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エリアリノベーションの処方箋


1 はじめに

 1998年から2023年の20年間で日本の空き家は1.9倍(182万戸→349万戸)に増加しており、空き家問題は看過できない深刻な社会問題となってきた。これを受けて国は2023年に従来の空き家関連法を改正し、空き家対策の強化を図っている。
 こうした状況を受けて、2024年1月21日名古屋都市センターにて、日本建築学会東海支部都市計画委員会主催で「空き家法改正2023-空き家からエリアリノベーションへ」と題した講演会が開催された。筆者・三矢は、各種の事例報告後に開催されたパネルディスカッションのモデレーターを務めた。当日の議論の終わりに発言した総括コメントを備忘録的に残しておく。
 なお、事例報告では、①空き家法改正2023の概要、②兵庫県の空き家特区制度の紹介(兵庫県での経験が今回の法改正のひな型となっている)、③富山県高岡市のエリアリノベ事例、④空き家活用まちづくりの多様なパターン紹介、⑤行政主導の都市整備と連携した民間主導リノベ事例(岡崎市)、があった。詳細は、註1を参照のこと。

2 3つのキーワード

(1)新しい制度に振り回されてはいけない

 今回の法改正により、市町村は特定のまちづくり会社を「空家等管理活用支援法人」として指定することが可能となり、これに指定されたまちづくり会社は、空家関連情報の収集(行政からの情報共有)や相談体制の構築、調査業務、所有者との調整、活用方針の立案などを、行政の代わりに推進することが可能となる(資金的手当てを行政から受けることが可能)。
 しかし例えば、今回登壇したエリアリノベーションの実践者らに三矢から「ちなみに皆さんは活用支援法人に指定してもらいたいですか?」と問いかけたところ「指定されていないが、既に実態として支援法人相当のことはやっているので、改めて指定してもらうことにメリットは感じない」「現状、行政を介在せずにエリアリノベーションを進めており、行政が介在しないからこそ上手くやれている面もあるので(柔軟で迅速な対応)」「今回の制度ではNPO法人や社団法人が主な担い手として想定されているが、仮にその法人格でエリアリノベーションの実務を進めようとすると、金融機関からの融資が受けられなくなるリスクがある(現状は、株式会社だから融資が受けられている)」といった指摘が相次いだ。
 もちろん、今回の制度に乗せて運用した方がよい場合もあると想定されるが、新しい制度ができたからといって、それが最も適切な進め方ではないことがあることも織り込んだうえで(この制度を使わない、この制度の外で実務を進める)、つまり「新しい制度を使うのも一つの選択肢」くらいの心構えで、エリアリノベーションと向き合う必要がある。

(2)既存組織と連携した空き家の発生予防

 空家等対策の推進に関する特別措置法は2015年に施行され、今回2023年に改正された。2015年時点では「特定空き家」という、空き家として放置され、倒壊の危険性など地域社会に悪影響をもたらす建物を特定し、行政代執行を含めて除却するためのルールが整備された。2023年の改正では「管理不全空き家」という、特定空き家になってしまう危険性のある建物を特定し、特定空き家になることを予防する(適切な建物管理をしない所有者を罰する、税の減免措置を解除する等)ことが可能となった。行政の取り組みとしては前進しているが、今回のパネルディスカッションでは「空き家になってしまってからでは遅い、空き家になる前の対策が重要」との指摘があった。
 例えば、町内会組織や地元の不動産事業者等の既存組織と連携して「あそこの建物が空きそうだ」「あそこのお宅は独居老人、老々世帯で空き家予備軍だ」といった、空き家になる前兆を捉える仕組みをつくることが重要だ。その前兆を捉えてエリアビジョンを作ることがエリアリノベーションの要諦であることが確認された。つまり、エリアリノベーションの前提にはエリアマネジメントの基盤を構築することが肝要である。

(3)家守会社を軸にエリアの価値を高める

 日本においては古来(江戸時代)、「家守」と呼ばれる職業があった。家守は土地建物のオーナー(家主)に代わって、店子(住民として入居する人、お店を営む人)のマネジメント全般を請け負う。家賃徴収はもちろん、住民同士のトラブル調停、商売繁盛のサポートなど、そこに暮らす人、商売をする人に寄り添い、良好な住環境、商売環境を整えるのが役割である(家主から給料をもらって家守業を営む)。
 今回、民間の立場で登壇いただいた方々は、現代版家守の実践者といえよう。現代版家守は、家主から物件を一括で借り受け、借り受けた物件をサブリースして、住民や事業者のリーシングを行うことが多い。となるとそこには家守業を営むにあたっての経営術が必要であることもわかった(7,8年程度で投資回収をデザインする、特定エリア内に10軒+αくらいの物件をもたないと経営的にもきつい)。しかし、そうした家守会社の資金循環のやりくりに加えて、エリアリノベーションを展開するエリア内の家主、土地建物のオーナーの皆さんとビジョンを共有することが最も重要であり、そこには「自分の敷地にとどまらない、エリア(街区など)単位で、価値を高める(空き地や空き家を活用して、エリア全体として魅力向上、コンテンツ充実を図る)という、考え方の共有が必要である。
 これは新しい常識をつくること、文化を育むことであり、そこに向けた教育コンテンツの拡充が重要となる。そこに向かっては、家守会社の方々を中軸としつつも、行政の役割も重要であり、ひいては建築学会のような学術団体の活躍も期待される。

3 まとめ

 以上3点の小タイトルの頭文字に注目すると「新しい制度・・の“あ”」「既存組織と・・の“き”」「家守会社を・・の“や”」となっており、どういうわけか縦に読むと「あ・き・や」となっていることに気づく。こうした「あ・き・や」方式をもって、創造的空き家対策を進めていこう!

【註釈】
註1:日本建築学会東海支部都市計画委員会のHP

※冒頭の図は、UnsplashAndrew Neelが撮影した写真です。

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