メビウスの輪!? 『フィスト・ダンス』 第127回 「勝利へのカウンター」

拳が飛んだ。
ヘッドスリップで難なくかわしたマーボが、反撃の右拳を振った。

冬休みが終わった最初の土曜日、菊山道場には大中と甲南こうなん中の長ラン一同が揃っていた。
「対藤田」戦で、先に対戦したのはマーボだった。
冬休み最後の一週間はスタミナアップとばかりに、連続100本打ちを毎日やったほど集中していた。
組み手の相手をした翔太の見立ては、差はわずか、強いて優位とするなら藤田だが、両人の調子次第では容易にひっくり返るほどの差だ。
振り返ると、入学後、たったの1年9ヵ月で、このレベルになったマーボの努力は驚異だった。
マーボの気性からすれば、翔太と一緒にいる大中時代が、生涯で最も真面目に努力した経験となるだろう、と思わせるほどである。

マーボが仕掛けた。
右のハイキック、かわす藤田に左のリードパンチの後、すかさず右のストレートだ。
流れはいい。藤田は二発目までスウェーでかわすが、三発目は腕でブロックした。
マーボのコンビネーションがたくみだったからだ。
他の面々なら、まともに喰ってKOだったろう。

マーボが出る。
ラッシュ、パンチが速射砲のように続いた。
藤田は極力、かわすが、間に合わないと見るや、肘でブロックし、即座に拳を返す。
マーボも腕でブロックし、反撃するが、藤田の連打のうち、一発があごに刺さってのけ反った。
「おお」という声が、男たちの間からあがる。
藤田は好機と見て猛然と拳の雨を降らせる。
マーボは腕で受けながらも、きっちり反撃し、藤田の頬に当てた。
再び、「おお」という声が湧く。
見ている男たちの視線も、いつになく真剣だ。
大中の男たちにとって、藤田は乗り越えなければならない大きな壁だが、勝てないという思いは、さらさらなかった。それだけに藤田の攻守を観察しているのだ。

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