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「チムニーズ館の秘密」~ クリスティー・プロジェクト その5

 マイ「クリスティー・プロジェクト」の第5弾は「チムニーズ館の秘密」(1925年)。昨年11月に読了してドラマも視ていたのだが、今回の執筆にあたりもう一度読み返そうかと迷った末、結局止めてしまった。読まれた方はおわかりと思うが本作品、あまりにも登場人物と事件が多すぎて、もう、わけがわからなくなりそうなんです。かくして本作を「クリスティーのガチャ・ミス」と命名。アガサは出来栄えに満足していたのだろうか。

 というわけで、今回はすぐドラマに突入です。「アガサ・クリスティー ミス・マープル」(2010年・英国グラナダテレビ)のシーズン5の第2話。原作はノン・シリーズなのだが、なぜかミス・マープルが活躍するドラマとして製作されている。 

 なんたって原作が「ガチャ・ミス」なので、これを任された脚本家はさぞかし頭を抱えたことであろう。90分に収めるためか、国際的陰謀だのフランスの大泥棒の話などをカットしたのはよいが、原作では主役級の「快男児」アンソニー(ドラマではアントニー)・ケイド(演 ジョナス・アームストロング)の冒頭からの活躍ぶり(なかなか読ませます)がすっぽり抜けてしてしまったおかげで、ヒロインが最後に選んだ男性があまりかしこそうに見えない、ただのダメンズに。いつも愛読している「旅行鞄にクリスティ」のブロガーさんは「登場人物の誰にも共感できない」と言われるが、原作未読でドラマだけ視聴されたのでは無理もないのです。ドラマでは、扱う犯罪(犯人)をしぼり、一貫した説明がつくようにしたのだが、「こんなエピソード、原作にあったっけ ?」ところどころ首をひねりたくなるような挿話が多く加わることに。結局、犯罪動機も実に陳腐なものになってしまった。

 映像はとても美しい。「国際政治上の密談場所として歴史的に重要な役割を果たしてきた」チムニーズ館は、ところどころ雨漏りをしたり、調度品を売り払われてスカスカになったりしながらも風格を保ってきた。その様子が映像化によってよくうかがえる。「チムニーズ」館というだけあってたくさんの煙突(原作ではどんな煙突なのかと想像していた)が屋根にニョキニョキ立っており、ドラマの筋立てにも一役買っている。

 演者は、先述のアントニーを始めとしたヒロインをめぐる男たちはパッとしないが、他は概ね良い俳優ばかり。ヒロインのヴァージニア(シャーロット・ソルト)はとても美人さん。彼女が最後のシーンで着ていた花柄のワンピースはもろ私の好みで、ひと昔前にローラ・アシュレイなどで似たような柄をよく買っていたことを思い出す。チムニーズ館の主ケイタラム卿を演じたのはエドワード・フォックスで、エリザベス・テーラー主演の「クリスタル殺人事件」でリズ演じる名女優マリーナの大ファンの設定のクラドック警部役であった。ケイタラム卿の姉娘のバンドル(ダーブラ・カーワン)もさっぱりして良い感じ。最初に殺されるキー・パーソンのルートヴィヒ・フォン・シュタイナッハ伯爵(舌かみそう・笑)は知的なイケメンおじさま(アンソニー・ヒギンズ)。チムニーズ館を入手したがっている、堂々たる体躯だが美人のヒルダ・ブレンキンソツプもキャラが立っている。原作ではバトル警視になっている役を奪って登場した「捜査権を持つ哲学者」フィンチ警部(スティーブン・ディレイン)はとてもユニークなキャラだが、なぜここに出てきたのか今一つ意味不明。シリーズではその後にも登場するのだろうか。もっと合わないのがミス・マープルで、もともとジュリア・マッケンジー演じるマープルが苦手なせいもあるが、浮き上がっている観がある。この探偵役を原作どおりにアンソニーが担っていれば名誉回復だったのだが、残念でした。こうして見ると、ドラマもやっぱり人物多すぎである。

 なお、見つかったダイヤモンドはずいぶん無造作に扱われているが、そこはダイヤだから傷ついたりはしないのだろうか。宝石にあまり興味のない私からみると、大きいダイヤなんて逆に品がないと思うけど・・しょせん小さいものしか見たことがないからだろうか。

 この作品の続編と言われる「七つの時計」は未読だが、このシリーズの中でのドラマ化はないようである。本シリーズではチムニーズ館とケイタラム卿を退場させているので、再度取り上げるのは難しかったのかもしれない。あの煙突、ちょっともったいなかったね。

 さて、お次は・・おお、「アクロイド殺し」 ! 頑張ろう。                                         (1880字)