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パワハラに対する損害賠償請求、合意退職の錯誤無効確認が否定された例(平成26年11月28日東京地裁)

概要

コンピュータソフトウェア及びハードウェアの開発・販売・輸出入・保守管理等を行うことなどを業務とする会社(被告)を合意退職した原告(従業員)が、当該合意退職が錯誤無効である旨主張して、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに月額賃金等の支払を請求するとともに、被告を合意退職するまでの間に相当長期間にわたり被告からパワーハラスメントを受けたとして損害賠償の支払を求めた。

結論

棄却

判旨

元従業員は,平成20年4月以降,人事総務部長や上司から通院治療について苦情を受け,通院治療を中途で打ち切らざるを得なくなった旨主張しているが,元従業員の整形外科の通院治療の必要性については疑問があり,平成20年6月6日のMRI検査の結果,元従業員の右腕に異常がないことが確認されていること,元従業員の主治医からは,元従業員に対して「痛みは,あくまで主観的なものであり,これ以上医学的に調べる方法はない」旨の説明がなされていることが認められ,痛みの原因は主として心因性のものであると考えられること等から,労働者の職務専念義務の観点からは,なるべく通院の頻度及び時間を少なくするなどの配慮をすべきであったと考えられ,人事部長および上司の行為が,パワハラに該当するものとはいえない。
元従業員は,会社が元従業員の所属するテニス同好会に対して解散を検討することを余儀なくさせ,元従業員が同好会に今後参加しないようにするよう圧力をかけた旨及び会社が名古屋支社の内部において虚偽事実を流布又は放置し,元従業員の風評が広がる可能性を事実上容認した旨主張しているが,会社は,テニス同好会内のトラブルに対し,仲裁に入ったものにすぎないのであって,パワハラに該当するものとはいえず,また,虚偽事実を流布又は放置し,元従業員の風評が広がる可能性を事実上容認したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
元従業員は,会社による継続的な退職勧奨等を受けた旨主張し,具体的には上司が元従業員に対し,継続的な退職勧奨を行っていたと主張するが,そもそも上司が元従業員に対して退職勧奨をする権限を有していたことを認めるに足りる証拠はなく,むしろ,部下をいたずらに退職させるようでは管理職としての資質を疑われかねず,また,平成20年度の会社の業績は好調であったから,当該年度の段階では会社全体として退職勧奨の実施を検討する必要もなかったと考えられること等から,上司の言動が適正を欠くという程度のことであり,パワハラには該当しない。
元従業員は,会社の副社長が整理解雇の要件を引用して元従業員が整理解雇になると述べたため,元従業員は会社に整理解雇されるものと誤信して本件合意退職に至ったのであるから,本件合意退職は錯誤により無効である旨主張するところ,元従業員は,副社長との面談の結果,復職後元従業員にとって望ましくない上司の下で働く選択と,会社を退職する選択のうち,どちらを選択すべきか,との認識に至っていたことが認められるが,これと会社の経営不振に基づく整理解雇の話とは何ら関連性がないというべきであり,会社代表者から副社長に対する指示には整理解雇に関する言及はないこと,元従業員と面談後の副社長の会社代表者に対する報告においても整理解雇に関する言及はないこと,元従業員と副社長との面談の中で副社長が整理解雇という用語を用いたことはないこと等から,元従業員が整理解雇と誤信する状況があったと認められない。

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