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国・あいりん労働公共職業安定所事件(平成27年4月16日大阪地裁)

概要

原告1及び原告2が、それぞれあいりん労働職安職員らに対して求職申込書の交付を要求したが、同職員らが求職申込書の交付をしなかったこと、及び、
原告3及び原告4が、それぞれあいりん労働職安職員らに対して提出した求職申込書を同職員らが受理しなかったこと
がいずれも違法な行政処分であり、各行為によって原告らがそれぞれ精神的苦痛を被ったと主張して、被告(国)に対し、各行為の取消しを求めるとともに、慰謝料等の請求をした。

結論

一部棄却、一部却下

判旨

あいりん労働職安は,労働職業紹介を分掌することとされており,労働職業紹介に係る求職の申込みがされれば,これを受理しなければならないところ,原告1及び原告2は,3及び4と日雇労働についての話もしていたことからすれば,労働職業紹介に係る求職申込書等の交付を求めていたものと認められるから,雇用保険の手続をしない限りは求職申込書等の交付をしないとのあいりん労働職安での取扱いの説明に終始して,求職申込書の交付に向けた手続を進めなかった行為は,求職申込書等の交付を事実上拒否するものであったというほかはなく,求職申込書等を交付しないことにつき正当な理由がある場合を除き,国家賠償法上違法なものというべきである。

被告は,あいりん労働職安が西成センターとの役割分担をしており,あいりん労働職安では職業紹介を実施していないことを前提に,被保険者手帳の発行手続と同時でなければ求職の申込みを受け付けないこととしているから,これに沿う3及び4の対応には国家賠償法上の違法はない旨主張するが、雇用保険法に基づく基本手当又は日雇労働求職者給付金を受給するためには求職の申込みをすることが要件とされているものの,これらの受給の申請等をすることは,求職の申込みをするための要件とはされていないことからすると,上記被告の主張には理由がない。そして,原告1A及び原告2のしようとする求職の申込みが法令に違反する等,本件各不交付行為に正当な理由があるとは認められないため、国家賠償法上違法との評価を免れない。

あいりん地区は,日雇労働者が流入する拠点となり,職業安定機関による職業紹介とは別に,日雇労働者を直接募集する自由労働市場が自然発生的に発展し,その規模は我が国で最大のものとなっていたこと,そのような中で,あいりん地区の労働面での対策の充実や福祉面での対策を図るため,大阪府と民間団体が中心となって西成センターが設置されたこと,昭和41年には,あいりん地区で相次いで暴動が発生したことを受けて,大阪府,大阪市及び大阪府警察本部があいりん地区対策三者連絡協議会を設置し,あいりん地区における治安,民生,労働等の対策を行ったこと,そして,昭和45年10月には,あいりん総合センターが建築され,あいりん労働職安及び西成センターは,あいりん総合センター内に移転したが,これは,求人者及び求職者をあいりん総合センター内に収容し,同センター内で直接募集を実施することにより,青空労働市場の解消に資することを意図して行われたものであったこと,同移転に際し,被告,大阪府及び大阪市等の関係機関で検討した結果,あいりん労働職安では,あいりん地区の労働者に対する日雇労働求職者給付金の認定及び支払業務,被保険者手帳の発行,労働相談を行い,西成センターでは,無料の職業紹介事業等を行うこととされたことが,それぞれ認められる。

このようなあいりん地区の特殊性や,あいりん労働職安や西成センターの沿革,あいりん総合センター建築後の両者の役割分担が定められた経緯等に鑑みれば,上記のようなあいりん労働職安と西成センターとの役割分担には一定の必要性及び合理性があったことはうかがわれるとともに,かかる役割分担を変更することは容易でないと推察される。

そして,あいりん労働職安があいりん総合センターに移転した昭和45年10月ころから既に40年余が経過しており,その間にあいりん労働職安において法令上行うことが義務付けられている業務について必要な組織及び設備等を整備すべきであったが,上記のような諸事情が存する上に,現にかかる組織や設備等の整備ができていない以上,あいりん労働職安の職員が,現状のあいりん労働職安の組織や設備等を前提とした対応をとることはやむを得ないものといえるのであって,本件各不交付行為が国家賠償法上違法と評価すべきものであるとしても,両名がかかる行為を行ったことについて,両名に過失が存するものと認めることはできない。したがって,原告1及び原告2に係る本件各不交付行為について,被告に国家賠償責任を認めることはできない。


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