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超難関・ミネルバ大学での学びは「主体性」がカギ!初の日本人学生・日原翔さんに聞く

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ハーバード大より難関!? オンラインで学ぶミネルバ大学

「ミネルバ」。ローマ神話に出てくる知恵の女神の名を冠した大学のこと、聞いたことがあるだろうか?

 全寮制なのだが、どこか決まった場所にキャンパスがあるわけじゃない。

 在学する4年間のあいだ、世界7都市(アメリカ・サンフランシスコ、韓国・ソウル、インド・ハイデラバード、ドイツ・ベルリン、アルゼンチン・ブエノスアイレス、イギリス・ロンドン、台湾・台北)を転々としながら、基本的にオンライン上で講義を進めながら学んでいくという、ユニークなことこの上ない4年制(学部課程)の大学だ。

 入学試験もオンラインで行われる。全校生徒は約600人、日本人は7名在籍しているという。

 学費は、奨学金などを受けずに全額払うとしたら、寮費込みで1年間約300万円程度だという。

 21世紀になってから誕生した新しい大学だというのに、世界中から常時2万人以上の受験者を集め、合格者のなかにはハーバード大学やケンブリッジ大学を蹴って進学する例も多々ある。

 すでに超難関大学となっているのだ。

 ここで初の日本人学生となったのは、現在3年次で学ぶ日原翔さん。現在はベルリンに滞在している。

「ドラゴン桜」ではいつも「東大へ行け!」といってきたものだが、日原さんの選択には大いに興味をそそられるな。ご本人に様子を聞いてきたぞ。

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<プロフィール>
日原翔 
1998年5月13日、埼玉県生まれ。世界最難関ともいわれるミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)の3年生。聖光学院高等学校を中退し、経団連の奨学金制度でカナダのUnited World Colleges(UWC)に2年間留学した後、2017年9月にミネルバ大学に進学。キャンパスがなく、4年間で7都市を移動しながらオンラインで学ぶミネルバ大学での体験を、メディアを通して積極的に発信し、日本の教育界に一石を投じている。ソフトバンク孫正義氏が未来を創る異能を開花させる目的で設立した孫正義育英財団の一期生にも選出されている。趣味はフリースタイルダンス。

「自分にはミネルバで学ぶことはすごく合っていると思いますし、とにかく毎日が楽しい。よき学びのシステムがここにはあると感じていますよ」

と、日原さんは現在の生活にたいへん満足している様子だ。ミネルバは、どんなところがすごいと実感しているのだろうか。

「そうですね、パッと思いつくだけでもいくつかあります。

一つには、日本の教育機関とはまったく違う学びの内容と方法です。
ミネルバではすべて学生の主体性が前提となります。ですから基本的に、授業が始まるときにはその内容について、学生は勉強を終えている。
その知見を使って、90分の授業のあいだはひたすら討論するかたちです。

高校時代までに僕が体験した日本の学校では、授業中に話すということがほとんどありませんでした。ただ座っているだけというのが、僕にはけっこうつらかったし、それだと学ぶ内容もなかなか身につかないという気がしていました。

いまのミネルバのスタイルのほうが、学んでいる実感は強く持つことができますね」

 昨今、日本でも導入が唱えられている「アクティブラーニング」がごく自然におこなわれているということだな。
ただ、そういう授業が成立するには、学生に主体性が備わっているのが前提だ。

これを日原さんはいつ、どうやって身につけたのだろうか。

友人の影響で高校を中退、カナダの学校へ


「特別に小さいころから主体的な人間だったということはありません。転換点があったとすれば、神奈川県の聖光学院に通っていた高校2年のときです。

 友だちがあるとき『今回の定期試験はがんばる』と宣言して、実際にいい結果を出しました。それを側で見ていて、置いていかれた気分になりました。

 友だちはやることを自分で決めて、きちんと実行した。そういうこと、自分もできるんだろうか。何をしたらいいんだろう? そのときをきっかけに、真剣に考えるようになりました。

僕は小学6年生まで海外で暮らしていて、帰国してから日本の教育にちょっと苦労している面もあったので、また海外に出るのはどうだろうと考えた。

それでまずカナダの学校に行き、そこでミネルバと出合いました。

ミネルバでは主体的に取り組まなければ何も始まりません。
そういう環境に身を置いていることで、物事を主体的にとらえる態度が身についたんだと思います」

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先生は答えをくれない。学生がもがいてこそ、知識が定着する

 ミネルバ大学で学ぶうちに主体性を身につけたと日原さんはいう。

「環境に大きく左右されるのが人間という社会的な生きものの特性ですからね。まずは思い切ってジャンプし、いいと思える環境に飛び込んでしまうことが大事でしょう」

主体性がみがかれるミネルバでの学習とは、具体的にはどういうものなのか。

「どの授業でも、教授がなんらかの答えを教えるということはまったくありません。

 彼らはファシリテーターに徹していて、どうすれば生徒が答えにたどり着けるかを考えて適宜質問を投げかけてくるだけ。最後に答えを出すのは学生じゃないといけないということが徹底されています。

 日本の授業でよく見られるような、先生が順序立てて考えの筋道から答えまでを教えてくれる形式のほうが、効率がよくてインプットも多いようにも思えるかもしれません。

 実際のところ僕も、知識を学んでいる実感みたいなものは日本にいたときのほうが強かった気もします。
 ただ、そうやってインプットした知識は、数日後にはすっかり忘れてしまっているというのも同時に経験しました。

討論ベースのいまの授業は、確かにモヤモヤが残ることもあります。

答えが明確に出ないことばかりですし、この時間に何をインプットできたのかはっきり示せなかったりしますから。

でも、議論をするために脳をフル回転させながら授業時間を過ごすので、数週間後に同じ問題を応用させる課題に取り組んだときなどでも、意外なほど以前の内容をしっかり覚えているんですね。

ひょっとすると、本当に何かを学べているとき、人はその場では実感がないものなのかもしれません」

世界中から集まる学友がいい刺激を与えてくれる

日原さんが実感しているミネルバのメリットは、他にもある。

「そこに集っている人の存在も大きいですね。ミネルバの学生は本当に多様です。

国籍や年齢といった表面的な違いもあるし、考えていることや興味の対象、これまでの歩みも本当にさまざまで、みんな深いストーリーを持っているんです。

たとえばブラジル人の友だちは今年24歳で、ミネルバが3つ目の大学だそうです。最初の大学ではうまくいかず、次に行った工業大では物理とか数学を楽しく学んだけれど、卒業までいるほど充実感がなかったのでミネルバに移ったといいます。

ビジネスに関心があって実際に自分の会社を持っている人もいるし、書くことが好きで作家活動をしている人もいたり、絵が好きで個展を開いたりする人も。

そういう人たちに囲まれて過ごしていると自分の興味も広がって、日々新しい学びや視点が得られて、世の中が鮮やかに見えてきますよ」


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人と違う「オリジナル」を積み重ねるのが真の学び

 世界中からミネルバに集う多様な人たちの話を聞くにつけ、「やはりそういう大学に行くのは『特別』な人なのか」と思ってしまうが、日原さんは「そうは思いませんよ」という。

「だれだって自分に固有の人生を送っているはずですよね。

 ユニークなことをしている人に見えるかどうかは、自分が人と違うオリジナルであることを自覚しているかどうかの差でしかないと思います。

 日本の社会では、人と違うことがあまりポジティブに受け止められないところもあるので、つい目立たないようにしてしまったりするのかもしれませんけど。

 自分は世の中に一人しかいない特別な存在で、自分にしかできないことがどこかにきっとあると、信じることが大事なのだと思います。

 これは世界中の70億人、だれにでもいえること。

 僕自身のことを考えてみても、僕の関心や能力、性格といった要素の一つひとつを見れば、だれよりも優れているものなんて何もないし、僕だけが持っているものなんてありません。

 でも、それらの要素の組み合わせかたはきっと僕だけの固有のものだろうし、そこに僕がいる意味や価値はあるんじゃないでしょうか。

 自分なりの要素の組み合わせをどんどん築き上げていく、それが学びを重ねるということなのかなと思います」

ミネルバ大学の1年目は、ものごとの学び方を徹底して学ぶ


 日原さんはさらに、4年間に7カ所に滞在するというしくみや、授業のカリキュラムも、ミネルバのよさだと強く感じているそうだ。

「いろんな場所へ行くと、それぞれがユニークだと実感します。そこに住んでいる人のパーソナリティや風土がまったく違うことに気づけておもしろいです。

 カリキュラムは、1年目がとくに特徴的で、学び方を徹底して学ぶんです。

 具体的なケーススタディは排除して、抽象的な概念や方法論のみをやるので、最初は歯がゆかったものです。

 抽象的すぎて、何を学んでいるのかよくわからなかったのです。
ただ、ふりかえって考えるとそれがよかった。

 ものごとについて考えたり話したりするときのふるまいかたを身につけるということですから、それはいったん徹底して覚え込まないといけないものです。

 たとえば『相関』と『因果』を混同してはいけないだとか。現実的なことにあえて踏み込まない方法によって、概念がしっかりと僕のなかに植えつけられました。

 ミネルバは学びについての科学的な知見を重視して、自分たちの進むべき道を決めています。

 それはだれも知らない知見ということではなく、オープンになっているものです。

 ミネルバがオリジナルに発見したわけではないけれど、実際に実行しているところは他にまずないわけで、その実行力がミネルバのよさと強みなのだろうと思います」

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主体性を重視する環境は、競争とは無縁

 日原翔さんのミネルバでの日々は、オリジナルかつ有意義なもののようだが、すべてのことが受け身ではいられないこともあって、決して楽ではなさそうだ。

「そうですね、なかなかハードな毎日です。
 授業はすべて英語で、1コマ90分の授業が1日に2コマ、午前中にしかありませんけど、授業に出るためには事前に授業時間の少なくとも2倍の準備時間が必要です。

 授業が終わればレポートを書く課題があることも多いですし、せっかく滞在している街を見て回る時間も欲しい。食事も自炊なので、食材を買いに行ったりと生活面での自立も求められます」

 それはいくら時間があっても足りなさそうだ。ハードな生活を維持するにあたって支えになっているのは何なのだろうか。

「やらされているのではなく、好きでやっているからできるんでしょうね。
 クラスメイトもがんばり屋が多いですよ。

 他者と競っている感じはなくて、みんな協調し助け合っています。

 思うんですけど、主体性がある人にとっては競争というモチベーションはいらないんじゃないでしょうか。

 競争ベースとは別の原理で動く世の中のほうが理想的だなと思います」


学んだ知識を世の中にどう生かすかが問われている


 1年次のカリキュラムは「学び方を学ぶ」ことが徹底されているとのことだったが、2年次以降はどうなるのだろう。

「通常の授業がおこなわれます。

 2年の前期に僕が取ったのは、物理学と数学、政治学など。

 ただし形態としてはやはり、内容は事前に文献を読むなどしてインプットしておいて、授業の90分は討論するというものです。

 ミネルバの方針としては、知識を世の中にどう生かしていくかが重視されます。僕も個人的に、学んだことは社会に還元したいという気持ちが強いので、そこは合致していますね。

 3〜4年次になると自分の学びたいコースを丸ごとデザインするようになります。

 自分の進む道としては、科学やテクノロジーを人のために使いたいと思っているので、そのために学ぶべきことをこれから絞り込んでいきたいです。

 ミネルバ大学は教養大学なので、科学やテクノロジーに関する研究をさらに掘り下げたくなったら、専門的に学べる大学へ進む選択肢もあるかもしれません。

 将来の進路は、まだそれほどかっちりと決まっていなくて、ぼんやりとしています。

 でも、それでいいのかなと自分としては考えています。

 自分の強みはそれほどすぐわかるものでもなくて、わからないなりに手当たり次第やってみるところから浮かび上がってくるだろうと思うので。

 本人もよくわからないまま何かをやってきた積み重ねのなかから、確固たるものが見えてくるだろうと期待しています」

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学力よりも「好奇心」がいい学びにつながる


 日原翔さんはミネルバという場を得て、本人にとって「いい学び」を積み重ねているようだな。

 ここで疑問に思うのは、そういうことができるのは、もともとしっかりとした学力の土台があるからではないのだろうか。

 好きなことをするにも、まずは基礎学力が相当に必要なのではないか。

「どうでしょう、僕はいわゆる学力なんて、あまり必要ないと思います。

 日本にいたときは自分も科目によっては追加講習を受けなければいけないような生徒でしたし。

 学力よりも、いま生きているのは好奇心ですね。
 小さいころからいつだって『なんで? なんで?』と聞いているタイプでした。

 あまりにも両親に質問ばかりするので、5歳か6歳のときの誕生日プレゼントとして百科事典をあてがわれました。

 疑問に思うことがあったら、まずはこれで調べてみて、それでもわからなかったら聞いて、といわれたんです。

 新しいことやものごとのしくみを知ると、すこし大人になった気分でした。何かを知ると、その先にまた次の知りたいことが浮かんでくるのも楽しかった。

 いまも変わらず、何かを知ることへの好奇心は強いほうだと思います。それが僕の財産だし、いまの生活を支える原動力かなと感じています。

 ミネルバの入学試験でも、『なんで?』と常日頃考えてきたことが役立ちました。

 僕の時の試験は、覚えた知識を問うものではなく、表現力や数学、創造性、理解力などの複数の思考力を測るものでした。

 さらに、出題されたテーマに対して自分の考えを述べるエッセイがありました。
 僕にとってはさほど難しくなく、A4用紙2枚のエッセイを20分程度で書きましたが、世の中のことに幅広く疑問を持ち、普段から自分の考えを意識していないと、難しいテストかもしれません」
 
 小さいころにぜひやっておくべきこと、というのは何かあるだろうか。

「好きなことがあったら、それに夢中になればいいと僕は思います。

 対象はなんでもよくて、何も算数や理科にまつわることじゃなくたって、スポーツやゲームなんかでもかまわないんじゃないですか。

 楽しんでやればこそ見える世界があるはずですし、いやいやながら何かに取り組んでも、だれも得しないのでは。

 いまのうちから勉強もしっかりやっておかなくちゃ、と大人は思うでしょうけれど、勉強っていつでも始められるし、いつから始めたって遅すぎるということはないという気がします」

2019年10月漫画コマ

 とはいえ、世間的に決められた通りに、この年代ではこれくらいのことができないといけない、学力はこの程度はないと……などと、つい大人としては考えてしまいがちなのだが。

「すでに常識とされている人生のレールに沿うことばかりをよしとするのは、ちょっと危ないのではと思います。

 すでにあるレールに頼りきってしまうと、レールがなくなったときにどうすればいいかわからなくなってしまいそうじゃないですか。

 頼みの綱がそれしかないようでは、逆に心配なのでは。
 いまの日本は経済の停滞や人口減少などなど、不安な要素がたくさんありますよね。

 そんな状態の社会でよしとされているレールに乗っていて、安心な気分でいられるというのは、ちょっと危機感が足りないのかもしれません。

 頼るものを他にも築いておかないといけないんじゃないかということは、強く思います」


受験で「受かること」より「いま」に全力投球して

 なるほど、ではその言葉を受けて、これから自分の道を踏み出そうとする人へ向けてのアドバイスは?

「いままさに関心のあること、好きなことに打ち込むのが一番じゃないでしょうか。

 日本の教育制度に浸かっていると、どうしても『将来のため』という考えに縛られてしまいます。

 かつては僕もそうで、中学受験がすごくつらかったけれど、そのときは『中学受験すれば高校受験しなくて済むから』と周りにいわれました。

 でも高校受験はしなくても、結局は大学受験、就職とその先の目的が出てくる。

 すべてがその先の踏み台になっていて、何も残らない感じがしました。

 そうじゃなくて、中学生のときは中学生としてやることに全力を捧げればいいし、高校は大学の準備のためにあるわけじゃない、大学は就職のためにあるわけじゃない。

 目的意識を持つのはいいけれど、いまを大切にすることを忘れてはいけないと思います。

 そうした『いま』の積み重ねによって、自分というものがつくられていくのだと、僕は信じています」


*     *

ライター・山内宏泰 

主な著書に、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。


☆この連載はLINE NEWS「朝日こども新聞」(月、水、金 8:30配信)でも配信されています。LINEアプリ(news.line.me/about)をインストールして「朝日こども新聞」を検索! 
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