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『天晴!な日本人』第51回 神算鬼謀(しんさんきぼう)の奇才、天才参謀の秋山真之(さねゆき)(3)

さらに、この時代に世界最高の海洋戦術家と称された、アルフレッド・セイヤー・マハンのニューヨークの自宅を訪ねています。
マハンは予備えきになっていましたが、元海軍大学校長で、世界的に有名な『海上権力史論』の著者でした。この著書は現在も戦略・戦術の必読書とされているほどで、海洋戦略の聖書バイブルともされています。
あの大東亜戦争で日本が負けた背景には、この著書の戦略を土台とした対日戦争プランがありました。

マハンの研究所は、過去からのおびただしい海戦の例を詳細に分析し、そこから原理を見出すというものでした。いわば、多くの経験から論理を導き出す帰納きのう法で、真之も同じです。ついでに言うなら私も帰納法を重視してきました。
その反対が演繹えんえき法です。これは経験によらず、一般的原理から推理します。

真之はマハンにアメリカの海軍大学への入学ができないか尋ねましたが、機密上、難しいと言われます。それよりも自分で戦史を調べることだと助言されました。合わせて読むべき書も推薦してもらいます。
真之は助言に従ってワシントンの海軍省の図書館に通います。また、マハンの家も訪ね、その高説を傾聴したのです。マハンは、やがてアメリカがイギリスに代わって世界の海軍国となると予期し、四つの目標を唱えました。

①大海軍の建設
②海外海軍基地の獲得
③パナマ運河の建設
④ハワイ王国併合

歴史を見ると、アメリカは忠実にこれを実行しています。
セオドア・ルーズベルト大統領の海軍増強、1898年の対スペイン戦争勝利でのキューバに海軍基地建設、太平洋のミッドウェー、ウェーキ、グァム、フィリピンの領有、1898年のハワイ併合、1903年の謀略によるパナマ分離独立と運河建設と見事です。
「海を制する者は世界を制す」これがマハンセオリーの核心でした。

1898(明治31)年にアメリカとスペインの戦争が始まると、真之は観戦武官として現地におもむきます。この当時は、第三国の軍人がスポーツ観戦のように近くで見ることができたのです。
ただし、流れ弾丸・砲弾で死傷することも覚悟しておかなければなりませんでした。

真之が見たのは、スペイン領だったキューバのサンチャゴ軍港での攻防です。
キューバは15~16世紀の大航海時代以降、スペイン領でした。
サンチャゴ海戦はアメリカの圧勝で終わっています。真之は他国の観戦武官が帰った後、スペイン艦隊の大破した艦船に上がってつぶさに観察しています。ここが真之たる所以ゆえんです。
弾痕の数を調べ、考えたほどの数ではないことを知り、戦闘力を失った致命的打撃は火災と判断しました。そこで戦意喪失したこと、アメリカの砲数の優越、砲術の技量の差、そうしたことを報告書にして出しています。この報告書の『サンチャゴ・ジュ・クバ(サンチャゴ・デ・キューバ)の役』は視点、考察、文章共に、日本海軍史上、最高のものとされ、それ以上のものは現れませんでした。

日露戦争時、連合艦隊の最初の参謀長だった島村速雄しまむらはやおは、「その観察の鋭きこと、識見の高きこと、文章の簡潔巧妙なこと」と絶賛していました。この報告書が、海軍首脳部に注目され、真之の異能が発揮される契機となったのです。
尚、島村速雄という人も、天晴あっぱれな武人でした。土佐の下級藩士の子として出生し、苦労して海兵を首席で卒業し、日清戦争では伊東連合艦隊司令長官の参謀を務め、自らのこうは誇らず、かつ、知勇を兼ね備えた名将です。紙数があれば紹介したかったのですが、無念の思いで割愛しました。

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