『フィスト・ダンス』 第142回 「恒例の高市(たかまち)だ」
<シノギは大事だぞ>
翔太たちにとって、最後の夏休みがやってきた。
普通ならば高校受験の勉強で夏期講習など忙しいのだろうが、翔太たちにとっては無縁である。
大中の面々が進学するのは、翔太を除いて、100人が受験すれば200人が合格してしまうという、偏差値とは無縁の学校ばかりだからだ。
そんなわけで夏休みも伸び伸びとしたもので、今年もトミーの父親の組が仕切る、高市に連れていってもらっている。
翔太、マーボ、トミーの他に清正、晃一、丈次が同行した。
翔太たちの暮らす町から車で約1時間、人口10万人足らずの小さな市の祭に来ている。
今回の翔太の露店は、金魚掬いではなく、フレンチドックだ。
フレンチドックは、棒で刺したフランクフルトソーセージに、小麦粉を主体とした衣をつけて、油で揚げ、ケチャップとマスタードを付けて売っていた。
近年、人気の新しいネタでもあった。翔太たちも好物だ。
その隣の露店もトミーの父親の組員が運営しているヤキソバだ。
食べ物を扱う組員は新人ではなく中堅どころで、熟練者だ。
翔太、マーボ、トミーがフレンチドック、晃一、清正、丈次はヤキソバを手伝っている。
「ああ、揚げたてはうめえなあ」
客の入りとは関係なく、自分のために次々と揚げては食べているのはマーボだ。
「おめえ、いったい何本喰ってんだ。これは売りものだぞ」
「うっせえなあ。こんなにあんだから、どうってこたあねえだろ。てめえも喰えよ、ほら」
トミーに言われてもマーボは意に介さない。揚げたてのを翔太、清正、晃一、丈次にも配っている。
その度に翔太は本数に見合った売り上げを、ダンボール箱の中に補充していた。1本150円は、なかなかの値段だ。
マーボは口の周りにケチャップをつけて威張っているが、なかなかの味なのだ。丈次たちも、「うんめえーっ!」と目を細めている。
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無期懲役囚、美達大和のブックレビュー
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