はじめての歯医者さん
子供らがはじめて虫歯になった。
なにも、こんな、真夏に、兄弟、そろって、虫歯に、ならずともぉ…
炎天下。子供を前後に乗せた自転車。
荒い息で、考えても仕方ないことをぼやく。
あと数回は通わなくては。憂鬱。
せめてちょっと書き残しておこう。
*
子供らがビビるため、だっこで治療を受けている。
私が先に治療用イスに寝そべり、その上に子供が寝そべる。
ラッコのだっこ。
暴れぬよう、子供の両手を自分の手で包み込む。
何かされるたび、指をキュッと握ってくるのが可愛い。ぎゅっぎゅと握り返して応援のつもり。
しかし、眠い。
歯医者のイスは結構寝心地がいい。
普段は治療の恐怖のせいで気づかなかった。
今回の私はなにもされないので怖くない。
お腹の上で怖がっている子供がいるが、それは私ではない。
共感力を切り離すと眠気がやってくる。
でもここで寝るわけにはいかぬ。
子供の髪がさわさわ触って、口元がこそばゆい。
でもここで笑うわけにはいかぬ。
親って大変。
眠らず笑わず、真顔で横たわり、目を開けておく。
先生と助手さんの手が4本、目前にある。先生の腕の毛をつい見てしまう。ライトが眩しいが、私自身に当たってはいない。ずれている。
当たり前だが、先生も助手さんも長男の口の中に集中している。
頭一個ずれた私は誰にも気にされず、幽体離脱している気分。
が、うがい休憩を挟んで再び横になった際、勘違いした先生に口をこじ開けられそうになった。
「先生、ちがいます! 息子さんの方です」と言いながら笑う助手さん。
私もつい笑ってしまった。
*
歯のレントゲンを撮る際、5歳の次男は一人で固定できず、サポートすることに。口の中に固い四角い何かを突っ込まれて指で押さえておくやつ。
レントゲン用の防御服を母はもらえず。
母とは被爆も余儀無くされるものかな、とあはれに思った。
(歯のレントゲンの被爆は全然問題ないレベルだそうです〜)
*
「もうちょっと口を開けられるかな?」
ぐっぐっと詰め物を押し込めながら、先生が長男に言った。
「がんばれ!」励まそうと息子に声かけ。
「あとちょっと、それ!」先生が頑張って押している。ぎゅっぎゅ。
「がんばれ!」もう一度、息子に声かけ。
「最後だからもうちょっと口開けて〜!」先生、ぎゅっぎゅ。
「がんば!」
反射的にもう一度励まして、ふと我に帰る。
って、なんか、なにかっぽい…既視感……。
あ、餅つき!!
餅つきの合いの手っぽい。
先生を応援してると思われてたらどうしよ。ひとり赤面。
*
麻酔の注射もドリルにも耐えた次男。
「あとは歯の穴に詰めるだけだからね〜」
先生の言葉にすかさず食いつく次男。
「つめる? 何を歯につめるの??」
「ねんどみたいなのだよ〜」
優しく教えてくれる先生。
が、次男はすっとんきょうな声をあげた。
「ねんどぉぉ?!
ねんどで…歯を…」
有り得ない野蛮な風習を聞かされたような態度に笑ってしまった。
たしかに歯の治療って、変。
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