「努力できない脳」 でも東大に合格できる?脳科学者・中野信子さんインタビュー
☆10月23日に発売する『ドラゴン桜2』7巻の巻末に収録されている、脳科学者中野信子さんのインタビュー。コミックス発売に先行して、取材記事の一部を公開します!
自身も早瀬と同じく「努力できない脳」の持ち主だと語る、東大出身の中野信子さん。受験生時代は、そんな「努力できない脳」の“利点”をうまく活用するため、独自の勉強法を編み出して東大を攻略。
「努力できない脳」でも「努力できる脳」でも、それは単なる各自の個性であり、自身がどんなタイプか見極め、タイプに合った勉強法を確立することこそが重要なのだという。
そして、日本人に古くから備わった“強み”である「ネガティブ感情」をうまく活用することで、東大は遠い目標ではなく、十分に攻略可能な対象になるという。
中野信子(なかの・のぶこ)
1975年生まれ。脳科学者。医学博士。東日本国際大学教授。人間の行動パターンだけではなく、国際問題から、流行やカルチャーの分野まで分かりやすく説明する。著書に『脳内麻薬 人間を支配する快楽物質ドーパミンの招待』(幻冬舎新書)、『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(共著、文春新書)『サイコパス』(文春新書)などがある。
天野と早瀬は、悩みすぎないで!
努力できる脳の持ち主。努力できない脳の持ち主。
実際のところ、人にはこの180度違うふたつのタイプがいるのは、漫画本編に出てきた通りです。天野くんは努力できる脳で、早瀬さんは努力できない脳だということになっていましたね。
自分がどちらかのタイプであるかによって、勉強のしかたや能力の伸ばし方は、変えていくことが必要になってくるかもしれません。ただしひとつ大切なのは、どちらのタイプがよくて、どちらかが悪いといったことではないということ。
努力できるタイプと努力できないタイプと聞けば、印象としては努力できるタイプのほうが成功に近いように思えてしまうかもしれませんけれど、そんな単純なことではありませんから。
そこにはタイプの違いがあるだけで、そのまま優劣につながるわけじゃないのです。心配せずに、それぞれ自分に合ったやり方で勉強を進めればいいでしょう。
天野くんと早瀬さんは、それぞれ脳のタイプが違いました。自分のタイプを言い当てられたことによって、どちらもあれこれ悩んでしまっていました。自分の進む道を模索するのはいいのですが、ふたりにはぜひあまり悩みすぎないことをおすすめしたいです。
というのはどちらのタイプだとしても、東大に受かるくらいなら、正直なところなんとかなるからです。
東大受験なんて簡単だ! と桜木建二先生のように言い切るのはちょっと勇気がいります。ただ、東大受験は、生まれ育ちに関係なく挑戦できる、どんな人にも開かれた公平なテストです。そして、適切にトレーニングを積めば、まったく歯が立たないということはないはずなのです。
だって、いくら大学受験の最難関だとはいえ、それは受験勉強というある決まった枠内での話ですからね。受験勉強の目的はそもそも、試験で合格点をとることに尽きます。大学入試には採点基準がしっかりとあって、合格点についても、これまでの出題傾向についての情報も、必要なら簡単に手に入りますよね。
ということは、やろうと思えば誰でも対策をしっかり練ることができるはずなのです。ちゃんと戦略を立てて、それを実行すれば、勝つことはできるしくみになっています。難易度が高いとはいえ、東大入試だって同じ原理の上に成り立っているものに過ぎません。特別な人じゃないと目指せないような対象ではまったくありません。
私の東大受験突破法
私自身についていえば、明らかに「努力できない人」のタイプです。そんな私も、かつて東大の受験には合格しました。
どういう方法によって合格したかといえば、まずはゲーム感覚で、自分を飽きさせないように受験勉強を進めていたということがひとつ。大学受験って考えようによっては、全国の高校生で競い合うゲームみたいではないですか。
模試などを受けると、全国の総合順位や科目別順位が発表されて、主催側が自分の得意・不得意や足りないものまで分析してくれますよね。参考書などのいわば攻略本のようなものも豊富で、それに沿ってゲームを進めれば着実にステージが上がっていく。
壮大なゲームに延々と取り組んでいるような気分になれれば、最初はしんどいかもしれませんが、やがて受験勉強自体が楽しみになっていきます。私は自分で自分をそういうモードに自然と調整していたのでした。
さらに、自分なりの戦略もかなり練り込みました。努力できないタイプの自分としては、いかに努力しなくて済ませられるかが勝負。その方策を考え抜いたのです。
そのためには基本方針をしっかりと決めました。受験は、合格ラインギリギリの点数で受かったとしてもトップで受かっても、合格は合格であってそこに差はつきません。ということは、最小限の努力で最大限の結果を得るには、合格ギリギリのラインを確実にクリアすることを目指せばいい。
そこで、全体で何点取れば滑りこめるかをまずは徹底してリサーチしました。そのうえで、自分の現時点での学力ですでにとれそうな点数はどれくらいかも計算し、ギャップを正確に算出。足りない点数をどこで補うかを見定めて、その科目・範囲を徹底して補強していきました。
無駄なことはやりません。時間もあまりありませんし、コツコツ努力することができないのだから、集中してなんとか乗り切るよりほかありませんからね。
大学受験は己のタイプを知る最初の機会
私の場合は、努力ができないタイプであるゆえ、そうした戦略をとりました。タイプが異なれば、また違った方法を選択するのもいいでしょう。たとえば努力できるタイプの人なら、最初から目標を決めて、東大合格へ向けて毎日コツコツと勉強を積み重ねていけばいい。そうすれば着実に目標へ近づけます。
なんらかの結果を出すには、自分のタイプをよく見極めることが重要です。大学受験は、己を知る訓練としてはひじょうに有効なものだと思いますよ。
「受験なんてどうせ覚えたことも後々役に立たないし、無駄じゃないか」
という声はよく聞かれますが、少なくとも比較的人生の早い時期に、自分はどういうタイプだろうかと考え得るのであれば、それは無駄なんかじゃありません。これからの人生に大いに活かせる重要な情報を手にすることのできる絶好のチャンスとして使えるものです。
みなさん大人になってから、高額なお金を払ってでも、自分がどういう強みと弱みを持っているかを、分析しているではないですか。研修だったり自己啓発など、いろんな名称や状況がありますが、よりよく仕事をするために自己分析に熱心ですよね。自分なりに受験勉強にしっかり取り組むと、そうした分析をする習慣が身に着いていくわけです。
それはもちろん高校生時点での自分と30代、40代の自分では、立場や考えがずいぶん違うかもしれません。でも「努力できる」「努力できない」のタイプは、遺伝的なところにその要因があって、年齢を経てもほぼ変わることがありません。
自分が満遍なく絨毯爆撃のように課題を潰していける「努力できる」タイプか、効率を求める「努力できない」タイプかは、早いうちに見極めておいたほうがいいでしょう。受験をきっかけにその分析ができた人は、ラッキーだし恵まれていると思いますよ。
努力できない脳だって、だいじょうぶ
私はいろんな方から悩みを打ち明けられることも多くて、その中には、
「集中力がなくて物事が長続きしない。どうしたらいいのか」
という声もけっこうあります。それは何も欠点と決めつけなくてもいいことですよといつも伝えています。
集中力がないのは、その人が持っている生存戦略のひとつと考えたほうがいい。集中力がないと、逆にいろんなところに目が向くし、人よりも気づきが多くなったりしますし、集中力が続くあいだに物事を終わらせようとして、効率化をはかるのが得意になります。
そういう自分の特性はそう簡単には変わらないし、変えないほうがむしろ得策だと思います。そのことによって自分をダメな人間だと思うことなんて、もちろんありません。
大切なのは、自分がどういうタイプの人間であり、何が得意なのか、どういうところは避けたらいいかをきちんと知っておくことです。スポーツをやるときだったら、自分は攻撃型でシュートが得意だからフォワードのポジションにしようとか、周囲と連携をとって危機察知能力を発揮するほうが向いているからディフェンダーになろうといった判断は、ふつうにするのでは? それなのに、ふだんの生活について自分の特性をろくに考えないというのはなぜなのでしょう。
日常生活を送るだけなら漫然とできてしまうから、かもしれませんね。自分を分析するなんて、よほど切羽詰まって崖っぷちに追い込まれたりしないかぎり、やらないものかもしれません。早いうちに自分を客観視してタイプを見極める。そのタイプによって自分の長所を伸ばしていくほうが、無理なく能力を発揮できる人になれるのです。
ネガティブ感情を使うのは理に適っている
本編の中で、「努力できない脳」の早瀬さんに対して水野先生は、「自分の脳を騙すこと」を提唱します。脳の島皮質が「そんなこと無駄だ」「面倒だ」とブレーキをかけてしまうから努力ができないのであって、そのブレーキをかけさせないようにするため、ネガティブ感情を利用して脳を騙そうというのです。
ネガティブ感情は自分にとってイヤな感情だから、解消したいという強い圧力が働きます。うまく利用するのはたしかにいい手ですね。
本人にとってイヤなネガティブ感情なんて、ないほうがいいだろうと思うのに、私たちはみんなこれを持っています。ということは、ネガティブ感情は何かの役に立つから存在していると考えたほうが自然です。
熱い! という知覚は本人にはつらいもので、そんな感覚はなければいいとも思ってしまいますが、熱いと感じるからこそ私たちは熱されたものからとっさに身を遠ざけて、火傷を回避することができるわけです。本人にとってその場ではつらい感覚も、我が身を守るためにはたいへん有効に働いてくれています。
心にも同じような機能は備わっています。ネガティブ感情も、人がなんらかの目的を達成するためのよき動機として機能します。どうしても勝たなければいけない相手がいると、その相手のことをどんな手を使ってでも引きずり下ろしてやりたいと一瞬心で思ったりするものでしょう。その強い感情は、良い方向に使えば、次なる挑戦の原動力にもなるのです。
ネガティブ感情は上手に使えば、思いがけない力を発揮することにつながるのです。
受験勉強の場合、試験本番の直前数分前、といった状況でもない限り、誰かを引きずり下ろしても自分の得点が上がるわけではないので、ライバルと目する人がいるなら、その相手を実力で上回ってやろうという気持ちを醸成したほうがいいでしょうね。プラスの行動に結びつけることができるならば、表には決して出さない範囲で、どんどん人を妬んだりしてみたってもいいかもしれません。
※この続きのトピックは……
・いまどきの10代のコントロール法
・日本人はネガティブ感情が多め?
☆中野さんのインタビューの全文は、10/23発売の『ドラゴン桜2』7巻でお楽しみください!
『ドラゴン桜2』7巻あらすじ
脳には「努力できる脳」と「努力できない脳」があるという。とある判定法によって、「努力できない脳」であることが判明した早瀬菜緒。東大目指しての猛勉強真っ最中の厳しすぎる宣告だった。しかし、そんな脳を騙して努力させられる方法があるという。多くの受験生にとっての”朗報”を手中にした早瀬は、同じく東大を目指す天野晃一郎とともにゴールデンウイークの合宿に挑む。その合宿は、前シリーズで猛烈すぎる勉強をこなし、見事現役合格を果たした水野直美が「鬼となって二人を徹底的に鍛える!」と宣言する「地獄の合宿」となる予定だったーー。
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