「種から始まる花の旅」 花、暮らし、私 vol.02
花
と聞いて、みなさんがまず思い浮かべるのはなんでしょうか?
一番身近な存在は花屋さんか、園芸用の鉢植えだったりするのでしょうか?
今、私たちが花を買いたい、贈りたい、と思った時に、お花屋さんに行けば、色とりどりの花や植物と出会うことができます。
夏のお花でも年中見ることができますし、もともと日本には存在しなかったお花も、珍しい品種のものも、とにかくたくさんのお花を1年中楽しむことができます。
それってとても豊かなことだなぁと、私はいつも嬉しくなるのです。
そんな花たちが、なぜ、こうしてすぐに手に取れる距離にいてくれるのか。今日はそんなお話をみなさんに知ってもらえたらと思います。
その裏側にはたくさんの人の努力やストーリーがあるのです。
花が私たちに届くまで。
そもそも花が花屋さんに並べられる前に、花市場や生産者さんという存在があります。そしてもっと前に遡ると、花が花になる前、種や苗、球根から始まることになります。
園芸をされる方にとっては自然に感じられることかと思いますが、切り花を普段から生活に取り入れられている方には、種や苗、球根っていまいちピンとこないかもしれませんね。
かくいう私もずっと切り花の世界で生きているので、種から育って花になるまでのことは、実は知らないことが多いのです。
今日は、そんな種・苗・球根を全国に出荷している種苗(しゅびょう)メーカーさんにお話を聞いてきました。
名古屋の種苗メーカー『福花園種苗株式会社』へ。
取材先は大須観音からほど近い、松原に本社を構える福花園種苗株式会社。なんと創業104年!大正時代から続く老舗です。
同社で営業担当を務める加藤さんとの対話は、内容が濃すぎて予定時間では収まらない取材となりました。お忙しいなか快くご対応いただきありがとうございました!
——そもそも種苗メーカーってどんなことをしているのですか?
加藤:いろいろな業務を行っていますが、ざっくりとまとめると、
①花の種、苗、球根を生産者さんに販売する
②育種をする
というのが種苗メーカーの大きな業務の種類です。
①について簡単に説明すると、一般的な切り花は、
種苗メーカー→生産者→花市場→花屋→消費者
という流れで私たちの手元に届いています。この、一番はじめの部分を担っているのが私たちのような種苗メーカーとなります。この役割を担う会社がなければ、生産者さんも花を育てることができないわけです。
——そう考えるとすごく尊いお仕事ですね!
加藤:ありがとうございます。そして②の育種とは、花と花をかけ合わせて、新しい品種を作り出すことです。より綺麗な花にしたり、栽培しやすくしたり、生産者さんや花屋さんの要望を取り入れて品種改良することも育種にあたりますね。ブリーダーと呼ばれる担当職員が試行錯誤の末、他のどこにもない品種が生まれることもあるのでとても夢のある仕事だと思いますよ。
-西軽井沢農場の試験の様子
これらの種苗をどのように選んで生産者さんに販売しているのか、そういった部分にも、たくさんのドラマが隠されていました。これはたくさんの人に是非知ってもらいたい!と引き続き興奮気味で取材をさせていただきました。
——福花園さんでは、普段どれくらいの花の品種を取り扱っていますか? またそれだけの品種をどんな基準で選んでいるのでしょうか?
加藤:普段取り扱っている花の品種でいうと、数百種以上。もしかしたら千を超えてい るかもしれません。その品種をどのように選んでいるのかというと、まずは、市場のニーズや流通量の多いものが挙げられます。それ以外にも、まだ市場に出回っていない品種をあえて選んで「マーケットづくり」から始めることもあります。
——マーケットづくり!
加藤:その場合は生産者さんや花屋さんと連携しながら「どんな花なら育てたいのか」「人気が出そうなのか」「使いやすいのか」などのリサーチから始め、時には海外の展示会に出向いてそれこそ何百何千の花の中から特別なものを探すこともあります。そして、日本で試験栽培をして、環境に合うものを残していきます。
——そんな途方もない道のりの末、私たちの元に届いている花があるんですね。
加藤:さらには種苗を売っておしまい!ではなく、生産者さんに育ててもらう中でも都度、意見を聞きながら提案する品種を調整していきます。
「もっと茎が硬くならないかな」
「もっと綺麗に花を咲かせたい」
…そういった細かなフィードバックをもらいながら、ベストな品種を選択していくんです。このようなスペシャリストとしての仕事を通じて、皆さんに愛される美しい花をお届けできたら嬉しいですね。
数百種類の中から選ぶ特別な花。
加藤さんに海外の展示会のお話を伺うなかで、とても印象的な言葉がありました。「数百種類もある花の中からどうやって仕入れる花を決めているのか」という私の質問に対する答えです。
「トキメクものを」
この言葉に私はとても嬉しくなったのです。
普段、私がフラワーデザイナーの仕事をする時も、この「トキメキ」をとにかくとても大切にしています。
美しいものをつくって誰かに喜んでもらうには、自分自身がときめいていないとできないと思うのです。
この言葉を加藤さんから聞けた瞬間、「やっぱり花に携わる人」は素敵だなと再確認させてもらいました。
もちろん、トキメキがあればなんでもいい訳ではなく、そこには技術や知識・経験値があるかどうかがとても重要になってきます。
「今の市場のニーズに応えられる品種かどうか?」
「育てやすさや効率も含め、顧客にとって利益がある品種かどうか?」
「そもそも自分から見てトキメキがある品種かどうか?」
福花園さんはこの要素を満たすものをしっかりと見極め、最終的に花を手にする消費者さんの顔を思い浮かべながら、市場が求めるものを選ぶ目を長い歴史の中で培ってきたんですね。
そしてそこで営業として直接生産者さんとやりとりし、ベストな提案をされている加藤さんは、自分が花を見てトキメクことや、農家さんが喜ぶ姿を見るのが楽しくてこの仕事を続けているのだそうです。花と仕事のことを本当に楽しそうに話す加藤さんを見て、私も嬉しくなってしまいましたが、再びインタビューに戻りたいと思います。
「その季節にしか咲かない花」がやっぱり貴重!」
—— 一年を通しての「花の見どころ」について教えていただきたいのですが。
加藤:今は栽培の技術も上がってきて、本来その季節ではない花も咲かせることができます。それ自体は素晴らしいことではあるのですが、やっぱり“この季節にしか見られない花“というのは貴重ですね。色々な花に関わって生きている自分だからかもしれないけれど、季節の花は楽しいです。
—— 早春にはふわふわのミモザからラナンキュラス、チューリップが花市場を賑わせ、春の訪れを伝えてくれるし、しばらくして、芍薬の艶やかな蕾を見ると、あのふわふわな羽毛のような花が終わればもうすぐ夏だなと感じることができる。そうこうしていると蓮の花が儚さを教えてくれ、黄色い鮮やかなひまわりが夏の元気をくれる。爽やかなグリーンだったキイチゴの葉が紅葉して、実物が秋の実りの時期を教えてくれる。冬にはクリスマスや正月に馴染みのある花や飾り、ヤドリギなんて珍しいものも。木蓮の蕾が準備をし始めたら、また、あの色とりどりの春の花に出会える!
こうして私たちは、自然と共に生きていると感じられるのですね。
-春に色とりどりの花を咲かせるラナンキュラス 三重の農場より
加藤:技術も設備も上がってきたとは言え、生産者さんがコストや生産体制など、現実的に無理をしてでも咲かせる、ということはないので、必然的にその時期にしか見られない花は魅力的に感じますね。
—— 加藤さんが仰る「楽しい!」という感覚は、普段から花を扱わない方にとっても、きっとふとした瞬間に季節を感じ、自然を楽しむ感覚を見出す重要なヒントになるのではないかなと思います。話す程にどんどんと花に対する「愛」が溢れ出てくる加藤さんに、私自身がワクワクしながらお話を聞かせていただきました。そんな加藤さんが、最終的に花を手にする消費者さんに伝えたいことはなんでしょうか?
加藤:花屋に入るのって服屋に入るのと似ていて、ちょっと敷居が高く感じてしまいますよね。それをもっとOPENにしたり、どうしたら敷居を下げることができるかを日頃から考えています。
もっと、気軽に花を買っていいし、あげていい。特別な日じゃなくても「花をもらうこと」「花をあげること」をもっと日常で体感してもらいたいですね。
——普段私が考えていることとあまりにも同じで、また嬉しくなりました(笑)。一輪から始めてもいい。まずは花瓶を買ってからでもいい。とにかく「花を身近に感じる人が増えるほど、私たちは嬉しい」という気持ちを、私たち花に携わる人間は持っていると思います。他に暮らしに気軽に花を取り入れる為のアドバイスはありますでしょうか?
加藤:切り花は必ず枯れます。でも、その枯れるところまでを含めて花を楽しんでもらいたいですね。それでも抵抗がある方には、長く楽しめる段咲き(蕾がたくさんあって次々と咲く花)を一輪だけ買うところから始めてみてはいかがでしょう。アルストロメリアの段咲きなど丈夫で蕾も多く、一カ月くらい楽しめるものもありますよ。
-下の方から順に咲き、長く花を楽しめるアルストロメリア。色柄も多く、一輪ずつでも楽しめる
花を身近に楽しんでもらえるように。
他にも福花園さんは、一般の消費者の方に気軽に花を楽しんでもらい、興味を持ってもらえるような仕組みづくりにもトライされているそうです。
SNSで積極的に花の情報を発信したり、花屋さんとイベントを企画したりとOPENな活動をされています。
インスタグラムに載せる写真も、ただの花の写真ではなく、使ってもらう時のイメージがつきやすいように自分たちで撮影。花束やアレンジにした様子を、自社の撮影ブースで撮っているのだとか(生産者向けのカタログの撮影もそこで行っているそうです)。花への愛情とプロ意識を感じますね!
-社内の撮影ブース。アレンジや花束も自分たちで作れるように講習を受ける徹底ぶり。
-自社で研究を重ね、制作販売しているドライフラワー。
最終的には消費者さんに、自分たちの携わるお花が届くことが喜びでもあるという加藤さん。そのためにも花屋さんともマメに情報交換をしながら、消費者さんの要望を聞いているそうです。そんな彼から、最後に読者のみなさまへのメッセージです。
加藤:花屋に行くのがどうしてもハードルに感じてしまう方は、まずは通勤中や散歩する時に、その辺りに咲いている花を見てみてください。普通のことかもしれないけれど、心が少し豊かになるはずです。そして、次にはやっぱり花屋さんに行ってみてほしいです。行けばきっと、すごく楽しいから!
-撮影用の花束をつくる加藤さん
花に対する想いの詰まった、とても温かいインタビューとなりました。
普段目にする花が、生まれてから私たちに届くまでの果てしない旅。
その裏側に携わる方々のストーリーを知ると、これまで以上に花に興味が湧いてきます。
私はそんな記事を、これからもお送りしたいと思います。
取材協力:福花園種苗株式会社
名古屋市中区松原二丁目9番29号
https://www.fukukaen.co.jp/
▼お花やアレンジのアイデア紹介しています
福花園instagram:@efu_no_hana