地域の学生が実践! 廃棄花を浮かべて楽しむ「フローティングフラワー」の世界
風のふくまま、庭ぐらし vol .3
こんにちは。ガーデンデザイナーの柵山です。
私はガーデンデザイナーとして東海エリアの様々な施設様とお仕事をさせていただいていますが、昨年大反響だった催しで「フローティングフラワー」イベントがありました。今年も東山植物園の温室で展示されますので、今回の記事ではぜひこの取り組みについてご紹介したいと思います。
水を張った鉢などに花を浮かべる「フローティングフラワー」
神社やお寺での感染症対策として使われなくなった手水鉢(参拝前に手や口を清める水場)にあじさいを浮かべ飾った取り組みが「手水花」として、コロナ禍で一気に注目を浴びたのですが、「フローティングフラワー」もその名の通り、水面に花を浮かべる装飾です。
東山植物園でフローティングフラワーが実施されるのは、温室前館の西花き室。白塗りのガラス張りの部屋にある水盤にびっしりと花が浮かぶ様子は、まるで、中世ヨーロッパの香水工場のようです。
水盤の大きさは、なんと全長24メートル(奥行1メートル)。
あらゆる角度から差し込む5月の日差しにより、様々な花の色が瑞々しく輝き、小さく開いた窓から入るわずかな風がキラキラと水面を揺らします。
鉄とガラスの無機質な空間に花の色だけが輝き、目に飛び込んできます。
改めて自然が作り出した色彩の美しさにため息が出ます。
温室というとムシムシしたイメージがあるかもしれませんが、この時期の温室前館については、とても快適な気温で、ずっとそこにいたくなるテラスルームのような空間です。
さて、この水面に一輪一輪の花を浮かべてゆく取り組み。そこに誰のどんな意図や思いがあるのでしょうか。
白基調のクラッシックなガラス張り空間。
先ずこのとても素敵な温室の事を簡単に説明させてください。
国の重要文化財「日本最古の公共温室」
実はこの東山植物園の温室前館は、8年間の改修工事を終え、2021年4月にリニューアルオープンしたばかりの現存する「日本最古の公共温室」なのです。
1936年に建設された美しいシンメトリーな温室は、「東洋一の水晶宮」と呼ばれ、国の重要文化財になっています。
鉄とガラスによる建築として非常に美しく、鉄骨は修理され建設当初の90%以上を残しています。
レトロな雰囲気がたまりません!
産官学民連携で、植物園を活性化!
フローティングフラワーはこのような歴史的建築物内での展示となったのですが、実はこのお花を浮かべる作業は、植物園の職員さんでなく椙山女学園大の学生の皆さんが行っているんです。
同大学国際コミュニケーション学部 グローバリゼーション論(水島和則教授)の学生34人と民間外部講師として、私 柵山が指導しながら一緒に作り上げます。
要は植物園と星が丘テラスなどの商業施設を運営する東山遊園などが連携した講義の一環なのですが、全15回に渡る授業で、星が丘地域を舞台に日本の花や植物の文化を学び、グローカルな視点で星が丘エリアの魅力を伝える企画力を養うことがテーマとなっています。
「ボタニケーション(Botanic+communication,Education )」とも言える取り組みで、植物を通じて生まれるコミュニケーション、地域環境教育といった植物園に隣接した大学だからこその新たな試みにトライしました。
東山植物園は、隣接する椙山女学園大学と頻繁に連携していて、学生の様々な企画が実施されています。若い感性との融合で、もっと幅広い世代に植物園の魅力を伝えるためです。
母の日で出た“廃棄花”をフローティングフラワーに。
そもそも西花き室は、鉢を置くための高さ約70㎝の3つの棚で構成された温室です。南北の窓際の棚は、水栓をすれば6㎝程の水を溜めることができます。植物の鉢を保管する上で、底面給水ができる仕組みなんです。
ここに水をただ張るだけでも光が反射して綺麗なんですが、神社の手水花のように、お花を点々と浮かべたら綺麗だろうなと思ったのが取り組みを始めたきっかけでした。
展示時期は5月の中旬。「母の日」という日本の花の一大消費日の直後です。カーネーションは、母の日が終ると一気に価値が下がり、売れ残りがたくさん生じます。このイベントではそこで出た廃棄花を活用しようというわけです。
昨年のイベントでは、知人が営む生花店に連絡を取り、母の日の翌日にカーネーションを主としたたくさんの切り花を格安で分けていただきました。
廃棄花とは、様々なシーンで生じるもので、花壇の植え替えのために抜いてしまうパンジーやビオラもそうです。ちょうど5月に夏の花の植え替えをするのです。
星が丘テラスの花壇や近隣のフラワーパークの花壇から花の部分だけを刈り取ってきました。
かなり大変ですが、ビオラを一輪一輪浮かべると本当に可愛らしいです。
また、お花の苗の生産者も夏の花に切り替え時で、過剰生産分を処分する時期でもあります。
ありがたいことにこの取り組みを知って、処分前のお花を自ら植物園まで運んで来てくださった生産者さんもいらっしゃいました。
とあるミニバラの生産者さんは、株を充実させるために開花した花部を剪定で切り落とすそうで、その花首を買い取らせていただきフローティングフラワーに使用しました。
結局、点々とどころか、水面がびっしり埋まるほど花材を調達することができ、迫力のあるフローティングフラワーの展示となりました。
最後の最後まで花の輝きを楽しみたい
フローティングフラワーは最後の最後まで花の輝きを楽しむ手法として最適です。一定の役目を果たし、寿命も短いお花ばかりなので、花びらにして楽しんだり、鑑賞期間は短いかもしれませんが、普段では味わえない贅沢な花飾りも楽しめます。
お庭やベランダでのガーデニングとセットにしても良いかもしれません。ガーデニングでは、花を摘んだり、植え替えをしたりしますので、普段なら廃棄してしまう花を水面に浮かべることで、いつもと違う花の表情を楽しむことができるのです。
下向きで咲くクリスマスローズなどは、浮かべることで本来の花の美しさを堪能できたりします。
ご家庭でも、ぜひフローティングフラワーを!
実は、インドでは、お客様を歓迎するときに、おもてなしのお花として水を張った浅いお皿に花を浮かべて玄関先に飾るそうです。
フローティングフラワーは実は簡単で、生け花やフラワーアレンジよりも手っ取り早く、お花の部分だけを切り取り浮かべるだけです。
もし、小さくてもたくさんのお花があるのであれば、同心円状の模様を作るとインド風のデザインになりますよ。
そして何より、花を浮かべるのって気持ちいいんです!
浮遊感がたまらないんですよ。
フローティングフラワーは、私にとってもっと世間に定着させたい花飾りでもあります。
今年はさらなるコラボ企画に発展!
そして今年は、椙山女学園大学の他の学部の学生も加わり、さらなる連動企画として新たな展示を準備中です。生活環境デザイン学科の学生が、フローティングフラワーがインドのおもてなしフラワーということに着目し、世界各国のお花の習慣を植物園にある世界各国原産の植物と共に紹介する企画です。
植物園内の各所に花を浮かべた水鉢を展示するそうです。
今回はフローティングフラワー展示をモチーフに、産官学民と連携して、植物園を活性化させようとしている植物園さんの試みについてお伝えしました。
地球環境の生態の要である植物。
日本の生活文化に欠かせない役割を担ってきた植物。
“自然と人を繋ぐ役割になりたい“と、そんな思いを植物園さんはお持ちで、私もおおいに共感しています。
植物園のある街として、東山・星が丘エリアは植物を切り口とした街づくりが進んでいます。
自然と人、人と人を繋ぐフローティングフラワーになったらいいなと今年も頑張って花を浮かべます!
是非ご家族で見にきてくださいね。