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『天晴!な日本人』 第91回 「不屈の精神を持った無私無欲の仁人、田中正造」(3) 「人民の権利を尊重した正造」

(三)現在、わが国は危殆きたいの時であり、財政・外交共に困難におちいっている。それは政府の政策がよろしきを得ないからであり、これが国会を希望する理由の三である。
(四)人民の政治的進歩は驚愕すべきほどである。町村や府県で自治が可能であるのに、国会で自治が不可能といういわれはない。これが国会を希望する理由の四である。

(二)(三)は、他から出された開設論にもあるもので、珍しいものではありません。国会期成同盟の国会開設論では、
「人は生まれながらにして自由と権利が保障されているという天賦人権論から始まり、その権利ゆえに責任も重大だが、封建制下では人民は国政から排除されていたので、その責任を果たすことができなかったとし、参政権を得ることで責任を果たせる」としていました。

さらに国家にとって最も必要なことは人民が一致協和することであり、そのために必要なのは各人の愛国心であると説いています。
人民に愛国心がなければ各人がばらばらになり、国は衰退し、はなはしい場合には滅んでしまう、人民を一致協力させるために国政に参加させ、自ら裁断させること、そうすることで、人民に国家の休戚きゅうせき(喜びと悲しみ)を我が事として捉える気風が生じるであろう、というのが主張の骨子こっしでした。

この愛国心の語は、会津攻略をした板垣の所感で、もし、会津の民衆に、それがあれば我が軍は、五〇〇〇人あまりしかなく、容易には勝てなかったと回想した上でのことだったのです。
愛国心ということでは、現在の日本も同じです。愛国心と口にすれば、条件反射的に右翼、軍国主義者と指弾される社会、メディアは異常です。
諸外国のように、小さな頃から国旗と国歌に親しませ、日本国民としての自覚を促す教育が必要です。自分の国さえ、自分たちで守る気概すらない国は、まともではありません。

このような国と国民の関係につき、欧米視察から帰国した大久保利通は、一八七三(明治六)年一一月の、「立憲政体に関する意見書」で、イギリスの繁栄が、国民の愛国心と、君主がそれを尊重する慣習があるからである、反面、日本に愛国心のある者は一万分の一であり、人民の能力を束縛し、権利を抑制する弊がある、人民の能力を尊重する政体にするなら国も繁栄する、という趣旨のことを述べていました。
歴史家の牧原憲夫まきはらのりお氏は、『客分と国民のあいだ-近代民衆の政治意識』(吉川弘文館こうぶんかん)の中で、自由民権運動とは、民衆に対して、国家の命運に自分の運命を重ねる「わが国」意識、「国民」意識(ナショナル・アイデンティティ)を持たせようとする運動、と述べていました。
江戸時代、民衆は、「おらが藩」という意識はあっても、日本国全体を愛する愛国心という概念はなかったのです。いや、日本国という概念すらなかったのでした。
それが明治になり、天皇を戴き、二度の戦争(日清、日露)を通じて、愛国心が生まれたと言えます。

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