孝生社大阪老人介護事件(令和1年8月30日大阪地裁)
概要
会社との労働契約に基づき会社の運営する老人ホームで勤務していた従業員らが、会社に対し、
従業員Aにおいて、
〔ア〕会社による夜勤の割当回数の減少につき債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求
〔イ〕賞与の一部不支給につき未払賞与請求又は債務不履行若しくは不法行為に基づく損害賠償請求
〔ウ〕年次有給休暇に対する賃金未払につき賃金請求又は債務不履行若しくは不法行為に基づく損害賠償請求の合計及び遅延損害金の支払
従業員Bにおいて、
〔ア〕時間外労働に係る割増賃金請求
〔イ〕会社代表者によるパワーハラスメントに係る安全配慮義務違反による債務不履行又は使用者責任若しくは会社法350条に基づく損害賠償(慰謝料)請求の合計及び遅延損害金の支払をそれぞれ求めた。
結論
棄却
判旨
Aは,Aと会社との間には,平成26年10月1日までに,会社がAの夜勤回数を月13回は保証するとの本件合意が成立していた旨主張するが,平成26年4月1日以降のAと会社間の労働契約書兼労働条件通知書のいずれにおいても,Aの夜勤回数に関する特段の言及はなく,他に本件合意の存在を示す客観的な証拠は存在しないこと等からすると,本件合意に関するAの供述に十分な信用性を認めることはできず,Aによる,夜勤回数の割当ての減少に係る債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求には,いずれも理由がない。
Aは,平成27年12月支給分として8万円の賞与請求権を有していた旨主張するが,平成27年3月16日以降のAと会社との間の労働契約における「会社の業績,個人の貢献度に応じ,処遇改善手当による賞与を年2回(7月,12月)支給する」との定めからすれば,具体的な賞与額は,会社の業績及びAの貢献度を踏まえた会社による査定を経て決定されるものであると解され,平成27年12月支給分の賞与についても,このような会社による査定を経て具体的な金額が決定されるものであり,同年7月31日支給分やそれ以前の賞与額が8万円であったからといって,当然にこれと同額の8万円の賞与請求権があると認めることはできないこと等から,Aによる,未払賞与請求及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求には,いずれも理由がない。
Aは,平成27年12月16日以降に消化した15日の年次有給休暇につき,夜勤の給与日額1万7500円に基づいて計算した賃金を支給すべきである旨主張するが,会社の就業規則46条5項は,年次有給休暇を取得した日に対する手当につき,通常の給与を支給する旨定めるところ,会社は,Aが取得したと認められる年次有給休暇に対する手当は,既に支給済みであると認められるから,Aによる,年次有給休暇に係る未払賃金請求及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。
朝礼における叱責・罵倒等について,会社代表者による各発言の日時や経緯は具体的に明らかではなく,Bの主張するような会社代表者による叱責や罵倒等の事実を認定することはできず,また,委託先医師の変更・引継ぎに係る罵倒等について,会社代表者による注意や叱責があったとしても,業務上の理由に基づく指導や注意であったと解し得るから,それが業務の適正な範囲を逸脱した違法な行為であったと認めることは困難であり,さらに,退職届の作成・提出の強要について,Bは,自ら退職の意思を持って,これらを作成し,会社に提出したものと理解するのが自然であること等から,Bによる,会社代表者のパワーハラスメントに係る安全配慮義務違反に基づく債務不履行又は使用者責任若しくは会社法350条に基づく損害賠償請求には,いずれも理由がない。