上司のハラスメントは認められず損害賠償請求、処分に基づく未払い賃金請求も否定された例(平成27年8月25日東京地裁)
概要
被告B社(出版社である被告A社の子会社)に勤務し、書籍の企画・編集業務を担当していた原告が、上司らからハラスメントを受けたとして、被告らに対し、不法行為ないし使用者責任及び職場環境配慮義務違反に基づき、その被った損害の賠償等の支払いを求め、また、被告B社に対し、10日間の出勤停止処分が無効であるとして、その間の賃金等の支払いを求め、さらに、総務経理部への配転命令が無効であるとして、配転先に勤務する雇用契約上の義務のないことの確認及び配転により不支給となった編集手当等の支払いを求めた。
結論
棄却
判旨
従業員が主張する上司らの従業員に対するハラスメントの言動は,これを認めるに足りないか,あるいは,業務上の指導の範囲を超えた違法なものと認めることはできないものであるから,従業員の請求は理由がない。
従業員の各行為の結果,当初平成25年4月10日に発売予定であった書籍の発売が延期となり,講談社の販売部が取次ぎ及び書店に発売事前通告をし,予約注文を開始していたにもかかわらず,これをいったん取り消すという通知を出す事態となったことが認められ,従業員の諸行為は,就業規則所定の「故意に業務の能率を阻害し,または業務の遂行を阻害したとき」等に該当する上,著者の事務所に不信感を与え,エディトリアル(編集部、以下同じ)からの業務指示を無視して業務を行ったものであるから,就業規則所定の「正当な理由がなく,会社が定めた諸規則,指示を守らなかったとき」にも該当し,従業員に対する本件出勤停止処分は,これまでの従業員の過去の行為に照らしても,社会通念上相当であり,有効と認められる。
書籍の企画編集において,従業員が企画を実現させるべく書籍の買取りにつき,相手方と交渉せず,エディトリアルに対して虚偽の報告をしていることが認められ,その結果として書籍刊行は中止となったものであり,エディトリアルが,本件出勤停止処分に係る事実及びそれに至るまでの事実を併せ考慮して,これ以上,従業員を編集業務に就かせることは不可能と判断し,本件配転命令をしたことには相応の合理性があり,従業員が指摘する,編集者や総務・経理担当者の従業員数,エディトリアルの業務形態や財務状況等を考慮しても,業務上の必要性は認められ,従業員の異動に際して,職位の引下げはなく,従前と同じく担当部長の地位にあること,支給されなくなる編集手当は8万円と相応に高額であるが,編集手当は編集業務を行うことに基づく性質のものであること等を考慮すると,本件配転命令によって従業員が被る不利益は大きいとはいえず,個人らのパワハラ行為はこれを認めることはできず,不当な動機・目的に基づくものとは認められないから,エディトリアルの人事権の範囲を逸脱したものとは評価することはできず有効である。