『フィスト・ダンス』 第112回 「戦う強さは、精神の強さから来る!」

<もっと試練を!>

「突き抜けるようなイメージとは?」

トミーは、いかにも怪訝けげんそうだ。

「パンチにせよ、攻撃の手は、その対象に届くというところで止めては威力が衰えるのだ。あくまで対象の後ろまで突き抜けるというくらいの踏み込みでないと十分にパワーが出ないんだ。次からは、これを念頭に置いてやってみろ。そして、素早く引く練習もだ。相手がディフェンスしたなら、すぐ次の攻撃に移れるようにな」

パワーアップのために踏み込みを強くしても、それが単発で、瞬時に次の攻めに転換できないようでは何にもならない。
そのためには切り返しが速くなくてはならないし、筋力が弱ければできないことだった。

「なんで菊山君は、いつも、そんなことがわかるんですか?」

伊達の問いだ。

「いつも考えて、試してみて、の連続だからだ。むやみ、やたらにトレーニングしていても強くなんかならないのさ。格闘技ってのは、体をどう使うかだ。自分だけでなく、相手の動きも含めて、どう使えばいいかだ。頭も使わなくちゃ、圧倒的に強くなんかならないんだ」

「圧倒的に、ですか?」

「そうだ、みきお。ちょっとやそっとじゃない。誰もが追いつこうとすることさえ考えないくらいでないと、俺はいやなんだ。そのために誰もできないくらいに鍛える、考える」

それが翔太流だ。芯のない志、弱い精神ではできないのだ。
筋トレ、技術、トレーニング、研究、その一つひとつに強い心が要求され、反映される以上、俺は強くてあたりまえ、という強烈な自負があった。
筋トレにしても、筋肉痛で眠れなくなるほどでなければ、やったうちには入らない。
本物の筋肉痛とは、まるできりをもみ込まれたような強烈なもので、レクリエーションのような筋トレでは筋肉もつかないのだ。

ひとしきり、そんな話をした後は、各自が他の大中の7人にも、1人3万円ずつ配ることにしていた。
翔太が12万6000円、マーボ、トミー、清正が4万2000円を出す。
藤田は伊達に3万円、他のメンバーには1万円ずつ配ることにした。

「おっ、ミッキー、太っぱら。ごっつあんです」

伊達が、おどけて藤田に相撲の力士が懸賞金を受けとる時のように手刀てがたなを切った。
大中の面々も笑みを浮かべている。今回は秋深しというので、翔太の提案で、全員にブレザーを買うことにした。前から欲しかった、フラノ地の紺のブレザーで、金色のボタンが付いている、シャレた品だった。

「おお、大中は、やっぱマブいなあ。英治、俺たちも全員とはいかないけど、買おうぜ、ブレザー」

「おっ、タイマブ」

藤田と伊達はニンマリした。

天野は翔太の手にした金額を聞き、「よく稼ぐもんだ」と千波と感心しているが、これだけ知れ渡った以上、これが最後だろう、という思いだった。
これからは、マーボ、トミー、清正ら、四つボタンの面々で興行となればいい、そうして、次は俺だ、という思いが膨らんでくれたらいいのだ。


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