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ワーカーホリックな魔女の心臓を探す旅【第3話】


「そういえば、温泉の作り方、どこで知ったのですか?」


まるで天国のようだった温泉後のほっこりした余韻のまま、涼やかな風に当たりながら英雄魔女がどこからともなく出してくれた果実水を飲む。ああ、染み渡る。美味しい。幸せだ。


「うーん、作り方というか、昔ね、山に大穴を開けた時に、たまたま出来たことがあってね」

「山に大穴…」

「その何年か後、そこは今でも有名な温泉地になってたよ」


楽しげに笑っているけど、やっぱりこの方は偉大なる魔法使いなのだ。山に大穴を開けられる魔法使いはこの世界で唯一、この方しかいない。


「あの…魔女様は、どうして、何度も世界を救っているのですか?」

「……知りたい?」

「え、あの、教えてくれるのですか…?」

「聞いて、失望しないと、約束してくれるなら」

「失望だなんて!!ぜっっったいにしません!!」

「…なんで言い切れるの?」

「だって!どんな理由であろうとも、世界を救ってくれたことには変わりないですし、それに、私は感謝しているので!」

「感謝…?」

「はい、私は、どんな時代に生まれ変わっても、あなたがいてくれたから、例え短い生であっても安心して楽しく暮らせたのです!いつもいつでも、あなたの噂は、私の心を守ってくれていました」


そう、永遠にも感じるほど長く続いた戦争時も、人々を恐怖に陥れた謎の疫病蔓延時も、魔王復活による魔物大量発生時も、いつだって英雄魔女が救ってくれた。
それは、この世界できっと私だけが知っている事実で、私だけが抱いている気持ちだ。


「………君が、なんで何度も生まれ変わってるか、それは…僕のせいだって、知っても君は、感謝してくれる…?」

「…………え……?」

「一度目の僕は、誰よりも強く、そして誰よりも傲慢だった。
だから、ある時一人で倒せると思って油断してたら死にそうになって、君にーードラゴンだった君に、心臓を食わせたんだ」


まだ子どもだったドラゴンに心臓を食わせて契約させた。そのドラゴンは魔力を一気に契約者である魔女に取られ、苦しみながらヒト型になり、そのまま消滅した。
そしてそれと同時に、魔女も一度目の生が終わったのだと。


「君が、二度目の生を終えた時に、僕の心臓が戻って来る算段だった。でも、君は、何度も生まれ変わった。理由は分からなかった。これは僕の罪だと思った。
だから、この世界のどこかにいる君が、安心して生きていけるように闘うことは、ただの罪滅ぼしだった」


押し黙ってしまった私に、英雄魔女が戦々恐々としていたことには無論、私は気づかなかった。

どうしよう、この気持ちはどう表したらいいのだろう、だって、だってわたしって……


「ということは、私…ドラゴンになれるの…?」


嬉しい気持ちから声が上擦ってしまった。


「あー!もう!私、今、生まれて初めて、自分の忘れっぽさを恨んでいます!ほんっの少しもドラゴンだった頃の記憶を思い出せない!」

「……僕を、恨んでない?」

「いいえ!むしろありがたいと思っていますよ?だってさすがに長寿命のドラゴンでもこんなに永く生きられないでしょう?」

「それは…そうかもしれないけど…」

「それに!こんなに美味しい料理や、天国みたいな温泉を知らずに生涯を終えるなんて、考えられない!」

「…君は、」

「というか、心臓がなくても生きていられるって、どう考えても、意味がわからない!本当にあなたは、偉大なる魔法使いですね!」


ははは、と、泣き笑いする英雄魔女。


「…好奇心旺盛なのは、あの、無邪気な子どものドラゴンだった時と、同じだ」

「ええ、覚えてないですけど、子どものドラゴンとはいえ無理やり契約はできないと思うので、きっとドラゴンだった私は喜んで契約したと思うのですよ!うん、絶対にそうだと思います!」


その時のことを思い出したのか、随分と楽しそうに笑っている。


「あ!あの、もし私があなたに心臓を返したら、どうなるのでしょうか?」

「さあ…どうなるだろうね?僕にも、想像がつかない。ただ一つ分かるのは、もう二度と、生を繰り返すことがないってことかな」


まあ、私はそれでもいい。今までも、今の生涯も、大満足だから。
疲れたと言っていた英雄魔女だって、もう生を繰り返したくないのだろう。


「それなら、今のこの身体が死にそうになったら、心臓、返しましょうか?」

「…君は、それでいいの?」

「もちろんです!では、決まりですね!それまでに、たくさん美味しいものと温泉、見つけましょう!」


そう言って、旅の続きを約束したら、ついに英雄魔女は泣いてしまった。
嬉し涙だというそれに、二つの心臓が高鳴った。そんな気がした。


【第1話】https://note.com/mitami_ta/n/n17d25bc14eb7

【第2話】https://note.com/mitami_ta/n/nb0591ed9c781


以上、不思議な明晰夢を物語にしてみました。
夢はこんな終わりでしたが、旅は続きます!
ちなみに、英雄魔女は心臓がないので
二度目以降は不老不死だったり、
まだ主人公に言えてないこといろいろあったり、
なんやかんやありながらほのぼの旅します。

明晰夢をみているときは、
自分が登場人物の場合もあれば
俯瞰してみてる場合もあり、今回は後者です。
一番面白かった明晰夢は、魔法使いの使い魔?
みたいな昆虫だったとき。そう、虫。
なんか登場人物みんなデカいな~と思って
水溜りに反射してる自分見たら虫だったという…

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