戯曲『生前葬』

生前葬

登場人物

当麻(28)…新聞記者
東(34)…フリージャーナリスト
細谷…テレビ局女性記者
司会(25)…女性司会者
黒部明(52)…映画プロデューサー
長谷川孝二(45)…映画監督
谷崎愛人(22)…主演俳優 たにざきまなと
遠海静香(24)…主演女優
中谷蓮(21)…主演俳優
デモ隊の女…声のみ

◯会見会場・大ホール

東、並べられた記者用の椅子に座っている。当麻、会場に入る。

当麻「アレ、もしかして東さんじゃないですか?」

東「おお! え、当麻君だよね! 久しぶり」

当麻「お久しぶりです! えー急に辞めちゃうからビックリしましたよ、今個人でしたっけ? よくこの仕事取れましたね」

東「君が入社するより大分前にあそこを辞めて結構偉くなった人がいてね、おおっぴらじゃないけど仲良くさせて貰ってるんだ」

当麻「あー、島原さんですか? セコイですねー、東さんは何で辞めちゃったんですかー?」

東「んー、あんま君にこういう事言っても仕方ないんだけどさー、あそこのやり方がどうしても俺に合わなかったって言うのかなー、俺は俺のやり方で報道の仕事がしたかったっていうか……まあ要するに会社が家から遠かったからなんだけどさー」

当麻「……」

東「え、今来たんだよね? 外の方は見た?」

当麻「ええ、でもまだ集まってる様子は無かったですね」

東「やっぱり今からなんだろうな……アッほら始まるよ」

司会が壇上に上がる。

司会「報道陣の皆様、本日は映画『バーニングパイレーツ』の制作発表会見にお集まりいただき、ありがとうございます。映画『バーニングパイレーツ』は、2010年から『週刊少年ペダン』で連載中の、西野たかひろ先生による同名コミックを原作とした一大エンターテイメント作品となっております。それでは早速ご登場いただきましょう、プロデューサーの黒部明さん」

黒部が壇上に上がる。弱い拍手。

司会「監督の長谷川孝二さん」

長谷川が壇上に上がる。弱い拍手。

司会「主演の谷崎愛人さん」

谷崎が壇上に上がる。強い拍手。

司会「遠海静香さん」

遠海が壇上に上がる。強い拍手。

司会「中谷蓮さん」

中谷が壇上に上がる。弱い拍手。

司会「以上五名の方に来て頂きました。では黒部さんから順にコメントを頂きたいと思います。まず黒部さん、お願いします」

黒部「えー、どうも、プロデューサーの黒部です。えー、私自身この実写映画化の話が来た時点で原作の漫画を読んだ事が無かったので、まず自分が読む、という所から始めたんですが、そこで私が感じたこの漫画の魅力というのは、まず壮大な世界観ですよね、それから迫力のアクションシーンですね。この二つが大きな魅力だと感じました。ですので、この二つを実写で表現できる方に監督をお願いしたいと思いまして、長谷川監督にお声掛けした訳なんですね。まぁその目論見が成功したかどうかっていうのはぜひ劇場で確かめて欲しいという事で、本当にたくさんの方に見て頂きたい映画になってます。えー、よろしくお願いします」

黒部、頭を軽く下げる。弱い拍手。

司会「では続いて長谷川監督、お願いします」

長谷川「監督の長谷川です。このオファーを黒部さんからもらった時、原作コミックを読んだ事が無かったので、話をお受けした後で漫画喫茶で徹夜して読んだんですけど、その時のファーストインプレッションはやっぱり黒部さんと同じでストーリーのスケールとスピーディーなアクションシーンでしたね。ですからそれをどうやってリアリティーを持たせつつ実写のヴィジュアルに転換するのかっていうのがポイントだなぁと感じました。でもこうやって素晴らしいキャストとスタッフの方々に集まってもらって、アクションシーンはこだわってインストラクターの方にレクチャーをお願いしたりして、高いクオリティーの作品になってると思います。よろしくお願いします」

長谷川、頭を軽く下げる。薄い拍手。

司会「では続いて主演の方々、まず谷崎さんお願いします」

谷崎「えー今回、この……あ、バーニグ? パイレーツ、の、主人公の……えー、アンドリュー・ボットレル役をやらせて頂きます、谷崎愛人です」

強い拍手。

谷崎「えーと、今回お話を頂いてからマンガを読んだんですけど、戦う所とかがすごいかっこよくて面白かったです。でも今までアクションをやった事が無かったので、自分がこれをやるのかーって思ったらすごいプレッシャーで、でも今監督がおっしゃったように、事前に殺陣師のの方の指導もあって、何とか撮影を終える事ができました。ぜひ、沢山の方に、劇場で見て頂きたいと思います。はい」

強い拍手。

司会「続いて、遠海さんお願いします」

遠海「この度、このバーニングパイレーツで……」

遠海、隣の中谷に小声で何か聞く。中谷も小声で答える。

遠海「アマンダ・カトリーヌ役を演じさせて頂きました遠海静香です。お話を頂いた後原作の漫画を読み始めて……あ、今二巻の途中なんですけど、はい、面白いです、凄い。ご家族皆さんで見て頂けるような、原作を知らない方でも楽しめる作品になってると思うので、劇場に足を運んで頂けたら、嬉しいです」

強い拍手。

司会「では最後に中谷さん、お願いします」

中谷「えーロジャー・オースティン役の中谷蓮です! 僕はもう原作の漫画が週刊ペダンで連載が始まった時からの大ファンでして、自分が今回の実写版に出れるって決まった時は少しでも原作のイメージに近いお芝居をしなきゃって思って、鏡の前で仕草とかを真似したりして。あの、ロジャー・オースティンっていうキャラクターは主人公のアンドリュー・ボットレルと同じ宇宙海賊で、全宇宙を抑圧的に支配している帝国軍を倒すために活動をしているんですけど、二人は性格が正反対で度々衝突しながら成長していくんですよ。でも、帝国軍との決戦を前にしてロジャーが死んじゃうんですね。もうね、僕そこ当時読んでてメッチャ泣いたんですけど……あ、まあそういうシーンも含めて、実写でどう再現されているか、っていうのを楽しみにしてもらえたらと思います、よろしくお願いします!」

司会「……はぁい! ありがとうございましたぁ! それではですね、貴重なお話が聞けた所で今度はお集まり頂いた報道陣の方々の質疑応答に移りたいと思います。記者の方々、何か質問ございますでしょうか?」

当麻、挙手。

司会「はい、ではそちらの方」

当麻「週刊慶北です、えー、黒部プロデューサーにお聞きしたいんですが、黒部さんと監督はお二人とも先ほど原作漫画の魅力はアクションシーンで、それを実写で再現する事に注力したいというような事を仰っていたと思うんですが、原作ファンの間でもう一つの大きな魅力とされているストーリー面については何かありますでしょうか」

黒部「あーそうですねー、えー、もちろん、その、今仰った、えーストーリー面でも、原作からさらに面白くなるような要素を加えていってですね、えー、小さいお子様からご年配の方まで、また、男性も女性も楽しめるような作品にしていきたい、と思っております。えーと、泣けるシーンがタップリあるんで期待してて下さい。ハイ」

当麻「ありがとうございました。」

司会「他にご質問ある方いらっしゃいますでしょうかー」

東、挙手。

司会「はい、ではそちらの方」

東「プロデューサーにお聞きしたいんですが、今の長谷川監督の前に大森元太監督がこの映画を撮るという発表があったと思うんですが、こうして監督が交代した事について公式な発表が何も無いのはどういう事なのか、説明をして頂けたらと思うんですが」

当麻「ちょっと東さん何聞いてんですか、干されますよ」

東「よく見ておけ当麻君、これがフリーの強みというものだ」

黒部「えー、その件に関してなんですが、大森監督が降板に至った経緯について、監督本人とこちら側の双方に認識の相違があり、現在、事実関係を確認中ですので、コメントは差し控えさせて頂きます。……それから、君、会社はどこ?」

東「あ、自分はフリージャーナリストの東といいます」

黒部「あー君が島原君の……とりあえず明日からは今までと同じような活動はできないと思った方が良いよ。はい次の質問どうぞ」

司会「あ、誰かご質問ございますでしょうかー?……」

細谷、挙手。

司会「あ、ではそちらの方」

細谷「えーSTVの細谷と申します。えー、出演者の皆さんにお聞きしたいんですが、この映画『バーニングパイレーツ』はタイトル通り海賊がテーマの映画という事で、出演者の方々の中で一番海賊に向いてそうな人は誰ですかね……?」

しばし戸惑った後、沈黙する主演三人。

中谷「え、な、何でしたっけ」

細谷「三人の中で海賊に向いてそうなのは……」

中谷「あー、誰でしょうね? 海賊……何だろう、あ、凄い、お酒に強いんで、遠海さん、ですかね……」

会場沈黙。遠海、中谷を睨む。

中谷「あの、こんなんでいいですか、すみません」

細谷「あ、はい。ありがとうございました。撮影現場の楽しいフインキが伝わってきました」

東「へ、くだらねぇ質問」

当麻「ああいうのが普通なんですよ、東さん干されちゃますよいいんですか」

東「……その時はまたそっちで雇ってくれますか」

当麻「職場が遠くて辞めたんでしょう? 嫌ですよ」

東「じゃあこういうのもこれで最後か……もうそろそろ始まる頃かな」

当麻「そうですね」

司会「では他にご質問ございますでしょうか……あ、ではそちらの」

外からメガホンを通したデモ隊の女の声が聞こえ、女の群衆の声が続く。

デモ隊の女(声)「実写版バーニングパイレーツの公開を中止しろ!」

女の群衆(声)「中止しろ!」

司会「えっ」

黒部「だから警備つけろって言ったのに……」

当麻「おー凄いですねいつの間にあんな集まったんだ、千人はいますよ」

東「こういう時の集団の力は恐ろしいからな、会見が始まってから今までの僅かな時間に集まるような打ち合わせがしてあったんだろう」

司会「えー会場の皆様しばらくお待ち下さい、ただ今……」

長谷川「いいや、会見は皆さんで続けていて下さい。あの人達に帰ってもらうように僕が話をつけてきます」

司会「監督?」

長谷川「このプロジェクトがどういうヴィジョンを持って生まれ、どんなプロセスを経て今のキャスト、スタッフ、シナリオになったのか。ちゃんと伝えればあの人達も納得してくれるはずです。大丈夫、彼らも人間なんだ」

黒部「一人じゃ危ないから私も行きますよ」

長谷川と黒部ハケる。

司会「えー、では監督の言った通り会見を続けますが……あ、では先程のそちらの方……」

群衆の怒号が飛び交う。長谷川と黒部の叫び声が聞こえる。二人の叫び声が悲鳴に変わる。

◯会見会場・中ホール

当麻、会場に入り並べられた椅子の中の一つに座る。

当麻「やっぱり東さんは来てないか……しっかし前と比べて人減ったなぁ」

司会「報道陣の皆様、本日は映画『バーニングパイレーツ』の制作発表会見にお集まりいただき、ありがとうございます。それでは早速ご登場いただきましょう、プロデューサーの黒部明さん」

黒部が壇上に上がる。拍手は無い。

司会「監督の長谷川孝二さん」

長谷川が壇上に上がる。拍手は無い。

司会「主演の中谷蓮さん」

中谷が壇上に上がる。弱い拍手。

司会「以上三名の方に来て頂きました。では黒部さんから順にコメントを頂きたいと思います。黒部さん、お願いします」

黒部「えー、五ヶ月前にも制作発表会見をしたんですが、それから様々な問題があり、公開がこうして大幅に遅れている事について、関係者の皆様、そして映画の公開を待っている皆様に、深くお詫び申し上げます。必ず作品、それも見て下さった方に納得して頂けるような作品を完成させるので我々にもう少しだけ時間を下さい。よろしくお願いします」

黒部、頭を下げる。

司会「続いて長谷川監督、お願いします」

長谷川「(前より明らかに小声で)えー、五ヶ月前の段階で撮影の半分程が完了していたんですが、あの時私が、えー、沢山の人、の前に出て行って、まぁ、何と言うかケガをしてしまいまして……その治療をしている間に他の監督に撮影を引き継げれば良かったんですが誰も引き受けてくれず、結局回復を待ってまた私が撮影を再開する事になったんですが、撮影が止まってる間も宣伝費とかスタッフとかセットの維持費とかで少しずつ予算は減ってくんで本来の予定より低予算で撮れるようにって事で、再開するにあたって話の展開をこう、若干、変えたんですが……まぁ早い話がアクションシーンを無くしたんですが、その分……原作にないオリジナルエピソードとかを大幅に追加して……」

長谷川、怯えた顔で黒部を見る。黒部、無言で頷く。

長谷川「……人間ドラマとしての面白さをより強めたものになってますんで、えーお待たせしてますが是非、見て下さい。よろしくお願いします」

司会「監督雰囲気変わりました?」

長谷川「いえ、別に……」

司会「そうですか、では続いて中谷さん、お願いします」

中谷「どうもー! 谷崎さんも遠海さんも忙しいので僕だけ来ましたー! よろしくお願いしまーす! 二人は売れっ子なんで、今は隣の大ホールで別の映画の試写会に出てます……」

黒部「ハハハ、良いんだよそういう事言わなくて。それよりこの映画の話しなきゃホラ」

中谷「監督が仰ったように、撮影再開に際して、原作に無いオリジナルエピソードを多数追加して……原作を知らない方にも……楽しめるように……」

黒部「ハハハ、いやーこいつ原作が好きだったから話が変わった事がちょっとショックなんですよ。な!」

中谷「谷崎さんも遠海さんもあんなに色々出てるのに僕は何でこんな映」

黒部「まあ撮影が終わる頃には元気になってると思うんで、そんな気にしないで下さい」

中谷、項垂れる。

司会「ありがとうございました。では続いて質疑応答に移りたいと思います。何かご質問がある方……」

当麻「仕事しなきゃ……」

当麻、挙手。

司会「はいではそちらの方」

当麻「えー、明協新聞の当麻です。長谷川監督にお聞きしたいんですが、撮影中の面白いエピソードなどありましたら教えて下さい」

長谷川「そうですねー、さっき言ったように撮影の中断によって台本からアクションシーンを全カットしたんですが、それにあたって初日の昼……退院した次の日に元々指導してもらう予定だった殺陣師の方に謝罪に行ったんですよ、そりゃそうですよね仕事キャンセルしちゃったんですから。そしたら先方がスゲェ怒ってらして……スゲェ蹴られたりして。何ならあの時ケガして治りたての所ピンポイントで蹴られたりして……何でどこケガしたかとか知ってんでしょうね……まあとにかくスゲェ大変だったですよ。はい」

当麻「ありがとうございます……あの、お大事に」

長谷川、中谷と同じ態勢で項垂れる。

司会「他にご質問のある方ー、はいではそちらの方」

東「フリーの東です。映画の撮影期間の延期により、谷崎愛人さんと遠海静香さんの出演中止の可能性が出ているという報道が出ていますが事実ですか」

当麻「! しぶといなあの人」

黒部「ええ、確かに二人は多忙ですから当初の予定に無い追加の撮影は極めて難しい状況にあります。現在、二人の所属事務所であるザムプロとも協議を重ねて、何とかスケジュールに空きを作ってもらっている所ですので……それ以上の事は何も」

東「ありがとうございます」

黒部「それと君、よくまた来れたね。島原さんの方からもうデカい取材は出来ないようにしてもらったはずだけど」

東「ええ。だからこんな仕事しか来ないんです」

黒部「……」

黒部、中谷・長谷川と同じ体勢で項垂れる。

司会「では以上で会見の方終了とさせていただきます、本日はお集まりいただきありがとうございました」

当麻と東、席を立つ。

当麻「あ、東さん」

東「おお」

当麻「今日は過激な原作ファンの集会も無かったですね」

東「もう誰も注目して無いって事だ。こうやって茶々を入れに来るマスコミも減ったし……そう言えば俺はともかく何でお前までこんな所に」

当麻「そりゃあ仕事ができる奴は隣行ってますから」

◯会見会場・小ホール

東、レジャーシートを敷いて床に座っている。当麻、会場に入り東の隣にレジャーシートを敷き座る。

当麻「あ、ども、こないだはご馳走様でした」

東「おお、いや、いいってあれくらい」

当麻「あのこれ、一応、お礼というか……」

当麻、東にさきいかを渡す。

東「え、いいの貰っちゃって」

当麻「はい、本当ナゲット美味しかったんで」

東「えーむしろこんな高級な……じゃああの、有り難く頂くわ」

当麻「どうぞ……そう言えばここ来るまでに結構人いましたけど、あっちの方ですかね」

東「だろうね、まさかこっちじゃないでしょ。あ」

黒部と長谷川が登壇する。当麻と東の拍手。

黒部「えー皆様、この度はドラマCD『バニシング・バイヤーズ』発売記念イベントにお越し下さいまして、誠にありがとうございます。えーここに至るまでに色んな事がありました……最初、まぁ、ある映画を撮ってまして、ちょっと名前は出せないんですけども、とにかくその映画の撮影が諸事情で中断したんですね。そうするとさらに色んな事情が重なって、映画の話自体がポシャってしまったんですね。もう、何とか我々が活動していた証を残したいと思って、その、映画用の脚本から我々が書いた部分を抜き出して、それをもとにドラマCDとして再構成した作品がこの『バニシング・バイヤーズ』なんですね。えー、我々の執念が詰まった作品ですので、是非、お手に取って頂きたいと思います。よろしくお願いしまーす。じゃ、次、監督、何か」

長谷川「えーどうも、監督の長谷川です。とにかくこの作品はローコストで制作する事を目標にしまして、ヴォイスアクターには主役含め全員専門学校の学生さんを起用しまして。脇役なんかは僕ら二人も演じたりして。レコーディングも事務所の会議室で僕のスマートフォンをマイク代わりにして二時間くらいで全部やって。何とか黒部さんと僕の方で用意した予算内で完成させる事ができました。そういった、僕らの努力が詰まった作品になってるので、ぜひよろしくお願いします」

黒部「では続いて……質疑応答なんですが、お二人、何かありますか」

当麻と東、顔を見合わせる。

東「……」

当麻「もう何も無いんですか?」

東「うん、無い」

黒部「無いようなので、最後にですね、ここまでお付き合い頂いたお二人にささやかな感謝の気持ちを……」

長谷川、舞台袖からビニール袋を持って来て、中から缶ビール四本を取り出し、うち二本を舞台から降りて当麻と東に渡す。

東「え、いいんですかこんな貴重なものを」

長谷川「どうぞどうぞ。どうせ我々とあなた方の四人しか居ないんですから、気楽に……」

東「ありがとうございます……あ、そうだ、なあアレ」

当麻「あ! そうですね」

東、当麻から渡されたさきいかを取り出す。

東「これ皆で食べませんか」

長谷川「え、いいんですか」

当麻「どうぞ」

長谷川「いやでもこんな貴重な……」

当麻「こっちだってこんな凄い物頂いちゃってるんですから、ホラ食べましょう」

四人、缶ビールとさきいかを開け乾杯。談笑しつつ飲み食いする。隣のBホールから声が聞こえる。

黒部「そういえば隣は何やってんですかね、人がいっぱい居ましたけど」

当麻「あっ……」

司会(声)「報道陣の皆様、本日は舞台『バーニングパイレーツ』の制作発表会見にお集まりいただき、ありがとうございます。舞台『バーニングパイレーツ』は2010年から『週刊少年ペダン』で連載され、今年の三月に完結した西野たかひろ先生による同名コミックを原作とした一大ヒューマンドラマとなっております。それでは早速ご登場いただきましょう、監督の大森元太さん……プロデューサー、脚本、主演の中谷蓮さん……以上お二人に来て頂きました。ではまず中谷さんからコメントを頂きたいと思います。お願いします」

中谷(声)「えー、プロデュース、脚本、主演を担当しました中谷です。皆さんご存知の通り一度実写映画化の話が流れてしまった『バーニングパイレーツ』ですが、今度はこうして舞台作品として、再び企画がスタートした事、そしてその主演に留まらず、プロデュースと脚本でも作品に携われた事を、本当に……光栄に思っています。えー……脚本に関してなんですが、原作者の西野たかひろ先生との打ち合わせの際にですね、先生がですね、どうせコケるんだから漫画と全然違う話にしてくれ、とこういう風に仰られまして、えー、大変心苦しい所ではあるんですが、先生のご意志を継ぎましてですね、ワタクシと大森監督の方で、設定、登場人物、ストーリー……等をですね、まあ大幅に変更し……」

デモ隊の女(声)「舞台版バーニングパイレーツの公演を中止しろ!」

女の群衆(声)「中止しろ!」

(終)

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