっ!表紙の街灯のタイトルもどこかに入れなければと、画集の作品リストを開いた。そこには、ただ「カット」とあった。つまり定まったタイトルがないのだ。困ったな。そこでまた俊さんとやり取りして、居留地にあった街灯だろうから、その時代であれば「ガス灯」でいいんじゃないだろうか…?という結論に達した。

 そう。きっとどこかにあった街灯なのだ。長崎のどこかにあって、田川さんの目にとまり、描きたい!と思わせる存在感を持って立っていた街灯のはずだ。作品の中で、背景になにげなく浮かんでいる船だって、そのほとんどが、ある日ある時の長崎の港に入ってきた船として特定できるらしい。だとしたら、これほどの街灯を適当に描いたわけがない。だったらタイトルにもそれを反映させたい。

 「モデル」がどこかに写っていないだろうかと、手持ちの古写真集に映る居留地の街灯をつぶさに見たけれど、それらしきものはなかった。長崎に限らず「ガス灯」を検索したが、どこの町にも似たものはなかった。出島の街灯について書いた文章があるというので、出島の古写真も見てみた。たしかに街灯はあったけれど、これではなかった。結局、本を印刷するまで、見つからなかった。だから「ガス灯」とだけ記した。(つづく)

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