見出し画像

【抗議】イエス・2016年の来日公演のセットリストについて

 6年前のことである。
 イエスは2016年、以前から続けていた「アルバム完全再現ライブ」シリーズの一環として、それまでの「こわれもの」に加え、「Drama」の全曲演奏を目玉としたツアーをスタートさせた。
 「Drama」は神アルバムなので、私はこれを聞いて大いに興奮した。
 このまま来日してくれたら、「『Drama』全曲ライブ」を見ることができるかもしれない、と。
 途中で「こわれもの」が「『海洋地形学の物語』の1曲目と4曲目」と入れ替わった後も、私は来日公演決定の報を待ち続けた。そして、ついにその時がやってきたのだ。

 イエスの来日公演が11月に決定、『海洋地形学の物語』『イエスソングス』をフィーチャー

 「は?」である。

 確かに、リアルタイム世代ではない私でも、「Drama」が一部の古くからのファンに敬遠されていることは知っている。だから、集客のためにセットリストを変更するというのは、一見すると理解できる判断と思えるかもしれない。

 しかし。

 「Drama」を敬遠する人々は、その理由について聞かれると、口を揃えて以下の定型文を発する。

 「ジョン・アンダーソンがいないイエスはイエスじゃないから」と。

 そう。曲が良いとか悪いとか、そういう内容の問題以前に、彼らは個人の信条の問題で「Drama」を敬遠しているのだ(逆に「アンダーソンがいないとイエスじゃないとは全く思わないが、それはそれとして『Drama』は曲が良くないので好きじゃない」という人は私は見たことがない。もしいたら煽りとかじゃなくご一報ください)。
 別に、そういう信条の人がいるのは私は構わない。問題は日本の呼び屋さんの方で、彼らは当たり前かつ決定的な、ある事実を見落としている。
 
 「ジョン・アンダーソンがいないイエスはイエスじゃない」という考えの人は、そもそもアンダーソンがいない現行イエスがどんな曲をやろうがライブに行くわけがないではないか。

 なぜ「アンダーソンがいないイエスはイエスじゃないが、それはそれとして、アンダーソンがいない現行イエスでもアンダーソン在籍時代の曲をやるなら見に行く」という、想像上の架空の客層に配慮し、「『Drama』の曲が聞きたい」という(少なくともここに一人は)現実に存在する客層がその割を食わなければいけないのか。

 逆に、アンダーソンがいなくてもイエスを見に行く今のお客さんにとって、「Drama」は絶好の出し物になったと思うのだ。
 だから私は「自分の好きなアルバムをやってくれないなんてヤだ!」というワガママを言っているわけではない。というと嘘になるが、ビジネスの観点からしても、客観的事実に基づいて、「Drama」の全曲演奏をやってもらうべきだったと思うのだ。
 なのに、だのに、なぜ「Drama」が不人気なのかという、その理由を考慮することなく、「『Drama』は人気が無いから来日公演だけ別の曲をやってもらおう」と、何となくのイメージだけで決定した呼び屋さんの判断は、申し訳ないが言い方を選ばなければ愚行だったと言わざるを得ない。ついでに言えば、「Drama」の代わりに入れられた「『イエスソングス』からのベスト・セレクション」という文面、要するにいつもの定番曲なのだが、それをさも「昨今のアルバム完全再現ライブシリーズの一環としてやります」みたいな顔をして宣伝するそのやり口が、言葉のアヤが、私は気に食わない。

 ちなみに、「『Drama』が不人気なので来日公演だけ別の曲をやってもらうように呼び屋からイエスに打診した」というのは(多分合ってるとは思うんですが)私の想像の中で作られた話なので、もし当事者の中で違うという方がいたら教えてください。土下座して謝るので訴えるのだけは勘弁してください。

 この来日情報が発表された当初、私は心底失望した。チケット取らなくていいやと思った。しかし、しばらくしてからやっぱり行こうと思ったのは、当時、唯一のオリジナルメンバーだったクリス・スクワイアが亡くなり、ビリー・シャーウッドに交代したことで発生した「クリスがいないとイエスじゃない」派の人だと思われたくなかったからである。別にライブに行くかどうかを誰かに公言しているわけではないので、そんなことを私に対して思う人など存在しないのだが、「クリスがいないとイエスじゃない」というのがその人にとっての信条であるように、「今のイエスを応援したい」というのが私の信条だったのだ(あと、これで売り上げが悪かった時に、呼び屋さんが「クリスがいないから売れないんだな」と的外れな勘違いをすると困るので)。チケットはダダ余りだったので、販売開始からしばらく経っていたが普通に買うことができた。 
 しかし、不満を持ったのは私だけではなかったようで、さらにしばらく経ってから「Drama」からも一部の曲を追加で演奏することが発表された。そんな中途半端なことで「やった判定」になったら、今後未来永劫日本で「Drama」の全曲演奏がされなくなるんじゃないかと思って、正直やめて欲しかった。さらに「『海洋地形学の物語』『ドラマ』の曲は今後一切演奏するつもりがない。来場のお客様にはぜひ楽しんでほしい」というスティーヴ・ハウの誰かに言えと言われて言ったような公式声明文まで発表された。呼び屋さんは焦っているようだった(なお日本からの帰国後、その後のライブで「『海洋地形学の物語』『ドラマ』の曲」が当たり前のように演奏されると、声明文の掲載されたページは削除された)。

 実際にライブで演奏された「Drama」からの曲は、大方の予想通り人気曲の「Machine Messiah」と「Tempus Fugit」の2曲と、短くて演奏しやすそうな「White Car」という組み合わせだった。ぶっちゃけ何だかんだ言ってライブは楽しかったが、私が特に聞きたかった「Into The Lens」と「Does It Really Happen?」の2曲は(「Run Through The Light」もだが)聞けなかった。だから約2年後の来日公演で「Does It Really Happen?」をやってくれたのは嬉しかったが、特に聞きたかった2曲の中でも、より聞きたかった「Into The Lens」の方は、ついぞ聞くことができなかった

 あれから6年の間に、アンダーソンがいない現行イエスの地道な活動、「Drama」時代の編成を疑似的に再現した「Fly From Here - Return Trip」の発売、過去の作品を公平な耳で聞く後追い世代の増加(そういう意味では、私は現行イエスに過剰な思い入れを持ち、公平な耳で聞いていない、という自覚はあります)など、さまざまな要因で「Drama」は再評価されつつある気がする(というか2016年当時だって充分再評価されてたように思う)。何とか、「Drama」全曲演奏ライブが再び開催されるよう祈るばかりである。まあ無いと思うけどな!(「危機」全曲演奏で3回も来日してるんだから、あと1回くらい良いじゃんね。)



 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?