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【携帯詩】命の灰

僕はある種の靄の中に在る
固定化された、記憶の、回廊……
僕はその中で羽根ペンを取り出し
確立された人類の負債のために
僕自身の遺書を認める
それは以下のような(畏れ多く、かつ傲慢な、何も知らない最後の人間のさらにその末裔の)断片-手帖だ。
「僕は世界=COVID-19以前に百日咳に罹り、フクシマ=3.11以前に大学紛争に明け暮れ、ニューヨーク=エンパイア・ステート・ビルディング以前に右手の掌に托鉢印を受け、メトロポリス=地下鉄事件以前に世界を三度に渡って横断-旅行し、ベルリン=冷戦時代の終結以前にガンジーの夢の元へ還った諸存在の戯れである」

確かに僕は偉大なる大地に根付いている、
過去の累積が僕の細胞の隅々に表現されている、
しかし浮遊する・花咲く天使たちのように
影なる地球に対して一抹の幻滅を感覚している
シフォンの軛をかち割って、中から溢れる泡銭を未来の讃歌のために貯蓄する
それはなんと浅ましい愉悦であることか!
僕の左手は爛れ、腐肉と化し、
そこから黄金の卵を取り出すだろう
それは21世紀の詩人全てが命運を賭けた
輝ける賽の一振りの重みに違いない
僕はその重力に潰される、ただ、
生き残りの末裔として断片-手帳を灰の中へ放り投げた、
灰は散った、
灰は命の中へと消え去った

セリーヌ、カフカ、アルトー、大家健三郎、そしてカフカとブランショのように。