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彼女の花園

初めてその人を見かけた時「なんて素敵な人なのだろう」と思った。
色白で、線が細くて、たおやかで。
森から抜け出てきた妖精みたい。
私が男だったら絶対惚れてるタイプだと思った。

その人はご近所に住むお家のお嬢さんで、まだ若いのにガーデニングが趣味らしく、道に面した自分の家の小さなお庭の手入れをする姿がたびたび見られた。

花や緑を育てるのがとても上手で、その小さなお庭はいつも感じ良く手入れされ、季節の植物に美しく彩られていた。

「近所のよしみでぜひお友だちに」と淡い下心を抱き、何回か挨拶をしてみたり花の名前を聞いてみたりしたことがあるのだけど、彼女はその度に伏し目がちに挨拶を返したり素気なく花の名前を教えてくれるだけで、距離はなかなか縮まらない。
たまに見かけるやけに馴れ馴れしい不審な人、と思われたのかもしれない。

以来、庭作業をしている時でも数メートル先にこちらの姿を見つけると、スッと気配を消してしまうようになった。
お家の前を通り過ぎる時にチラッと目で探しても、その姿は跡形もない。

「ほんとうに、妖精なのかもしれない」

最近では、そう思うようになった。

妖精さんの庭は今日も元気だ。
今は、薔薇が盛りと美しく咲き誇っている。


#エッセイ

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