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よしおかちひろ『オーディンの舟葬』第1巻 戦狼vs白髪 激突する復讐鬼

 十一世紀初頭、ヴァイキングのヴァイキングの侵攻に揺れるイングランドを舞台に、ヴ愛する者を奪われた隻眼の少年・ルークがヴァイキングに壮絶な戦いを挑む、歴史バイオレンスアクションであります。二頭の狼を連れ、「戦狼(ヒルドルヴ)」と呼ばれることとなったルークの戦いの行方は……

 ヴァイキングの侵攻と、イングランド王家の報復の板挟みとなっていた北イングランドの小村で見つかった少年・ルーク――兄弟同然に育った二匹の狼と共に村の牛を襲っていたルークは、村の神父クロウリーに保護されることになります。
 慈愛に満ちたクロウリーの下で暮らし、村の人々と触れ合ううちに、人間性を取り戻していくルーク。しかし、イングランド王のヴァイキング虐殺の報復を命じられたヴァイキング・「白髪」のエイナルの軍勢が、村を襲います。

 深手を負ったクロウリーを助けようとするも、エイナルに眼前で彼の首を落とされ、自らも片目を潰されたルーク。
 それから十年、本格的な侵攻を始め、イングランド各地を制圧するデンマーク王・スヴェンの軍――しかし復讐に燃えるルークは白髪の男を求めてヴァイキングたちを次々に襲撃、壊滅させていくのでした。

 やがて二匹の狼を連れた隻眼の男――オーディンを彷彿とさせるその姿に、「戦狼(ヒルドルヴ)」と呼ばれるようになったルーク。その前に、ついに「白髪」のエイナルが現れることに……

 エンターテイメントの世界でも、様々な作品に登場してきたヴァイキング。北欧というルーツや、海を越える勇猛な戦士というイメージなど、大いにロマンをかき立てられる存在であり、こうして題材になるのも納得できるものがあります。
 とはいってもそれはあくまでもヴァイキング側に立っての見方――ヴァイキングの侵攻を受ける側としては、とてもロマンなどとは言っていられなかったことは間違いありません。

 本作はその侵攻を受けた側、つまりイングランド側の視点から描かれた、比較的珍しい作品であります。舞台は十一世紀初頭、「双叉髭王」の異名を持つデンマーク王・スヴェンがイングランドを掌中に収めた時代――その歴史の陰で繰り広げられた「戦狼」と呼ばれる男と「白髪」の男の激突を中心に、物語は展開していくことになります。

 異常な力を持つ主人公が、慈愛に満ちた人間に育てられることによって一度は人間らしさを得るも、その恩人を無惨に殺されて復讐鬼と化す――本作で描かれるのは、復讐ものの一つの定番パターンではありますが、この史実と重ね合わせることで、凄まじい迫力と臨場感を持って感じられます。
 そしてその復讐鬼たるルークが、ヴァイキングたちの主神というべきオーディンと擬えられる運命の皮肉も巧みであります。

 しかし本作のさらに巧みな点は、ルークの復讐のターゲットであるエイナルの存在でしょう。冒頭から憎むべき鬼畜ぶりが存分に描かれるエイナル――しかし詳しくは伏せますが、この巻の後半で描かれる彼の壮絶な過去は、実はエイナルとルークが、ある意味同質の存在であることを示すのです。
 もちろん、だからといって彼の所業が許容されるものではありません。しかし同質の存在だからこそ、エイナルとルークの激突は、血生臭さだけでなく、どこかやるせなさを感じさせるのであります。
(そして出自を考えると、彼はあるいは後の――という予想もできるのですが、そうするとこの先の物語は……)

 とはいえ、まだ復讐劇は始まったばかり。はたして復讐されるのは、復讐するのは誰なのか。そして舟葬――ヴァイキングにとっての名誉ある葬儀で送られるのは誰なのか。この先描かれる物語が気になります。


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