ワクチン関連疾患の病態生理~"アレルギー"概念の再考~

度々言っている通り、「全てのワクチンで生じる現象は免疫複合体疾患である」を伝えるに当たって、乗り越えなければならない壁が何重にも張り巡らされていることに気付いた。


第一の壁:アレルギー概念の変遷

その根本原因が、「アレルギーの歴史教育」にあると考える。
平成22年(2010)に厚生労働省で開催されたらしい「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会」のテキスト第一章「アレルギー総論」に以下の記述がある。

今世紀に入り1902年上記のRichetとPortier によるアナフィラキシー現象の発見と命名があり、その後多くの学者により異種蛋白を動物に注射することにより同様の現象が現われることが確認された。
1903年Arthusは、ウサギの皮内あるいは皮下に2~5mlのウマ血清を5~7日間隔で反復注射すると6回目ごろから注射局所に浮腫を生じ、 ついで出血・壊死が起き、さらには潰瘍となる現象を発見した。これがArthus現象である。その後、組織学的にも詳細に検討され、この反応がウマ血清ばかりでなく、ほかの動物血清や卵白などの異種蛋白によるアレルギー反応でもみられることが明らかになった。

このような背景をもとにして、 上記のように

1906年von Pirquetがアレルギー“allergie、allergy”という言葉を提唱した

彼は、Koch現象、アナフィラキシー現象、Arthus現象などから、

免疫反応と過敏症との間に共 通 の 機 序 の 存 在を認め、

この一見まったく矛盾するようにみえる現象を
ま と め て 言 い 表 す 概 念 と し て
ア レ ル ギー と い う 概 念を提唱した。

しかし、現在では“アレルギー”という言葉は

Pirquetの意図した免疫反応と過敏症との共通概念という
よ り も
免疫現象とは対立した病的な過敏症を表す言葉として使われている
。 

アレルギー総論2.アレルギーの歴史

この記述から分かる通り、「アレルギー」という用語は、提唱したピルケの意図とは全く異なる概念として現代に受け継がれているということである。

私の第一の主張、それは「ピルケが正しい」というものだ。つまり、「免疫反応と過敏症は全くの同一システム」であり、「両者はその反応の強弱の違いに過ぎない」というものだ。これが第一の壁となる。


第二の壁:アレルギー成立背景の隠蔽

第二の壁は、その前提にまずピルケ本人が現代でそれほど名が知られていない点である。情報も充実しておらず、ただこの言葉を提唱した人物程度にしか知られていない。
だが、少ないながらも彼のWikipediaには重要な記述が残されている。

クレメンス・フォン・ピルケ(1874-1906)

経歴
1874年にウィーン近郊で生まれる。父からは統計やグラフ分析を教わったという。その後グラーツで医学を学び、ウィーン大学でテオドール・エシェリヒと出会い小児科学を学ぶ。また免疫沈降の発見で知られたルドルフ・クラウスの手ほどきを受け、免疫学の研究も行った[2]。

ジフテリアなどの血清療法にともなって起こる血清病に興味を持って多くの患者を観察し、それらの研究をまとめて

1906年に牛 痘 法 に 対 す る 皮 膚 の 反 応
血清病の知見で解釈したエッセイを発表、この中で
生 体 が 異 種 の 物 質 と の 接 触 に よ っ て示す
過 敏 症 と 免 疫 を「アレルギー」と命名した
[1]。

Wikipedia-クレメンス・フォン・ピルケ

つまり、そもそもの「アレルギー」の提唱された背景には、ピルケの「ワクチン研究」があるということだ。
このことからして、ワクチン→(現代の意味での)アレルギーの因果関係が浮かび上がってくる。第二の壁は、アレルギーの起源が知られていないことである。

第三の壁:血清病の「表向きの衰退」

ピルケが(同僚のベラ・シックと共に)実験を行ったのはジフテリア・猩紅熱の血清療法である。(2022年現在から)約120年前の研究になるが、この実験が現代の免疫学にとって非常に重要な位置づけにあることは、J.H大学眼科免疫学のA.Silverstein教授の以下の発言からも読み取れる。

免疫学者で科学史家、ジョンズ・ホプキンス医科大学ボルチモア校眼科免疫学名誉教授であるアーサー・M・シルバースタイン博士は、
これは本当に驚異的で驚くべき作品だった」と述べています。
「非常に論理的で示唆に富み、細部にまで気を配っている。次々と出てくる問題点を段落ごとに読んでいくのです。血清の投与量、投与場所、治療対象、患者の年齢、病状、すべてのタイミング。これらのことがすべて、長い臨床論文と呼ぶべきものに注意深く記録されていたのです。
Arthur M. Silverstein, PhD, an im­munologist, science historian and professor emeritus of ophthalmic immunology at Johns Hopkins School of Medicine, Baltimore, says, “It really was a phenomenal, remarkable piece of work.”
“It is beautifully done,” Dr. Atkinson adds. “It’s very logical and thought provoking and has great attention to detail. You read paragraph after paragraph about issues that came up: How much serum was administered and where, which disease was being treated, patients’ ages, how sick they were, the timing of everything. All these things were carefully documented in what we might call a long clinical article.”

The rheumatologist-"A look back at pirquet & shick's influential serum sickness study"
Date:November 12, 2020
Auther:By Ruth Jessen Hickman, MD
Access-Date:2022/08/01

その「長い臨床論文と呼ぶべきもの」である作品が、ピルケとシックが1905年に上梓した「Die Serumkrankheit(血清病)」である。
その血清病の現在の定義は以下の通りだ。

血清病は,異種血清投与1~2週後に形成された免疫複合体(immune complex:IC)の沈着により
皮疹,
発熱,
関節痛,
リンパ節腫脹
などを生じる病態としてvon Pirquetと Schickにより提唱された疾患概念である.

類似の病態は,
・ハチ毒,
・細菌やウイルス感染,
・薬剤
が原因となり生じることが知られており,血清病様反応(serum sickness-like reaction)と表される

病因・疫学
 破傷風,ジフテリア,狂犬病などに対する抗血清療法の減少に伴い,わが国では古典的な血清病は比較的まれなものとなった

一方,再生不良性貧血の治療に用いられる抗胸腺細胞グロブリン製剤による血清病や,近年関節リウマチや炎症性腸疾患などの免疫疾患やリンパ腫などの血液疾患の治療に用いられることが多くなった生物学的製剤に起因する血清病が増加している.

血清病様反応もペニシリン系やセファロスポリン系抗生物質の使用量の増加に伴い増加している.その他,サルファ剤,ヒダントイン,サイアザイド,抗炎症薬などによる血清病様反応も報告されている.

コトバンク-血清病

血清病(けっせいびょう)は、ヒト以外のタンパク質に対するアレルギー反応の一種である[2]。一般的な症状には、発熱、発疹、関節痛などがあげられる[1]。通常、曝露後7〜14日で発生し、症状は数週間続く[1]。合併症はまれであるが、血清病の発症が繰り返されると腎不全を引き起こす可能性がある[1]。
最も一般的な原因は、
特定のワクチン(狂犬病など)、
抗毒素、
免疫調節剤(リツキシマブやチモグロブリンなど)の摂取
である[1][2]。

根本的なメカニズムには、過敏症、特に免疫複合体過敏症(タイプIII)が関与している[2]。診断は尿検査、血液検査、皮膚生検によって確認される場合がある[1][2]。

Wikipedia-血清病

コトバンク、Wikipediaの記述をまとめると
・血清病の原因は「動物由来のタンパク質」であり、主として血清療法のみで生じる現象であること
※だから動物由来のタンパク質を使う「狂犬病」ワクチンで生じる
・従って「動物由来のタンパク質"ではない"」が、似たような反応を「血清病"様"反応」と呼び分けている
・そのメカニズムは、免疫複合体型過敏症(タイプⅢ)

ということになる。生じる症状が現在のワクチンとも酷似するにも関わらず、以上の記述から、我国で血清療法が衰退した昨今では、血清病は表向き衰退したことになってしまっている。

これが第三の壁であり、この記述が誤りであることは、今から触れる「免疫複合体」の定義と最新研究の内容からして明白である。

第四の壁:免疫複合体の定義とアレルギー分類

前述のSilverstein教授は2000年に以下の論文を投稿している。

Clemens Freiherr von Pirquet: Explaining immune complex disease in 1906
"クレメンス・フォン・ピルケ:1906年に免疫複合体疾患を説明"
Nature Immunology volume 1, pages453–455 (2000)

最初の潜伏期には、循環している抗原の力価がゆっくりと低下することを示した。そして、抗体形成が始まると、突然、抗原が循環から速やかに消失することを示した。この現象は、最近では「免疫除去期」と呼ばれるようになった。

そして、こ の 段 階で新たに形成された抗体が抗 原 を 中 和 して「毒性体」を形成しそれが臨床疾患を引き起こすことを明らかにした。ピルケは、この毒性体の正体が抗原抗体沈殿物であることを認めそうになったが、最終的には、抗原と抗体の相互作用によって、ある種の「毒性生理的産物」が形成されることを示唆して、引き下がったのであった。

これは、免疫複合体が補体を固定し、その結果、反応の毒性メディエーターが放出されるという現代の概念にいかに近いものであったろうか。
During the initial incubation period, heshowed the slow fall in the titer of circulating antigen. He then showed how suddenly, with the onset of antibody formation, antigen quickly disappears from the circulation: a phenomenon that would, in more recent times, be termed the "immune elimination" phase. He next revealed how it is precisely at this stage that newly formed antibody neutralized antigen and "toxic bodies" form, which gives rise to the clnical disease. Pirquet almost brought himself to admit that these toxic bodies were in fact antigen-antibody precipitates, but finally backed off to suggest that the interaction of antigen with antibody leads to the formation of some sort of "toxic physiological product". How close this was to the modern concept that immune complex fixes complement, which leads to the release of the toxic mediators of the reaction.

そのピルケが作成した図が以下である

紫:投与した抗原(馬血清)
赤紫:生成された抗体
藍:"毒性体"=免疫複合体

教授が言及しているのはピルケの「血清病」であり、そのピルケが1906年時点で抗原と(中和!)抗体の複合体から生体にとって有害な成分が放出されることを指摘しており、これが現代の知見でいう補体に該当すると解説する。つまり抗原と抗体の複合体、免疫複合体がもたらす疾患を120年前の時点で指摘していたというのだ。論文の題と上述の引用から、少なくとも教授の認識が血清病=免疫複合体疾患 だと伺える。

一方、現在のアレルギーの定義は、厚生労働省によると以下の表にまとめられる。

アレルギー総論-3.アレルギーの分類より

この図を見ると、免疫複合体が関与するのは「アレルギー」の中の極一部の3型のみに分類され、1,2,4型にはまるで無関係であるかのように読み取れる。

しかし、ピルケの提唱した「血清病」の症状は、厚労省の先の資料にもある通りKoch現象、アナフィラキシー現象、Arthus現象を総括した病態であり、更に教授曰く、ピルケはそこに花粉症(Hay fever)、気管支喘息、遅延型過敏症、果ては自己免疫疾患も報告している。

従って、ピルケの報告した「血清病」は、現在のアレルギー分類の1,2,3,4型に跨った広範な概念であることが言える。これは、「免疫複合体」の定義が、単純に「抗原と抗体の複合体」であることからして、結合した抗体の種類は定義に含まれないことからして明白である。つまり、IgE, IgM, IgD, IgA, IgGと5種類のクラスの抗体の何れが結合した複合体であろうと、それは定義上免疫複合体である。従って血清病とは、「抗原抗体反応がもたらす疾患」を総括した病名であり、故に血清病=免疫複合体疾患であるといえる。

これが私だけの独断ではない証拠として、梁瀬(1980)を引用する。

はじめに
流血中あるいは組織液中で液性抗体がその対応抗原と反応し、この結果生じた抗原抗体複合物が引き金となっておこってくる様々の疾患は免疫複合体病と総称され注目されている。本来,抗体産生をはじめとする生体内でのいろいろな反応は外界からの異物を中和し,取り除くという防衛機構であるが,このような免疫応答の結果,生体が逆に障害を受ける場合もあり得る

かかる免疫 反応に基づいて起こる組織障害の機序はCoombs and Gell1)によって4型にわけられているが,
免疫複合体病はこの第3型アレルギーに基づく疾患であるとされている
しかし
生体において現われる実際の病像は様々の組織障害機序が加わり複雑な様相を呈している。

(中略)

IC(Immune Complex:免疫複合体)がある種の疾患の病因となり得るとの推測は古くからなされ、Von Pirquet2)は、既に60年以上前にヒトの血清病における血管、腎、心、皮膚、関節の病変の原因として、異物の中の抗原と患者の対応する抗体との結合物、すなわちICが有毒物質を産生する為と考えた。このようなスペキュレーションに対しての実験的な裏付けは1950年代になってから著しく発展し、IC疾患の実験モデルとして局所性のものはArthus現象全身性のものは実験血清病として示されるようになった。

皮膚,1980 年 22 巻 4 号 p. 517-531

まとめると
・抗体の種類に関係なく、抗原との結合物は広く「免疫複合体」
・その免疫複合体が引き金となる疾患を総称して「免疫複合体疾患」
・免疫複合体疾患は局所性全身性かのみで区別される。

ことになる。

第四の壁は、現在の免疫複合体の位置づけが、アレルギー分類上極一部に絞られたものとなっていることだ。このことが、抗原と抗体それぞれを別個に捉えることに繋がる弊害となっており、疾患概念を狂わせる決定的な壁となっている。

第五の壁:血清療法-ワクチンの見かけ上の壁

第五の壁は、血清療法とワクチンが別々に考えられていることである。これは、現代の血清病の定義が「動物由来のタンパク質」に限定されていることから、「血清療法のみで生じる」疾患だと容易に誤読されることになる。

しかしピルケは、血清病の広範な病態をワクチンに応用して「アレルギー」を提唱したことから、ピルケ本人はこの二つを全く区別していなかったことが伺える。

つまり、先に抗体の種類について触れたが、ここでは抗原の種類が問題になる。厚労省の資料でも各アレルギー分類が抗原の種類によっても分類されていた。

しかし、この二つが全く区別されない証拠として、1972年Dixonの指摘を引用する。

免疫複合体疾患の最大の特徴は、循環液中あるいは間質液中に形成された抗原抗体複合体によって引き起こされることである。このようにして形成された複合体は、ほとんどの場合、細網内皮の食細胞や血液中の白血球によって取り込まれ、無害な最終生成物に分解されるが、ごく一部はこれらの細胞を逃れて、糸球体や血管などの全身の濾過構造に蓄積する傾向があり、障害を引き起こす可能性がある。この蓄積は、免疫学的な要因ではなく、解剖学的、生理学的な要因によって決定されるようで、傷害や疾病の発生部位と原因となる抗原や抗体との免疫学的な関係は必要ないようである。
The essential feature of immune complex diseases is that they are caused by antigen-antibody complexes formed in the circulation or in interstitial fluids. Complexes so formed are for the most part taken up and catabolized to harmless end products by reticuloendothelial phagocytes and blood leukocytes, but a small fraction eludes these cells and tends to accumulate in filtering structures throughout the body such as glomeruli and blood vessels where they can cause injury. This accumulation is apparently determined by anatomic and physiologic, not immunologic, factors so that the sites of injury or disease need have no immunologic relationship to the causative antigen or antibody.

J Invest Dermatol.1972 Dec;59(6):413-5

血清病に類似する症状が「血清病"様"反応」と区別されているとも前述したが、Dixon、梁瀬の指摘をまとめると

・投与された抗原の種類は関係ない、「解剖学的」「生理学的」な疾患
・この疾患のメカニズムは、貪食を逃れた複合体が組織に沈着することによる炎症反応

となる。従って
(現代の定義の)アレルギー=血清病=血清病様反応=免疫複合体疾患
という図式が完成し、単純に命名による混同が生じていることになり、つまりここに血清療法や抗生物質やワクチンなど手段の差異は吸収され、従ってこれら全て「抗原抗体反応誘発性の疾患」であるといえる。


以上をまとめると
・アレルギーとは元々ワクチン研究から生まれた用語であった
・アレルギーとは、免疫反応と過敏症を総括した概念であった
・血清病は血清療法のみの疾患とされているが、実際は「抗原抗体反応によって起こる広範な疾患概念」を指したものである。

現代人への警鐘として、ピルケの以下の言葉を以て〆とする。

疾病の保護となるべき抗体が疾病の原因でもあるという概念は、一見愚かしく聞こえるだろう。これは、我々が疾病を宿主に害を為すものとだけ解し、抗体を単なる抗毒素性の保護物質だと解してきた為である。

疾病とは免疫形成段階に過ぎず、微生物は時に疾病という手段によって免疫形成に参与するのだということを、人は容易く忘れてしまう
こうして、軽度の疾病は自然に免疫化をもたらし、また、非増殖剤(血清)が身体へ侵入する事態は自然にはほぼ発生せず、血清病とはつまり、疾病の非自然的(人工的)な形態だといえる。
The conception that antibodies, which should protect against disease, are also responsible for the disease, sounds at first absurd. This has as its basis the fact that we are accustomed to see in disease only the harm done to the host and to see in the antibodies solely antitoxic protective substances.
One forgets too easily that the disease represents only a stage in the development of immunity, and that the organism often attains the advantange of immunity only by means of disease. Thus, a mild disease leads to immunity in the normal way, and since the entry of non-multiplying agents (serum) into the body seldom takes place in nature, serum sickness represents, so to speak, an unnatural (artificial) form of disease.

Clemens von Pirquet
from:A History of immunology(1989);A.Silverstein

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